
店員とともに栄えてこそ店は客のためにある
1994年、広島証券取引所に上場して間もない頃、かつての勤務先であるイオンの岡田卓也さんと『商業界』誌上で対談したときのことだ。そのとき、倉本長治の唱えた「店は客のためにある」は「店員とともに栄える」と続くことを知る。
これが、柳井が従来のチェーンスト理論と決別するきっかけとなった。柳井は言う。
「昭和の石田梅岩」「日本商業の父」と呼ばれた倉本長治。「師」と慕われ、日本の小売業史に名を残す多くの商人を育てる。ファーストリテイリングの柳井正もその一人である。
「業界や業種の境がなくなる時代を迎えた今日、従来のチェーンストア経営を超えた個店経営が必要になります。店は一店舗一店舗、お客様も立地も、背景にある文化も違います。だから一店舗一店舗の店長と社員が本部と一緒になって、個店ごとに最適の品揃えを実現して、地域のお客様に本当に喜んでいただける商売をしなければなりません。『店員とともに店は栄える』とは、本当にお客様の役に立っているのか、販売員が生き生きと使命感を持って仕事をしているかということです」(商業界2016年6月号)
ところで柳井は、2009年に「グローバルワン・全員経営」という理念を掲げている。店長はもちろん、社員全員が経営者と同じ意識と感覚をもって、自分の仕事を実践、全うするというものだ。「それこそまさに『店員とともに栄える』ということであり、私たちの挑戦はまだまだ続いていきます」と真意を語る。
「従業員とは、道具ではなく大切な家族。販管費やコストではなく、価値創造の担い手である」と倉本長治は言う。しかし、いまだに多くの経営者が従業員を道具として扱い、コストとしてみなしている。道具やコストに価値創造ができるはずもない。だから、あなたの事業は大成しないのだ。
さらに倉本は、従業員とは本来、自分と同じ心を持つ「第二の自分」と説く。だから、一人を見いだすためにも、育てるためにも、あたたかい愛情が欠かせないのだ。くすぶっていたM店長を本気で叱り続けた柳井の向き合い方にそれを見ることができる。
「人は、失敗を繰り返さないと成長しません。失敗するからこそ、考えることを学ぶのです。だから何度でも失敗してほしい。その経験を通じて学び、成長してほしい」と柳井は社員に言い続ける。それは自らもそうして成長してきたからだ。
店は店員とともに栄える——。ファーストリテイリングの成長がこの真理の正しさを証明している。そしてもう一つ、柳井が座右の銘としつつも、自らの執務室に掲げた額には書かれたかった教えがある。それについては、次回に譲ろう。
店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる 倉本長治の商人学
笹井 清範 (著), 柳井 正 (解説)
第一章 損得より先きに善悪を考えよう
第二章 創意を尊びつつ良い事は真似ろ
第三章 お客に有利な商いを毎日続けよ
第四章 愛と真実で適正利潤を確保せよ
第五章 欠損は社会の為にも不善と悟れ
第六章 お互いに知恵と力を合せて働け
第七章 店の発展を社会の幸福と信ぜよ
第八章 公正で公平な社会的活動を行え
第九章 文化のために経営を合理化せよ
第十章 正しく生きる商人に誇りを持て
執筆には、倉本が興した出版社・商人育成機関の「商業界」で長年にわたって商人の話に耳を傾け、現場・現物・現実に向き合い続けた筆者が取り組んだ。25年超4000社以上の取材を通じて出会い、学んできた商人たちのエピソードや教えを紹介しつつ、100篇の名言が意味するところと、事業や仕事への活かし方を解説している。
道徳観の欠落した商行為がたびたびメディアを賑わせる昨今。本書は混迷の時代に欠かせない羅針盤であり、すべての経営者が従業員とともに共有すべき “原理原則”を凝縮した。
※専門家がお話を伺い、課題解決をサポートします。


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