失敗しない商圏調査と出店戦略。「売れる商圏」の見極め方|店舗立地と商圏 4.売上最大化の商圏戦略

失敗しない商圏調査と出店戦略「売れる商圏」の見極め方。勘ではなく、データと商圏を読み解く、失敗しない立地調査と出店の法則。商圏の「量」「質」「同業店」を多角的に分析し、精度の高い出店|店舗立地と商圏 4.売上最大化の商圏戦略

【記事の概要】
 勘ではなく、データと実査で商圏を読み解く:失敗しない立地調査と出店の法則
 不安定な世界情勢、物価高、人材枯渇に直面する店舗経営において、既存店の売上低迷により、会社全体の売上を維持・拡大するためには、店舗数の拡大が不可欠です。そして、安定した繁盛のためには、商圏の「量」「質」「同業店」を多角的に分析し、高精度な出店を実現する視点とノウハウが不可欠です。そして何よりも、その調査の正確さが極めて重要であることを解説します。

この記事の目次

勘ではなく、データで商圏を読み解く:失敗しない立地調査と出店の法則

人材枯渇・市場縮小時代に「負けない店」を創る出店術

 店舗経営者の皆様、かつてない激変期を乗り越えるため、私たちは今、「どこに出店するか」という根本的な問いに、これまで以上に真剣に向き合う必要があります。

市場の縮小、深刻な人材不足、そして経済の不透明感。こうした逆境の中、いかにして「負けない店」を創り、持続的な繁盛を築くのか。

その鍵は、旧来の常識を打ち破る「究極の商圏戦略」にあります。本記事では、精度の高い出店を実現するための商圏の重要性とその見極め方について深く掘り下げていきます。

厳しさを増す経営環境と食料問題

 刻一刻と変化する市場環境において、店舗経営を取り巻く状況は依然として厳しいものがあります。

世界情勢は不安定で、物価高は大きな課題です。特に、世界経済の成長鈍化、貿易摩擦の激化、金融市場の変動は、店舗経営に深刻な影響を及ぼす懸念があります。

中でも、食糧事情のひっ迫は切実な不安要因です。世界的な気候変動や地政学リスクにより、食料供給の不安定化や価格高騰が続き、店舗の仕入れコストやメニュー提供に直接影響しかねません。

喫緊の課題:店舗開発と人材枯渇

 こうした状況下で、店舗開発はまさに喫緊の課題に直面しています。

ここ数年、以前にも増して精度の高い出店戦略が求められています。特に飲食、小売、サービス業では、深刻な人材不足が常態化し、もはや人材が枯渇しつつある状況です。

店舗数を増やさないと、個々の立地リスクは避けられても、売上全体の増加は望めません。それどころか、既存店の売上が下がれば、会社全体の売上は縮小する一方です。

しかし、人材がいない、あるいは立地判断ができないまま店舗を増やせば、たちまち赤字が連発するのは明らかです。

これらはまさに喫緊の課題と言えます。店舗開発に携わる中小企業や個人起業家の皆さんにも、この連載を通じて“立地のイロハ”をいち早く身につけていただきたいと願っています。

商圏情報なしに出店してはいけない理由

 さて、今日の本題は「良い商圏」「悪い商圏」の見極め方です。難しい話をするわけではありません。「商圏情報を把握せずに店を出してはいけない」という、最も大切なことをお伝えします。

物件の良し悪しは、立地によって商圏の状態が大きく異なります。人や車からの見えやすさ、出入りのしやすさ、面積、間口の広さといった物件自体の条件も重要ですが、何よりも先にその商圏の特性を知ることがひじょうに大切です。

たとえ駅に隣接していたり、TG(商業施設)の目の前だったりと、どんなに立地条件が良く見えても、その商圏自体の質が悪ければ、期待通りの売上はまず望めません。

一方で、駅から離れていたり、商業施設が近くになかったりする場所でも、商圏の質が良ければ驚くほど高い売上を記録することがあります。

昔から、マクドナルドの開店でもそういうことはよく起こりました。

なぜこんなに売れるのだろう?と誰もが首をかしげるほど、大繁盛する店が現れたのです。

当時は今ほど商圏の実態を知る術がなかったため、実際に店を出してみて初めて、その商圏のポテンシャルが明らかになることも少なくありませんでした。

そういう店が現れると、当時よく言われたのは「この商圏は、(マクドナルドを)ずーっと待ってくれていたエリアだったんだ。だから想定外に売れたんだ」と、調査担当者も弁明するしかありませんでした。

売上を最大化する!「良い商圏」「悪い商圏」を見極める3つの条件

 では、「商圏が良い、あるいは悪い」とはどういうことを指すのでしょうか?これには3つの要素があり、それぞれの視点で商圏を見極めることが重要です。

1.『量』の問題:「広がり」と「密度」で測る『商圏の購買力』

 まず、「良い商圏」か「悪い商圏」かを見極める最初の要素は、やはり「量」の問題です。商圏の「量」とは、「商圏の広がり」、「商圏の制約」、そして「商圏の密度」を掛け合わせたものを意味します。

具体的には、あなたの店の商圏が「道路に沿ってどこまで広がるのか」という「商圏の広がり」や、逆に「大河川や幹線道路といった大きな制約をどこで受けるのか」という「商圏の制約」、そしてそのエリアにどれくらいの「人口密度」や「世帯数密度」があるのか、という商圏の密度を総合的に判断します。

結局のところ、商圏が広がり、つまり「量」が大きいほど、それだけ大きな売上が期待できるというわけです。この「広がり」と「密度」の組み合わせが、その商圏が持つ「購買力(マーケットポテンシャル)」を決定づけます。

2.『質』の問題:「客層」と「購買力」で測る『購買人口』

 次は、「質」の問題です。これは、その商圏に住む人々や働く人々を「お客様」として捉えた際の、「顧客属性」に関わる重要な視点です。

より具体的には、年齢層や男女比、集合住宅に住む人の割合、職業の比率、さらには通勤・通学で利用する交通手段(車、バス、バイク、自転車、電車、徒歩など)といった顧客の属性が挙げられます。

さらに、その商圏が「商業的に流出しているか否か」という点も重要です。これは、住民が地元でお金を使わず、他の都市へ消費が流れていないかを見極めるということです。

昔は(人によっては今でも)、「人口が多ければ商売は成功する」と言われていました。しかし、この考えは今では通用しません。

なぜなら、人口がほとんどいないような場所であっても、繁盛できる場所が全国のあちこちで見つかるからです。

たしかに、人口や昼間人口は重要な数字です。ですが、その何十倍も重要なのは、「購買人口」と呼ばれるものです。

購買人口という概念が見つかったのは、人口や昼間人口が少ない大都市や商業都市でも繁盛する店や施設が多いという事実があったからです。

「購買人口」とは、その地域の小売業の年間販売額の総合計を、96万円という日本人国民1人当たりの平均の年間販売額で割って算出したものです。

この「購買人口」が、人口や昼間人口よりも多ければ、そこは、他の地域から購買目的で集まってくる人が多い“流入商圏”ということになります。つまり、売上につながりやすい商圏ということです。もし人口や昼間人口が購買人口よりも多いのであれば、その場所での繁盛は期待しにくいでしょう。

(用語解説)

  • 「昼間人口」とは:ある特定の地域に、昼間(通常の活動時間帯)にいる人の総数のこと。

3.『同業店』の存在:「市場拡大」と「競争」から導く『競合優位性』

 さて、商圏の良し悪しを最終的に左右する、ひじょうに重要な要素があります。それは、同業店の存在です。これを単に「競合店」と呼ばないのには、明確な理由があるのです。

同業店は、単なる競合とは限りません。実は「お客を呼び込んでくれる」というプラスの側面があります。彼らはその種類のお店があることを顧客に知らせ、体験を通じて馴染みを持ってもらうきっかけを作ることで、結果的に市場全体を拡大してくれるのです。このような状況を「市場拡大」と表現しています。

問題は、市場拡大が起きた後のことです。つまり、お客さまがお店の近くまで来てくれたとしても、最後に入るか、入らないか」を決める段階で、あなたの店が必ず選ばれるとは限りません。まさにこれこそが「競争」です。この競争に打ち勝って初めて、お客様はあなたの店を選んでくれるでしょう。

ですから、商圏内にどのような同業店が存在し、その中で自店が競合に対して優位性を確立できるかどうかは、「量」や「質」に劣らないひしょうに重要な要素です。なぜなら、自店が勝てる相手(同業店)なのか、そうでないかによって、店舗の繁盛が大きく左右されるからです。

まとめ:データが示す「商圏」の真実

質の高い調査と情報収集が店舗成功の鍵

「商圏が良い、悪い」という評価は、単に場所の賑わいだけで決まるものではありません。それは「量」「質」「同業店の存在」という3つの要素で多角的な分析が必須だからです。

これらの要素は具体的に以下の点を指します。

  • 商圏の「量」の問題: 商圏の広がりや制約、人口密度や世帯数密度。
  • 商圏の「質」の問題: お客の属性(年齢構成、男女比、職業、交通手段など)や、「購買人口」による流入商圏か否か。
  • 「同業店の存在」: 単なる競合ではなく、市場拡大の可能性。

特に「購買人口」という概念は、一見人口が少なくても繁盛するエリアが存在する理由を解き明かし、従来の商圏分析の常識を覆します。また、同業店は、単に競い合う相手ではなく、市場そのものを拡大させる可能性を秘めた存在として捉えることが重要です。

では、これまでに説明した3つの要素について、どのように調査を進めるべきなのでしょうか。この調べ方の上手下手で、店舗開発担当者のレベルや真剣度が見えてくるものです。

精度の高い商圏分析が店舗成功の要であることは、すでにお分かりいただけたでしょう。しかし、過去には多くの企業がその重要性を見誤り、「勘」だけに頼ったり、ひどい場合には予測売上高の「粉飾」やデータの「捏造」にまで手を染めたりする、恐ろしい時代もあったのです。

勘ではなく、データと正しい調査に基づいた分析こそが、店舗の命運を分ける鍵となります。次回の記事では、その衝撃的な事実と、情報化社会の進化が私たちにもたらした「失敗しない出店」のための強力な武器について掘り下げていきます。

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