繁盛動線を攻める
JR新宿駅から東に向かって7、8分も歩くと「新宿御苑」という大きな公園に着きます。この公園、春の桜見シーズン、土日祭日ともなると大勢の人達が、新宿駅からこの公園の門にかけてゾロゾロと列をなして歩いていく姿を見ることができます。
もちろん、“ゾロゾロ歩く”だけでしたら、新宿駅の西口でも、平日の毎朝、毎夕見られる通勤の光景なので、とりわけ珍しくはありません。
しかし、この御苑の行列は、“レジャー動線”であると同時に“繁盛動線”でもあるのです。つまり、仕事で働くために行き交いする通勤の行列とはまったく異なります。
「新宿御苑」は、そうした“おいしい”動線を作り出す「交通発生源」と言えます。
どの「屋台」も大繁盛。たこ焼きやら、かき氷やら、とにかく飛ぶように売れる。こういう立地に店を出せればまず失敗間違いなしでしょう。
優良立地の基本『TG』
街中には、こうした“おいしい”動線を作り出す「交通発生源」が至るところにあります。これを見つけることが、あなた、店長・経営者の大事なお仕事なのです。
この交通発生源は、トラフィックジェネレーター(Traffic Generator)の日本語訳で、通常は、TG(ティージー)と呼んでいます。「ティージー」を必ず覚え、いつでも言えるようにしてください。良い立地を探そうとするならば、何をおいてもTGが最も大切です。
ポイントは、お店の近くにTGがあることです。これが、立地上たいへん優位なことになります。もしTGが複数あるならば、そのTGとTGの間に、日常行動線(これを略して「動線」と言います)ができ、これはもっと優位な状況です。
TGの種類
1 都会にあるTG
さて、このTGですが、都会では、「鉄道駅」がその一番影響力が強いTG(図2)です。駅は都会にはなくてはならない交通手段で、朝は5時前後から、深夜の1時ころまで人々が利用しています。しかも、駅を利用する人は、それこそ大人も子供、男女を問わず、無職の人もいれば富裕層の人もいる、およそどんな人もいます。
したがって、駅の周囲に店を出すと、たいていの業種業態の店が繁盛することができます。駅に近ければ近いほど立地は優位でもあります。すでに殆どの日本の主要な駅前は、チェーン企業によって占められていると言って過言ではないでしょう。
TGの2番目は、大型の商業施設です。たとえば、百貨店(図3)や大型スーパー(図4)、ディスカウントストア(図5)、ホームセンター、家電量販店(図6)など大勢の人が出入りする商業施設は、みなTGです。こうした商業施設の場合、その出入口付近がもっとも人々が集まるので、見逃せません。
ただし、商業施設には来店する人が限られています。就業者や通学中の学生はめったに出入りしません。また、コンビニなどの小売店にとっては、売っている商品が重複することがあるので、むしろ、競合相手になる場合もあります。
商店街(図7)もTGになることが多いのですが、商店街は道路に沿って形成されるので、あちこちに出入口ができる(図8)ことがふつうですので、人々がとりわけ集中する場所は多くはありません。
また、冒頭に挙げた大きな公園も、「人々がたくさん集まる場所」という意味では、TGに違いありません。さらに、大学や専門学校、予備校などもTGですし、大きな総合病院や体育館、競技場、競輪・競馬場、文化会館や野球場、サッカー場などおよそ人々が集まりそうな施設はみなTGなのです。
2 住宅、オフィス街にあるTG
施設でないTGがあります。それは「交差点」です。なかでも、道路どうしがいくつか集まってくるような交差点が、良い立地になるTGです。コンビニが多くの場合この交差点周囲に出店しているのは、交差点が人々の集まりやすいTGであることを知っているからです(図9)。住宅街やオフィス街には、商業施設や駅などがなくても「交差点」というTGがあるのです。
3 ロードサイドにあるTG
ロードサイドでも、上記のTGは重要です。それらに加えて、ロードサイドに特有なTGがあります。その中で強いTGは、国道や都道府県道が大きな河川を超えるときに通る「橋」です。地域の人々が河川を渡るときには、この特定の橋を必ず通らなければならないので、車に乗ってこの橋というTGに集まってくるのです(図10)。
高速道路やバイパス国道のような交通量の多い幹線と一般道路を結ぶ、インターチェンジもTGとしての強い働きがあります。
4 ショッピングセンターの中のTG
ショッピングセンターそのものが人々を呼んでくるTGなのですが、その中にもいくつもTGがあることをご存じですか。駐車場から施設に入る出入口、エレベーターやエスカレーターの前、休憩所やトイレ、或いはフードコートの出入り口、映画施設や大型テナントの前などがそうです。そこには、人々が集中します。こういう場所が良い立地です。
動線について
多くの人達がTGとTGの間を行動するような場合がありますね。この行動する跡のことを、「TG間動線」、簡単に「動線」というのです。
大きな道路があって、信号待ちをするような場合、その横断歩道も「動線」です。交差点から駅に向かうようなところも「動線」と言います。
また、駐車場から歩いて商業施設に向かうような場合、駐車場はTGですし、その歩く線は動線です。
小型店はコバンザメ商法がベスト
飲食店など、面積100坪以下の店舗は、先ほどの「屋台」なども含めて、TGの近いところに出すことが最も重要です。昔から言われている「コバンザメ商法」です。
コバンザメと言われる魚は、サメという大型の魚の表面に貼りついているだけで、サメが捉えた獲物のおこぼれをちょうだいして生きていくと言われています。
つまり、コバンザメはサメに貼りつく以外なんの捕食努力をする必要がない。
まさに、良い立地とは、お客さまを獲得するための努力はしないでも、その場所に店を出しさえすれば、お客さまのほうから来てくれる立地のことを指します。
まさに、コバンザメ商法ことベストな繁盛方法です。
いいや、違う。自分の店は、単独でもじゅうぶんお客様を呼ぶことができる。
そうお考えの向きの方もいらっしゃるかもしれません。
こうした意見は、大事な信念ですので、むげに否定はしません。
しかし、あのチェーン企業の覇者と言われた「マクドナルド」でさえも、TGが近くにない街中の店はほとんど撤退したという事実があります。これは知っておいて損のないことだと思います。
少なくとも、マクドナルドは「ブランドが強かったから成功した」というのはウソで、「成功できる立地だけを選定したからブランドが強くなった」というのが真相なのです。
これは、店舗を構えるほとんどすべての飲食業、小売業、サービス業に言えます。
どんな商売にも必須の「立地」の基本中の基本
デリバリー(宅配)サービスや、ハウスクリーニング(清掃)サービスなどのように店の人が顧客宅まで出向くような商売、あるいは、美容院をはじめ脱毛サロン、整体・整骨、毛染めカラーリングなど、技術力や人々の評判が大きく売上に影響してくるような商売にあっても、立地がことのほか重要であることは、すでに証明されております。
ましてや、お客さまのほうから、店に出向いてくれることを待っている大多数の「待ち受け」商売の店には、お客にとって店の商品やサービス以外の「その店に出向く理由」が不可欠に決まっています。それが、立地です。中でもTGに行く、TGを通るという特別な状況が不可欠なのです。
こういうTG近くにあることによって、お客さまは日常行動、とりわけ、買い物行動やレジャー行動などの「ついで」に、あなたの店に寄れることになるのです。この「ついで」ができるような立地でなければ、ほとんどの商売は衰退します。開店当初こそ大繁盛したとしても閉店に追い込まれます。
まず、TG、次にTG、その次にTGというふうに、TGを見つけ、そのTGを利用する人達の動機を見極め(お金を使おうとしている人達か、そうでないか)ること、これが立地を見ていく上での、基本中の基本です。
新宿御苑前の屋台経営者もそのことを知っているからこそ、そこに屋台を開くのです。
とは言え、屋台であっても、営業努力は不可欠です。ましてや、地域No1を目指そうとする経営者の店に「良い立地に出しさえ良い。営業努力は必要ない」と私は主張しているわけではありませんから、誤解しないでください。営業努力と立地はいずれも大事です。
また、「100坪以下の店舗」と書きましたが、現在は、100坪どころか 500坪クラスの小売店でも、TGの有り無しが売上に大きく影響を与えていることがわかっています。とりわけ、郊外ロードサイド型の店舗には、「橋」TGの存在はこのうえなく影響を与えます。