【この記事で分かること】
商圏や顧客のニーズを理解し、効果的に売上を伸ばすマーケティングと販促の戦略と戦術。
本マニュアルは、店長が自らの手で店舗の売上と利益を最大化するための実践的なノウハウを提供します。売上を「客数×客単価」という基本公式から因数分解することで、新規顧客獲得、リピート率向上、客単価アップなどの戦略立案から店内サービス、店内販促、店外販促の3段階に分けた戦術と、企画、準備、実行、評価の「4つの力」を駆使し、投資対効果から継続的に売上改善をする方法を解説します。
店長に求められる「自分の食い扶扶は自分で稼ぐ」こと
店舗経営における最重要課題は、やはり売上と利益の確保に尽きます。自分の給与や待遇はもちろん、店舗の存続のためにも、「自分の食い扶扶は自分で稼ぐ」という意識を持つことが、今ほど重要になっている時代はありません。
不安定に見られがちな店舗経営ですが、最前線で経営の経験を積むことができる、これ以上ない貴重な機会でもあります。損益計算書などの理論を机上で学ぶだけでなく、自らの力で売上を獲得する経験を積むことで、1円の重みと、その厳しさと難しさを身をもって知ることができます。
これは、中国の老子の言葉「授人以魚 不如授人以漁」(魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ)が示す通りです。本社本部の「ナショナルレベル・マーケティング」に頼るだけでなく、店舗独自の「ストアレベル・マーケティング」を実践することで、真の経営者としての力が養われます。
『【最新版】店長マニュアル 2-3.損益管理(実践編)|数字を利益に変える、「儲かる」店舗の損益管理術』で紹介したように、売上の公式は以下のように極めてシンプルです。
売上=客数×客単価
この公式をさらに因数分解し、売上増大の戦略を明確にします。それぞれの要素を戦略的に増やすことが、店舗の収益を最大化する鍵となります。
本マニュアルでは、この店舗マーケティング(ストアレベル・マーケティング)を通じて、売上増大の公式を徹底的に活用し、店舗の持続的な成長を実現するための実践的な戦略を解説します。
売上を飛躍させる3つの要素と3段階の活動
売上を最大化する鍵は、単純に客数を上げるか、客単価を上げるかのいずれかです。より具体的には、以下の要素をバランス良く強化することにあります。
客数を上げる方法
- 新規顧客の獲得
- リピート頻度を上げる(固定客化)
- 同伴者数を増やす(グループ客の獲得)
客単価を上げる方法
- 販売点数を増やす(トレードアップ)
- 販売単価を上げる(グレードアップ、サイズアップ)
これらの要素を基に、自店舗の特性から店舗マーケティング(ストアレベル・マーケティング)実施の目的を明確にし、戦略と戦術を組み立て、計画的かつ継続的な販売促進の実施により売上増大が可能になります。
各要素を最大化する「3段階」の活動
これらの要素を飛躍させるには、場当たり的な対応ではなく、以下の3つの段階に分けて販促活動を実施することが重要です。このフレームワークは、本社本部の「ナショナルレベル・マーケティング」に頼るだけでなく、店舗独自の強みを引き出すための実践的なノウハウです。
第1段階:店内サービス向上活動(固定客化・客単価向上)
【目的】
お客様満足度と従業員満足度の向上を通じて、良い店舗イメージを創出し、お客様の固定客化とリピート頻度のアップにつなげること。
【具体的活動】
お客様への気配りや、混雑時のスムーズな案内、店内清掃の徹底など、お客様が快適に過ごせる環境づくりが中心です。一度来店してくれたお客様に「また来たい」と思ってもらい、リピーターになってもらうための重要なステップです。この土台があってこそ、会員制度の導入やSNSを通じた継続的なコミュニケーションが、より効果的に来店頻度を高めることができます。
第2段階:店内販売促進活動(客単価・客数増大)
【目的】
来店客の販売点数や販売単価を増やし、店内売上をアップさせる。
【具体的活動】
POP活動や店内イベントを推進します。店舗経営におけるPOP(Point Of Purchase)は、単なる広告ツールではなく、お客様が商品を手にした瞬間に価値を訴求し、購買意欲を高めるための活動全般を指します。また、お客様が検討している商品よりも高価で価値のある商品(アップセル)や、関連性の高い商品(クロスセル)を積極的に提案することで、自然な形で客単価を向上させることができます。
客単価を向上させる「おすすめ(推奨)販売」
以下に紹介する推奨販売の4大原則を意識し、お客様に最適な商品やサービスの提案から、客単価だけでなく、お客様の満足度も向上させることができます。
- おすすめ(推奨)販売の4大原則
1. お客様満足度の向上:「より美味しく召し上がっていただく」ために、お客様のニーズに合った商品を提案し「お客様満足度を向上」させ、固定客化を図ります。
2. 買い忘れの防止:関連商品を提案することで、「そういえば、これも必要だった」といった買い忘れを防ぎ、お客様満足度を高めます。
3. 商品・サービスの認知:新商品や人気商品をおすすめすることで、お客様に新商品認知の機会を提供することができ、追加購入や再来店につなげます。
4. 客単価アップ:お客様にとって価値のある「プラス1品」の提案により、自然な形で客単価アップをすることができます。
つまり、客単価アップはお客様満足の結果ととらえることが重要と言えます。
【実践例】マクドナルドのバリューセット誕生裏話
マクドナルドが日本に上陸した1970年代、バーガー、ポテト、ドリンクをセットで食べる文化はまだなく、ほとんどのお客様はハンバーガーなどの単品を購入していました。
マクドナルドは、よりお客様に食事を美味しく楽しんでいただくため、「ファストフード」ではなく、『クイックサービスレストラン(QSR)』として、お客様により良い食事体験を提供するため、おすすめ(推奨)販売を徹底し、パート・アルバイトでも実践できるようにルール化しました。
おすすめ(推奨)販売のルール
おすすめは一人のお客様に1回までというルールで下記を徹底し、実施率は「三人に一人」を目標に実施しました。ちなみに、おすすめが1回の理由は、1回を超えると押し売りの印象を与え、お客様を不快にするためです。
- バーガーのみ購入のお客様には、ドリンクをおすすめ
- バーガーとドリンクを購入のお客様には、ポテトをおすすめ
- バーガー、ドリンク、ポテトを購入のお客様には、アップルパイなどのデザートをおすすめ
このおすすめ販売を徹底した結果、バーガー、ドリンク、ポテトをセットで食べる習慣が定着していきました。そして、この新しい食文化が根付き、なんと日本上陸から23年後の1994年にバリューセットが導入されたのです。
今では、セットで食べることが当たり前の文化になっています。
この事例は、単なる客単価アップだけでなく、お客様への価値提供を追求することが、結果として大きな成果につながり、最終的に習慣化されることを示しています(スペーシング効果:間隔反復法による長期的な記憶による習慣化)。
第3段階:店外販売促進活動(新規客獲得)
【目的】
店舗の存在とイメージを地域に浸透させ、新規顧客の開拓と既存客の掘り起こしを実現します。
【具体的活動】
競合対策と商圏内見込み客の発掘を中心とし、デジタル施策とオフライン施策を組み合わせます。ウェブ広告やSNSを活用して店舗の露出を高めたり、Googleマップ検索での上位表示を目指すMEO対策は、地域密着型の店舗にとって特に効果的です。
また、アナログ施策であるチラシやクーポン券の配布、他業種とのタイアップも有効な手段です。お客様に「誰かに教えたくなる」ような体験や価値を提供し、ポジティブな口コミを自然に広げてもらうことも、新規顧客獲得に繋がります。
計画的な実行を支える「4つの力」と「投資と回収」の視点
販売促進活動は、闇雲に実行しても効果は薄いものです。真の経営者としての力を養うためには、以下の4つの力を身につけ、活動を「見える化」することが成功への鍵となります。
計画的な実行に不可欠な「4つの力」とチェックポイント
店長には、以下の4つの力が求められます。これらを活用し、定期的にチェックポイントを確認することで、活動の質を飛躍的に向上させることができます。
実施ステップ・スキル | 概要 |
---|---|
企画計画力 | 自店舗の強みを活かし、競合店と差別化するための戦略を立てる力。 |
準備力 | 企画を実行に移すために、必要なツールやリソースを整える力。 |
実行力 | 計画通りに、現場で施策を確実に実行する力。 |
評価力 | 施策の効果を客観的に測定し、次の改善に活かす力。 |
効果測定(投資と回収)
販売促進活動は、単なるコストではなく、未来の売上を創出するための「投資」です。そのため、実施するすべての施策について、その効果を客観的に測定する視点を持つことが重要です。
- 投資: 売上増大のための販売促進に必要な費用総額(例:チラシ代、商品割引金額、景品費、人件費など)。
- 回収: その販売促進によって獲得した売上(この回収売上をAOS「Add on sales」と呼んでいます)。
この2つの視点で投資効率(ROI:Return On Investment)を算出し、ROIが100%以上であれば、その施策は「やるべき」と判断できます。
この「投資と回収」の視点を持ち、実践できることが、店長として販促活動実施における必要なレベルと言えるでしょう。
【実践例】データ分析が導いた、マッサージチェーンの成功
あるマッサージチェーン店では、新規顧客開拓のためチラシのポスティングを重点的に行っていましたが、思うような結果が出ていませんでした。そこで、顧客カルテから「居住地域」と「認知経路」を分析しました。このデータ分析が、隠れた課題を浮き彫りにしたのです。
【判明したこと】
- 店舗に近いお客様は「店頭」を見て来店。
- 店舗から遠いお客様は「チラシ」を見て来店。
この分析から、チラシの効果は出ているものの、肝心の店舗の「視認性」と「接近性」に問題があることが明らかになりました。店の入り口が閉鎖的で、放置自転車が通行の邪魔をしていたのです。
【改善策】
- 視認性改善:のぼり旗や看板を設置。
- 通行障害の改善:行政に依頼して放置自転車を撤去。撤去後も放置があったため、店舗外の清掃、視認性の確認と乱雑に駐輪されている放置自転車をひたすらきれいに並べて整理整頓を徹底し、通行人に店舗の「管理された印象」をアピール。
- チラシ配布の最適化:新規開拓に焦点を当て、アクセスしやすく生活動線上に位置する地域に限定して配布。
【結果】
3ヶ月の活動の結果、放置自転車はほとんどなくなり、チラシを見て来店するお客様が増加しました。販促活動は、このような現状把握と改善計画が一体となって初めて、大きな成果に繋がります。
販促は「継続的な投資と回収」
今回は、売上増大の公式「客数 × 客単価」を基軸とした「ストアレベル・マーケティング」について解説しました。
- 販促は「投資と回収」:単に費用をかけるだけでなく、販促で獲得した売上がその効果として測定し、次へと繋げましょう。
- 「3段階」で販促を考える:店内サービス、店内販促、店外販促と段階的に活動することで、効果を最大化できます。
- 「4つの力」を養う:企画、準備、実行、評価の力を身につけ、自らの手で売上を創出しましょう。
「自分の食い扶扶は自分で稼ぐ」という意識は、まさにこの「ストアレベル・マーケティング」を実践することに他なりません。
販売促進によって集客に成功したあなたにとって、次のステップでは、売上を増大させるための「商品」が不可欠です。どんなに集客で成功しても、商品が欠品していれば、お客様の信頼は一瞬で失われてしまいます。
そこで、在庫切れや過剰在庫といったロスを防ぎ、売上を最大化するための「商品管理」について、次回の「店長マニュアル2.10のマネジメント知識(8)商品管理」では、販促活動をさらに加速させるための重要なエンジン、在庫を利益に変える具体的なノウハウを詳しく掘り下げていきます。


