飲食店「繁盛の秘訣」10.人手不足で悩むことがない経営

居酒屋甲子園 チーム作り
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有名チェーン時代は再建を任された店に3ヶ月間泊まり込み、ロスを買い取って食べ、洗い場にシャンプーとリンスを並べ、座敷で寝袋に入った… どこの店舗も人手不足で、飛んでしまった店長の代わりに店に入る日々から学んだ店長と経営者の在り方

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学生アルバイトが卒業まで働いてくれる居酒屋

離職者数は1名程度。圧倒的な定着率のワケ

居酒屋甲子園の元専務理事であり、「強グループ」として仙台市内に居酒屋5店舗を展開する(有)KYOTAファクトリー。

「学生アルバイトを10人採用したら、8~9人ぐらいは卒業まで残ってくれる」という驚異の定着率を誇る強グループ。アルバイトが辞めてしまう原因を代表の佐々木強太氏はこう分析する。

「入りたてのアルバイトさんは 、何をすればいいのかがそもそもわからない。でも『何やってんだよ』って怒られる。それで嫌になって辞めちゃうんですよね」

なぜ強グループのアルバイトは辞めないのか。そこには強太社長の人材育成に懸ける情熱と、「ここで働きたい」と思わせる仕掛けの数々があった。

「手腕」と「情熱」、2つの礎を築いた有名チェーン時代

赤字店再建人として、店に泊まり込み、ロスを買い取って食べ、洗い場にシャンプーとリンスを並べ、座敷で寝袋に入る日々

強太社長は、某有名居酒屋チェーンで赤字店舗を渡り歩いては再建する、という経歴を経て、独立している(店名が知りたい方は動画をご覧いただきたい)。有名チェーン時代は再建を任された店に3ヶ月間泊まり込み、ロスを買い取って食べ、洗い場にシャンプーとリンスを並べ、座敷で寝袋に入った。

どこの店舗も人手不足だった。飛んでしまった*店長の代わりに「明日行ってくれ」と言われ、行ってみれば当日のバイトのシフトすら決まっておらず、今日誰が来るのかもわからなかった。人材が流動的なためにオペレーションも不安定になり、クレームが頻発した。それでも会社に言われた通り、愚直に仕事をした。

仲間の顔を覚え、売上も安定し、泊まり込みの日々が終わろうする中、また次の店舗への異動を命じられた。しかし昨対70%の売上だった店舗は、強太氏が手掛けることで130%以上売上を伸ばした。

ここでの経験が、現在の強太社長の経営手腕に直結していることは疑う余地もないが、彼が「人が辞めないチーム作り」に情熱を傾けることになったこともまた必然だったといえるだろう。

では、そのチーム作りとはどのようなものなのか。

◆飛んでしまった*とは:突然ある社員やスタッフが仕事を無断欠勤して、音信不通となり、そのまま辞めてしまう無断退職の例え。俗称「バックレる」。他に、会社の倒産や債務者が借金を踏み倒し夜逃げ同然で逃げる場合などでも使用される。

強グループの「人が辞めないチーム作り」3つの特長

 誤解を恐れずに言えば、さほど目新しさを感じさせる項目はない。では、他社と何が違うのか。

1.ゴールを明確に設定する

強太社長が作ったのが、アルバイトが5日で目標を達成できるようにするための「トレーニングシート」。内容は難しいものではなく、例えば「次までに卓番を覚えましょう」のような宿題をトレーナーから渡されて、達成できれば「マル」をあげる。

シンプルな方法だが、強太社長はこう言う。

「個店にありがちですけど、“なんとなく”で教えちゃうんですよね。初日に『今日はとりあえず雰囲気だけ見といて』みたいな」

5回シフトに入るうちに5個マルがつけばOK、と言えば、アルバイトも「今、何を頑張ればいいか」がわかる。つまりゴール(目標)を明確に設定する。

トレーニングシートを導入してから、短期での退職は皆無になったという。

2.マイルストーンの可視化

ゴールを達成したら評価を「目に見える形」で与えてあげる。例えば

・アルバイトをランク制にする

・ランクが上がると、名札の色が変わる

・一定のランクを超えると制服が変わる

「自分もここまで頑張りたい」と思えるようなマイルストーンを提示して、到達すれば時給が上がるだけでなく、職務上の権限も付与される。「おすすめができる」「フロント・フリーができる」「休み回しができる」など、各ランクで必要なスキルは決まっており、これもゴールを明確化する施策だといえる。

3.社長自ら思いを伝える

強グループには全店に共通するルールがいくつかある。リピーターを増やすための営業項目、食中毒を出さないための衛生管理重点項目などがあるが、チーム作りに欠かせないのが「僕ららしさを守るルールと文化10か条」だ。ここに強太社長が大事にしている「思い」が集約されている。

その1 5分前行動をする

その2 挨拶は自分から元気よく

その3 身だしなみは、いつも見られている意識をもつ

その4 マイナスな発言はしない

その5 店舗ミーティング・レクリエーションは必ず参加

その6 相手を受け入れること・相手を認めること

その7 ありがとう!ごめんなさい!はすぐ言おう

その8 ワースケ*は見たらすぐサインすること

その9 返事はすぐに「はい!」

その10 人のせいにしない言い訳しない

誤解を恐れずに言えば、さほど目新しさを感じさせる項目はない。では、他社の店訓と強グループでは何が違うのか。

◆ワースケ*とは:

ワークスケジュールの意で、日別の勤務時間などが示されたもので店を動かすための重要なツールの一つ。パートアルバイトの都合と店側のニーズから、店長は出勤日時を明示したワークスケジュールを作成して掲示、パートアルバイトは自分で出勤日時を確認して、その証としてサインを入れる。したがって、このサインが無いことは、スケジュールを確認していない。つまり、出勤しないと判断される。詳細は別記事にて。

心は言葉を超える。経営者の思いを育んだ原体験

それは、これらを「社長自ら、情熱を持って伝える」ことである。

自分の思いを自分の言葉で伝えるから、従業員に届く。届くから従業員も社長の思いを大事にする。思いは行動に表れる。だから生産者の視察にはアルバイトも連れていく。毎月のミーティングは司会を持ち回り制にして、新人のアルバイトにも任せる。

「仕事はチームでするもの。将来、君たちが長になるときもある。みんなが意見を出しやすくなる環境作りを、今ここで学びなさい」

ミーティングを通じてプレゼン能力が身に着けば、はじめは取れなかったおすすめも取れるようになる。

「ここでアルバイトをすれば、自分が就職したいところに就職できるようになるよ」

オリエンテーションでは社長自ら、アルバイト社員にそう伝える。「ここに来れば、なりたい自分になれる」。強太社長がそこまでしてアルバイトに伝えたいことは何なのか。

「お客様からの評価や従業員満足度が上がれば、お店が良くなっていく過程を自分の目で見て共有していける。それが良いチーム、良い店づくりにつながっていく」

良い店づくりを通じて、チームが一つになるあの感覚を皆で分かち合いたい。強太社長が前職場で苦汁を舐めながらも、幾多の窮地を打破する中で得た仕事のやりがいや楽しさ、その原体験こそが強グループの強さとなり、顧客にも従業員にも愛される店の魅力となっている。

https://youtube.com/watch?v=nV58FFBv_gY%3Fsi%3D9QlNXu8ew_J–jFH

<居酒屋甲子園 概要>
https://izako.org/

<撮影のご協力①>
㈲KYOTAファクトリー 代表取締役 佐々木強太 氏
https://kyo-group.jp/company/

<撮影のご協力②>
㈱クロールアップ 代表取締役 及川大生 氏
https://www.1000-dai.com/

produced by
㈱プランズ 炎丸 グループ 代表取締役 深見浩一
https://prunz.jp/

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