【この記事の概要】
「目標主義か?ノルマ主義か?」「多面評価で公平な評価?」多くの経営者を悩ませる人事評価
上司を悩ます部下の自己防衛本能。人事評価の歴史は「渦巻く金と欲望、試練の連続」と言えます。評価をしても結果につながらなかったり、大手チェーンで頻繫している問題の背景にあるのは人事評価の機能不正も一因と言え、「評価項目」や「評価方法」を変えてもうまく機能しません。ピープル・ビジネスにおける人事評価制度とは、“マニュアルに徹底的服従の日本人の姿にマイナスを感じた”米国本部の「日本式経営法への挑戦」から始まりました。人事評価の設計、マニュアル化やシステム化、そして、その教育や運用のすべては人がするのです。
人事評価制度の歴史とは、渦巻く金と欲望、そして承認欲求や自己防衛本能による試練の連続
これまで多くの経営者を悩ませた人事評価。マニュアル化やシステム化をしたとしても、その設計、作成や運用は人がするのです
人事評価制度の歴史を紐解くと、1930年代、アメリカから科学的管理法の一部として、その評価方法が導入されて広がり、1937年経営コンサルタント荒木東一郎による「人事考課表」が、1954年には経済学者のピーター・ドラッカーが著書で提唱した「目標管理制度*」などが採用されていきました。
1970~80年代にかけて、大企業を中心に人事考課の三要素*で人事考課が行われ、1990年代以降、成果主義や客観的評価のために上司の評価だけでなく、人事担当者、同僚や部下など、あらゆる立場から評価する多面評価(360度評価)が導入されました。
成果主義にはメリットの反面、運用実態から本来「従業員の自主性」で達成を目指す「目標主義」で、それは、あるべき値を会社が一方的に設定した「強制的、義務的な目標」である「ノルマ主義」の要素が強く、達成を執拗に迫られることで自爆営業といった粉飾、心身が追い込まれうつ病などの精神疾患を発症するなど社会的問題にまで発展するといったデメリットも。
多面評価では、実際に仕事ぶりを見ていない人たちが被評価者の評価をすることから、好き嫌いなどの個人的な感情移入による主観が加わり、本来目指すべき客観的評価ではなくなったため曖昧要素が排除できなかったり、モチベーションが低下したり、人間関係が悪化したりなどの問題点が露呈しました。
どんな制度でもマニュアル化やシステム化をしたとしても、その設計、作成や運用は人がするのです。
そのため、このように人事評価制度の歴史は、渦巻く金と欲望、そして承認欲求や自己防衛本能による試練の連続と言え、これまで多くの経営者を悩ませてきました。
◆目標管理制度*:[英]Management by ObjectivesでMBOと称し、個人や組織で目標を設定し、達成のためのアクションプランの進捗状況や目標の達成度で評価をする制度のこと
◆人事考課の三要素*:業績考課(遂行した仕事の量・質)、能力考課(仕事の遂行能力)、情意考課(仕事への意欲や勤務態度など)のこと
“マニュアルに徹底的服従の日本人の姿にマイナス”を感じた米国本部の対応
すべては「日本式経営法への挑戦」から始まった
店舗経営、ピープル・ビジネスにおける人事評価制度の歴史は、1950年から70年代にかけて米国からフランチャイズチェーンやチェーンストアが続々と日本に上陸*し、人事評価制度の原点は1971年7月20日、マクドナルド日本一号である銀座三越店のオープンから始まったと言えます。
良著『マクドナルド―わが豊饒の人材(ジョン・F. ラブ (著)、 徳岡 孝夫 (翻訳)』には、「藤田の協力で、アサハラは若くて創造力のある経営チームをつくることができ、因襲的な老人が権力を握る日本式経営法に縛られないよう注意を怠らなかった」とあります。
ここで言う「藤田」とは、日本マクドナルド創業者の「藤田田(「でん」と発音)」さんのことで、 「アサハラ」とは、当時、米国マクドナルド社の三代目社長兼CEOのフレッド・L・ターナー氏の腹心で、日本上陸にあたり米国本社から送り込まれた日本マクドナル運営部顧問で日系二世「ジョン・アサハラ」さんのことです。
日本マクドナルドは同時期に日本上陸した他チェーン店とは異なり、ハンバーガーという商品が経営パッケージやその運用方法とともに輸入されていました。
この日本上陸にあたり、米国マクドナルド社のターナー社長はマニュアルに徹底的服従の日本人の姿にマイナスを感じたことから、日本式経営手法を変えるために日本マクドナルド創業者藤田田氏のもとでアサハラさんが現場に目を光らせてピープル・ビジネスにおける店舗経営や人事評価制度の原型が築かれていきました。
後に、その概念を受け継いだ林俊範、その愛弟子の筆者が様々なチェーン店への人事評価制度の導入によって日本版ピープル・ビジネスの人事評価制度の構築がなされ、現在形にまとめられました。
・フランチャイズチェーンやチェーンストアが続々と日本に上陸した*(参照先)
ピープル・ビジネスにおける人事評価制度とは
人事評価制度の落とし穴。「評価項目」や「評価方法」を変えてもうまく機能しない
人事評価制度は、企業の目標達成のため、従業員の仕事ぶり、貢献度や成果などを総合的に評価し、報酬や待遇に反映、人員配置などの意思決定が主目的の制度のことと一般的には解釈されています。
ピープル・ビジネスでは、これらに加え「ピープル・マネジメント」や「パフォーマンス・マネジメント」の概念である人財育成や能力開発を含めた人的資源開発までを網羅しています。
人事評価の一般的な解釈と結果につながらない理由
人事評価は、企業や組織の目標達成や貢献度などを評価し、人財育成のための制度の一つで、企業が従業員一人ひとりの仕事ぶり、意欲、貢献度や成果などを総合的に評価し、企業の目標を照らし合わせ、給与や賞与などの待遇や昇進昇格、配置転換などに反映させる上での判断基準で、それによってモチベーションの向上や成長を促進させ、企業全体のさらなる業績向上につなげるための機会とされています。
しかしながら、人事評価制度の考え方や運用における実態は、目標達成や仕事ぶりは個々のパーソナリティ*に依存し、性格や人間性を変えようとしたり、規則やルールによって統制を図り改善を期待しようとしたが、なかなか結果に繋がらなかったのです。
そのため「評価項目」や「評価方法」を見直して問題解決を試みたり、中には報酬や待遇によって従業員のモチベーション向上や定着促進を図ろうとしたりなど、さまざまな改善を試みるもののなかなかうまくいきませんでした。
大手チェーンで頻繫している問題の背景にある人事評価制度
このように誤った人事評価制度の運用によって、人間関係が悪化したり、トラブルが発生したり、離職率が増大したり、平均賃金が上がり業績は反比例したりなどの問題に発展し、最悪の場合、衰退していく店もありました。
先述のノルマ成果主義や多面評価などの問題は「ピープル・マネジメント」や「パフォーマンス・マネジメント」の概念のもとで構築されたため、目標達成とプロセス管理の徹底とスーパーバイジングシステム*(経営者代行による分権経営、現場検証や監査)によって構築されたため特段問題はありませんでした。
それよりも人事評価でパーソナリティを変えようとすることから生じる多くの問題がのほうが問題になったのです。
また、昨今、大手チェーンで頻繫している問題の背景には、人事評価制度の機能不正があげられ、店舗監査や証憑類の現場検証や事実確認が不十分な中で人事評価をしている。つまり、事実の裏どりがない、表面的事象から店長の評価しているなどが一因と言えます。
◆パーソナリティ*:[英]personality・性格、個性、人柄,人格などの人間性の意。多種多様の概念があるが、人間の判断や行動のもとになる傾向や考え方のことで、生まれつきの性格や素質に、家族、周囲との人間関係や生活環境などの成長過程で次第に形成されるものとしている。
・スーパーバイジングシステム*(参照先)
・行動や習慣の上に成り立つ*(参照先)