【伝統を活かす店舗経営の極意】古くて新しい価値が顧客を呼ぶ|商業経営の原理原則 16.

伝統織物を現代のキャップへ再生したワンダーファブリック店主の今井氏。伝統技術と現代のライフスタイルを融合させ、国内外の顧客を魅了する店舗経営スタイルは、小売業における差別化戦略とブランド構築の好例であり、EEATを体現する象徴的な一枚です。

 「古くして新しきもののみ、永遠にして不滅」
 事業とは、いくら在り方が成熟していても、経営手法が革新性を失えば滅びる。一方、経営手法が革新的であっても、在り方が未成熟であればやはり滅びる。唯一、永遠にして不滅たりうるのは、時代のニーズをとらえた革新的な経営手法と、伝統に裏打ちされた在り方の組み合わせのみという、戦前からの教えを承継する商いの原点。

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伝統を今に活かす

「祖母が遺した形見のきものをうまく生かせず、捨ててしまったことがありました。そのもどかしさ、悔しさ、後ろめたさが僕の原点にあります」。

 こう語る店主の店があるのは、埼玉県本庄市。中山道六十九次最大の宿場町として各地から多くの人や産物が集中し、明治以降は生糸・絹織物の産地として栄え、遷都の候補地として推されたほどのにぎわいを誇った。

今は昔。商店街には空き店舗が目立ち、日を追うごとに廃業も進む。一方、かつての栄華の名残を感じさせる蔵や煉瓦造りの建物も少なくない。その一つ、旧中山道沿いの国登録有形文化財・旧本庄仲町郵便局にその店はある。

伝統の織物と
現代生活の融合

鶴や菊の和柄が施された伝統織物製キャップ。Wander Fabricのホログラムステッカーが、高品質と現代的なデザイン性を証左。日本のアイデンティティを現代のライフスタイルに落とし込んだ、高付加価値な商品開発の視点を示します。
細部に宿るアイデンティティと品質。一過性のブームに終わらない「体験」を提供する商品設計が、価格競争からの脱却を可能にします。

「歴史を身にまとう」

 旧郵便局の重厚なドアを開くと、色とりどりの帽子が出迎えてくれる。西陣織、桐生織、本庄絣、伊勢崎銘仙など日本各地のさまざまな織物でつくられた帽子がおよそ160個。それら一つひとつを手がけ、商うのが「ワンダーファブリック (W@nder Fabric)」の店主、今井俊之さんだ。

本庄市の隣町、上里町生まれの今井さんは本庄市内の高校卒業後、東京でファッションを学ぶ。2016年、都内でファッションブランド「ワンダーファブリック」を立ち上げ、オンラインストアを開業した。

「古着物、帯を仕入れ、手作業により解体を行い、水を通した独自のクリーニング方法でほこりや汚れを落とし、再度生地へ戻してキャップに仕立てます」というとおり、裁断から縫製まですべての工程を一人で製作する。日本古来の伝統技術や文化の結晶ともいえる織物と、私たちが普段の暮らしで身につける帽子の融合という原点には、祖母の形見を活かしきれなかった苦い思いがあるという。

2017年、2人目の子の出産を機に帰郷し、翌年に本庄市内に工房を設立。縫製技術とオンライン運営の向上に努めていると、ドイツから国営放送局がわざわざ取材に来た。「この商品を極めれば、県外や海外からでも時間をかけて来てくれるのではないか」と店舗併設のオープンな工房を構想、2023年3月、今井さんの思いは旧郵便局に結実した。数々の帽子が陳列された1階の景観は訪問客にとってまさに「ワンダー」というべきものあり、手つかずの2階には今後の事業展開に余地を残している。

「柄には、自然と共存していた日本のアイデンティティを感じられるデザインが施されています。草や花、山や雲、扇や鶴などの模様はすべてそれぞれの意味を持っています。かつて日本を鮮やかに飾った時代の空気感を活かして、今のライフスタイルに合わせて需要を生み出す。それが伝統織物文化を守ることにつながると思うのです」

今井さんはそれを「歴史を身にまとう」と表現。織物を素材とした帽子は最低でも1万円以上、金糸を織り込んだ織物を使うものだと価格は一桁以上上がる。それでも独自の価値を持つ商品は国内外に多くの顧客を持ち、大手セレクトショップからの引き合いも絶えない。

※専門家がお話を伺い、課題解決をサポートします。

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