理念経営の意義
理念経営とは経営理念を中心に据えて、すべての行動や考え方を経営理念に照らして行う経営を指します。
一般に経営理念は抽象的な表現を用いており、すべての業務やマネジメントに該当できるような表現をされていますので、下層職域や階層の人が適切に判断できるように、より具体的なフィロソフィーやバリューといったものも含めて理念と解釈します。
なぜ理念経営は素晴らしい経営と言われているのか?
稲盛和夫さんの枠組みから学ぶこと
まず私の師である稲盛和夫(以下、稲盛さんと略)さんの枠組みをお伝えします。
稲盛さんの経営は仏教哲学がベースです。そのため「私の経営はお釈迦様が説かれているものでしかありません」という表現をされています。
ですから、私は稲盛さんを理解するために仏教を真剣に勉強して、仏教の世界観を理解して稲盛さんが説かれている哲理を理解するように努めました。
では仏教の説く世界観とは何でしょうか?
これは難しいですが「この世界は無である」というのが仏教が説く世界観です。
皆様は「色即是空」という般若心経の一節をご存じでしょうか?
色とは「形のあるもの」であり「空」とは実態がない変化するもの」を意味します。つまり我々が実在すると思って接している、この世界のすべての形あるものはここでの「色」に当たり、それは「空」すなわち実態がない幻想のようなものだ。という考え方です。
そして実態があるのは「心」であり、この世界は実態がある心が表れている結果であり、原因が心で結果がこの世界に現れているすべてですので、心を変えない限り実態である世界は変わらないという考え方です。
「経営のノウハウは教えません」と説く稲盛和夫さんから学ぶこと
稲盛さんは、なぜこのようなことを言われたのでしょうか……
それは、「全責任を負う経営者の心次第であり、経営者が心を変えない限り経営はうまくいかない」と考えるからです。
したがって稲盛さんはご自身の弟子の会である「盛和塾」で「私は経営のノウハウは教えません。なぜなら意味がないからです。私が教えるのは実態を形成する心の在り方だけです。したがって盛和塾では“心を高める経営を伸ばす”という方針で学びを深めていただきます」
と言っておられました。
つまり経営者の心の在り方が経営すべてに現れるという考え方で理念経営は構成されるわけです。
経営理念は誰が作るのか
経営理念とは経営者の「踏み絵」
全責任を負う経営者がいわば「踏み絵」に当たるツールとして経営理念を活用するわけです。
よって、経営理念は全責任を負う経営者が作る必要があります。
その内容は自分が命を懸けて「こうありたい」と思う考え方や行動規範をまとめたものであり、それを全社員に自ら範を示すと共に、全社員と協力してそれを目指すことが大事です。
なぜ経営者が作らなければいけないのか
経営理念に従った行動であれば不問に帰す
先ほどのテーマと関連しますが、経営者が全責任を負える考え方ですので「踏み絵」的に使う必要があるのです。
つまり「経営理念に従った行動であれば不問に帰す」ということです。言い方を変えると社員は経営理念に従った行動をとれば、社長がいくらミスをしてもすべての責任を取ってくれるということを意味します。
ですから社長は「こうすれば全部自分が責任を負ってもよい」というものを経営理念で示し、社員は経営理念に従って行動すればその会社では安全なのです。
米国発のグローバルチェーンの事例
グローバルチェーンも同様で「リスクの小さな失敗は許す」ということを前提にしています。なぜなら、部下に権限委譲して業務をしてもらうわけですから、失敗をした人ではなく、権限委譲をした上司の問題だからです。
また、ミスをした本人が一番つらい思いをして、次はミスをしないように考えているので、経験から学ばせて成長させることも重要だからです。
しかしながら、ミスや失敗を見つけると犯人(張本人)を探し、ダメ出しや失敗を咎(とが)めたり、怒ったりして追い込んでいませんか。そのようなことをしたところでミスや失敗は無くなりません。
むしろ、そのプレッシャーからミスや失敗が誘発され、逆に増えることになります。さらには、人間関係を悪化させて、職場の雰囲気も悪くなるため、最悪、部下や他の人たちは退職してしまいます。
ミスや失敗をした本人や上司にできることは、やり直して元の状態に戻すことと再発防止。この二つしかありません。
そして、例え、部下がミスや失敗をしたとしても、背後から社員や先輩が見守ってくれ、フォローしてもらえる安心感から、ミスや失敗を気にしないでチャレンジすることもできますし、プレッシャーからも解放されるので、表情は穏やかな自然な笑顔になり、ミスや失敗も減り、生産性も向上して、職場の雰囲気も良くなります。
さらに、先輩らのその表情や姿を見て「私もあのような人になってみたい」と思うことから信頼関係が育まれ、人が自然に育っていくようになり、人が定着し、紹介による新規人員の確保も可能にします。
ピープル・ビジネスでは、これを指してワーキングコンディション(労働環境)の改善による人の安定化と呼んでいます。
このベースはあくまで経営理念にあり、従業員が実践していることが共通点と言えます。
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