(最新版)人を大切にする経営「京セラフィロソフィー」紐解き講座 1.経営理念とは何か

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【この記事の概要】
 理念経営の真髄!稲盛和夫さんの経営塾「盛和塾」や「倫理経営」などを徹底研究 「経営と人の真理の真髄」を紐解きます
 
経営を行うに際して経営理念の重要性は歴代の名経営者たちが「最重要なもの」と位置付けています。そのため、皆さんも一定の理解と重要性の認識を持たれていることだと思います。本連載ではピープル・ビジネスが最重要と定義づけている経営理念に関して稲盛さんの考え方を中心に7回にわたりご説明し、改めてその重要性を皆様と共有できることを目指します。

この記事の目次

はじめに 本連載の目的

 経営を行うに際して経営理念の重要性は歴代の名経営者たちが「最重要なもの」と位置付けていますので皆さんも一定の理解と重要性の認識を持たれていることだと思います。このコラムではピープル・ビジネスが最重要と定義づけている経営理念に関して稲盛さんの考え方を中心に7回にわたりご説明し、改めてその重要性を皆様と共有できることを目指します。

経営理念の意義とは

 経営理念とは経営における憲法に当たる最高概念であり、企業が目指す規範です。何事でもそうですが、ゴールイメージを明確にすることで、企業に集う人々のベクトルを合わせることが出来ます。経営理念はその際の最高概念に当たります。

企業は目的志向集団です。つまり事業目的としての存在意義が定款に記載されてその目的を達成するために組織が形成されて人を集い、業務を設計し、分業体として共通目的である事業目的を誰もが達成するべく協働して目的達成を目指します。例えば、従業員が100名いれば、100通りの考え方や感情があります。そこで最も大切に思われる哲学が経営理念です。

稲盛和夫氏の説く「京セラフィロソフィー」とは

稲盛和夫(以下、稲盛さんと略)さんはどのように考えられたか?

 稲盛さんは「経営において経営理念が最重要だ」ととらえておられますが、稲盛さんの事業に対する哲学が反映されています。

つまり「事業目的は経営者も含む全従業員を幸せにすること以外にはない」との考え方を経営理念が反映しています。人間が生まれてきた意義は「成長するため」「魂を磨くため」ですが、その目的を働くことを通じて全従業員が社会貢献、仲間への貢献を果たして感謝され得る自分に成長することで幸せを感じられることを目指すのです。ですから具体的には「全従業員の物心両面の幸せを追求するとともに、人類社会の進歩発展に貢献する」とされています。

経営理念と類似する考え方との関係

経営理念と類似するものに、社是・社訓、ミッション、ビジョン、フィロソフィー、クレド、バリュー等の関係

 多くの会社を拝見していますと、どこかから調達してきた経営理念や類似するものが混在しており、体系がぐちゃぐちゃになっているのをよく見受けます。その状態を避けるためにここではこれらの関係性や意義を整理してみたいと思います。

1 社是・社訓

 社是は会社の在り方ですので経営理念に当たる概念です。社訓は行動規範に当たります。したがって社是・社訓はこの二つでセットになっており経営理念とは併用せずにこの二つで活用するのが良いでしょう。
しかし稲盛さんは経営理念の上位概念として社是を導入して出身地の鹿児島の偉人である西郷隆盛の「敬天愛人」を定めておられます。ですから一概に相いれない別体系とも言えません。

2 ミッション

 使命に当たります。会社が存在する意義に当たりその会社独自の作り出すべき独特な価値を示します。英語での表記でありミッションを使う場合はミッション、ビジョン、フィロソフィーあるいはバリューとの組み合わせがしっくりきます。ミッション自体は経営理念に相当する概念です。
もし経営理念と併用する場合は敷いてあげれば経営理念が上位概念でありミッションはその一段低い概念に当たると思います。

3 ビジョン

 ミッションを追求していきつくゴールイメージがビジョンです。これは中長期的なゴールイメージでありそれを聞いた人が誰もが同じようなゴールイメージを持つことが出来て「ワクワク・ドキドキ」する魅力的なイメージを抱かせてくれるものである必要があります。

有名な例として古い例ですが日本電気の「C&C」があります。これはコンピューターがまだ巨大な機会であった時代に、日本電気が目指す世界は「コンピューターでコミュニケーションができる世界の創造」だとしてConputer&Communicationの頭文字をとってビジョンとしました。これは技術者が開発すべき方向性を示しており方向性が明示されますし、そのような時代の創造に自分がかかわれるのだと動機づけにもつながるので良いビジョンだとされました。

4 フィロソフィー

 哲学の意味でありビジョンを達成するための考え方や行動規範に当たります。この内容は具体的なもので社員が仕事をする際の判断基準になるツールになります。稲盛さんは経営理念を具現化するための道具としてフィロソフィーを活用して「全社員が共有してすべての判断や行動に際して意識して活用すること」とされました。

5 クレド

「わが信条」として経営者の考え方で社員に共有していただきたいものを記したものです。欧米の会社でつかわれているもので具体性がありかつ抽象的な考え方も含むことから経営理念とフィロソフィーを合わせたようなものになっています。

6 バリュー

 価値にあたりますが、企業活動で何を価値と考えてどのような行動や考え方を通じて価値を得るかを示したものです。フィロソフィーに該当する代物だと思います。考え方の体系として社会と組織に分けて対社会概念としてミッションがあり対組織概念としてビジョンとバリューを定義している考え方もあります。これらは特に何が正しいということはなく各会社でしっくりくる体系でまとめればよいのだと思います。

経営理念に関する稲盛和夫さんのエピソード

経営理念の重要性を理解していただくために稲盛和夫さんが言われているエピソードを3つ紹介

電話 ガラケー

その1 NHKテレビでのアナウンサーに対する稲盛和夫さんの対応

 稲盛さんの経営を紹介する講座で経営理念の重要性を十分話されたことに対してアナウンサーから以下の質問がありました。「経営理念の重要性は分かりましたが、もし経営理念に沿った行動をするならば会社がつぶれるとしたらどうされますか?」という質問に対して、けげんな顔をされて「そのようなことは本来ありませんが」と前提を置かれたうえで「私はこの考え方で経営をすることを説いていますのでもしそのようなことになれば経営理念に従った行動をとり会社がつぶれても仕方ありません」それほど経営理念は重要です。と答えられました。

その2 第二電電を立ち上げられた時のエピソード

 これは稲盛さんのセラミックでの成功に対して、人は稲盛さんがセラミックに関して深い技術と見識を持っていたから成功したのだと世間では見られていました。しかし稲盛さんは京セラの成功はフィロソフィー(経営理念)によると考えられており、そのことをいくら言っても世間が信じてくれなかったのでそれを証明するために技術は素人に等しい電気通信の分野で「動機善なりや私心なかりしか」という経営理念を掲げてフィロソフィー経営を実践することで第二電電の経営を成功されました。

そして稲盛さんは、その成功で経営理念の重要性を証明されたのです。これはJALの再建でも同様です。JALではフィロソフィー経営で見事に再建を成功に導かれました。実際に再建の過程でJALではフィロソフィーの自主勉協会がいたるところで発生していわば社風としてフィロソフィーの共有化が図られました。

その3 稲盛和夫さんが京セラの取締役を降りられた時のエピソード

 稲盛さんはフィロソフィーが経営での最重要事項だと考えられていることから、フィロソフィー教育を最重要と位置付けて社内で部長さんが講師となって定期的に稲盛さんの講演ビデオを教材として血肉化を図られていました。

そしてそれが定着したことを見届けて取締役を降りられました。その際「フィロソフィーが潰えるときに京セラは潰える」という言葉を残して引退されました。それほどフィロソフィーを重要視されていたのです。

「経営の神様」松下幸之助さんのエピソード

 稲盛和夫さんより先に「経営の神様」と言われた松下幸之助さんは「経営の最短距離」として経営理念を位置付け松下幸之助さんは経営理念を「経営者が命を懸けて追及できる考え方」として経営理念を位置付けておられます。そして経営の成功は経営者がただ一人自分の人生の目的を経営に見出してそれを理念化できたときに経営は成功が約束されると考えられて「経営成功の最短距離は経営者が経営理念を悟ること」だと定義されました。

そして「経営者が経営理念を悟れば経営は50%成功する。そしてそれを社員が共有できればさらに成功確率は30%高まる」とされました。つまり経営理念以外の要素はたったの20%しかないことになります。ということはいわば経営は経営理念で決まるということになります。

米国から日本上陸したグローバルチェーンの経営理念事例

米国から日本上陸した大手グローバルチェーンの経営理念を比較

セブンイレブン コンビニエンスストア

 米国におけるチェーン成長の背景には、店舗展開に必要な人財の確保が必要でした。そこで、年齢、言語、宗教、学歴、経歴、趣味嗜好や価値観などの属性や多様性の異なる人を確保して育成を可能にするビジネスモデルを開発したのです。

このように多様な人達をまとめて、結果を導くためには、

・人間とは、自分自身のことは分からないように脳ができている」が前提のもと、

・「誰が正しいかでは無く、何が正しいか?」が判断基準です。

・その判断基準とは「理念と事実」です。

経営をまったく知らないパート・アルバイトや新入社員やであっても、入社初日から経営理念が実践できるのです。以下にその事例を紹介します。

セブンイレブン

 1973年11月ヨークセブン(セブンイレブンジャパンの前進)設立。米国サウスランド社(現7-Eleven,inc.)とエリアサービスおよびライセンス契約締結し、国内でのセブンイレブンの歴史が開始。1974年5月に歴史的な「セブン‐イレブン第1号店豊洲店(東京都江東区)」がオープンし、現在まで基本4原則を忠実に実行し、お客様に愛される店づくりが要求されています。

  • 品揃え
  • 鮮度管理
  • クリンリネス
  • フレンドリーサービス

マクドナルド

1971年7月創業当時からの経営理念はQSCVで、現在では外食産業のスタンダードになっています。

  • Q:Quality(品質)
  • S:Service(サービス)
  • C:Cleanliness(清潔さ)
  • V:Value(付加価値)

ディズニーランド(ディズニーテーマパーク)

 1983年4月東京ディズニーランドがオープンした時から現在までパーク運営の4つの鍵「SCSE」。 “SCSE”の優先順位を守り行動することによって、ゲストにハピネス(幸福感)を提供することができます。

  • 優先順位 1. Safety(安全性)
  • 優先順位 2. Courtesy(礼儀正しさ・親しみやすさ)
  • 優先順位 3. Show(ショー)
  • 優先順位 4. Efficiency(効率)

このように、各グローバルチェーンの経営理念はシンプルかつ明確で覚えやすく、実践しやすく設計されていることが大きな共通点の一つなのです。

経営理念のシンプル化と業務やマネジメントと連動した背景

 企業理念とは別に、経営理念はシンプルかつ明確で、その理念を基にビジネスモデル、オペレーション、経営システムや人事評価までの全て連動していてトータル・マネジメント・システムと呼んでいます。

そのワケは、前述の通り性別や人種の違いに限らず、年齢、言語、宗教、学歴、経歴、趣味嗜好や価値観などの属性や多様性の受け入れが必要で、多様な人財の積極的登用と活用によって組織の生産性や競争力を高めることで経営差別化戦略の推進を図りました。

それはダイバーシティと呼ばれ、1960年代の米国において、経営理念を現場に徹底させるためには、経営理念を現場に覚えさせ、実践させ、評価しなければ人財開発も定着促進も出来ないと言った背景から、経営理念はシンプル化し、トータル・マネジメント・システムが誕生したのです。

日本ではこれらの経営理念を朝礼で唱和している姿を見かけます。ディズニー、マクドナルドやセブンイレブンとの大きな違いは、経営理念が従業員の行動ベースまで落とし込みがなされているので、的確な実践や行動によって、お客様満足度も売上や利益も向上して、ひいては人事評価制度とも連動しているので評価されることで従業員満足度も向上する点にあります(詳細は別記事を参照ください)。

まとめ

 今回は経営理念の意義をわかりやすいように稲盛さんと松下幸之助さんのエピソードやグローバルチェーンの事例を交えて説明しました。古今東西の名経営者が口をそろえて経営理念の重要性を説いておられますが、一般には実感としてその重要性が理解されていません。それは非常に残念なことですのでエピソードで説明することで理解して頂く工夫をしました。少しでも皆様にお役に立てれば幸いです。

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