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【この記事の概要】
火災は、店舗などの資産や人の命までも一瞬で奪ってしまう、とても恐ろしい災害であり、店舗経営において大きなリスクでもあります。
店舗は人通りの多い場所に立地し、不特定多数の人が来店し、可燃性の物資を扱う場所でもあることから、火災のリスクが常に存在します。例えば、ゴミ箱や吸い殻入れから発煙、天ぷら油を加熱したまま白煙が上がった、焦げ臭い匂い、火の不始末、電気コードの損傷、テーブルなどに焦げ跡などがあれば要注意。たまたま火事にならなかっただけなのです。万が一、火災が発生しても慌てず対応できるように、火災発生を未然に防ぐための対策や発生時の対応法について詳しく解説します。
店舗における火災のリスクとは
火災の主な原因
店舗は、人通りの多い場所や、可燃性の物資を扱う場所であることから、火災のリスクが常に存在します。
特に火災の多い飲食店の火災発生原因は、
飲食店火災の原因
・放置する・忘れる:30%
・電気機器の接触部加熱:8%
・火のついた油等が吸いこまれる:8%
東京消防庁『飲食店の厨房設備等に係る火災予防対策ガイドライン』より
他の主な原因は、電気系統の故障、不始末による火の始末、燃えやすい物の放置などが挙げられます。
電気系統の故障による火災は、配線や機器の老朽化、ショート、過負荷などが原因となります。
不始末による火災は、タバコの火種、コンロの火の始末、燃えカスなどが原因となります。
燃えやすい物の放置による火災は、可燃性の物資を適切に保管していないことや、燃えやすい物の近くに火気があることが原因となります。
店舗火災の主な出火原因と対策
飲食店の主な出火原因
飲食店の火災原因で最も多いのは原因の三分の一を占める「放置する・忘れる」。
飲食店の火災においては、東京消防庁による調査結果によれば、最も多い原因は「放置する・忘れる」で30%を占めています。
次に多い原因は「電気機器の接触部加熱」と「火のついた油等が吸いこまれる」で、それぞれ8%となっています。
これらの原因を理解し、適切な対策を取ることで火災のリスクを軽減することができます。
「放置する・忘れる」原因は、人為的な「うっかりミス」
火をつけたまま燃焼器具を離れた異常加熱が原因の火災が多くを占めています。
火をつけたまま燃焼器具(大型ガスこんろ、大型ガスレンジなど)を離れた人為的な「うっかりミス」による火災が多くを占めています。
この「うっかりミス」による火災を防ぐためには、調理中に燃焼器具から離れない、調理中に燃焼器具を離れる際には必ず火を消すこと、また万が一のため発火した場合の初期消火をルール化して、調理手順の工程に加えて、従業員への教育と実施状況のチェックが重要になります。
重要なことは、“調理中に燃焼器具を離れる際には必ず火を消す習慣をつけさせる”ことや、各従業員に対して火災予防の重要性を理解させることです。
また、定期的な防火訓練を実施することで、従業員の防火意識を向上させることが可能です。
調理器具からの出火
調理器具は、出火原因の油や高温を扱うため、確認や定期的な点検が重要。
飲食店などで使用される調理器具は、油や高温を扱うため、注意が必要です。適切な使用と定期的な点検が重要です。
調理器具からの火災は、油の過熱、揚げ物の放置、コンロ周りの清掃不足などが原因として挙げられます。
特に、油の温度管理は非常に重要で、発火点を超えないように注意が必要です。また、調理器具の周囲に燃えやすいものが置かれていないか、定期的に確認することも大切です。
コンロやオーブンなどの加熱機器は、使用後は必ず火を消し、電源も切ってから離れるようにしましょう。また、調理器具の清掃も定期的に行い、油汚れやほこりを溜めないように心がけましょう。特に、換気扇やダクトは油汚れが溜まりやすく、火災の原因となるため、こまめな清掃が必要です。
電気設備の不具合
古い配線や劣化した電気設備は要注意です。
古い配線や劣化した電気設備は、火災の原因となり得ます。配線の断線やショート、コンセントの埃やゆるみなどが原因で、発熱や発火が起こることがあります。
他に、電気配線がネズミによりかじられると、ケーブル露出や漏電が引き起こされ、火花発生やショートのリスクが高まります。屋根裏などホコリが多い場所では、火花が火種となり、火災の恐れがあるため注意が必要です。
特に、古い建物や長年使用している電気設備は、経年劣化による火災のリスクが高まります。電気設備の点検は、専門業者に依頼し、定期的に実施することが重要です。
また、電気コードやコンセントの劣化や破損に気づいたら、すぐに交換しましょう。コードの無理な延長やタコ足配線も、発熱やショートの原因となるため、避けるべきです。
放火および意図的な火災
可燃性の液体をまき、火をつける放火が多く、瞬時に着火して爆発的に燃焼し被害も甚大になるため深刻な脅威
営業中の場合、ガソリンのような可燃性の液体をまき、ライターで火をつける放火が多く、小さな火源でも瞬時に着火して爆発的に燃焼するため被害も甚大になります。
放火犯は、恨み、金銭目的、あるいは単なる悪ふざけなど、様々な動機で放火を行います。店舗周辺の環境に配慮し、防犯カメラの設置や照明の強化など、放火対策を講じることが重要です。
営業中の場合、ガソリンのような可燃性の液体をまき、ライターで火をつける放火が多く、小さな火源でも瞬時に着火して爆発的に燃焼するため被害も甚大になります。
また、消防庁の消防統計(火災統計)よると、放火は、昼12時から早朝6時までの間に多く発生していることが報告されています。深夜は人目につきにくいため、放火が行われやすいとされています。しかし、夜だけでなく昼間にも放火が発生していることに注意が必要です。さらに、放火による火災の出火場所は、建物の外構部分や物置、ゴミ置き場など人気のない場所が中心となっています。
また、従業員にも放火に対する意識を高め、不審な人物や行動に注意するよう教育する必要があります。放火は、店舗だけでなく、周辺住民にも大きな被害をもたらすため、地域全体で防犯意識を高めることも必要です。
火災予防のための具体策
隙のない店舗づくり
お客様の来店状況を見て、店内外の人や物、店舗の状態を見て回る。
ファミリーレストランやファストフードであれば、15分に一度、パートアルバイトが店内巡回をします。店内を一定のルートで回り、トイレ、ゴミ箱、吸い殻入れ、客席やバックルームなどの状態を見て清潔さのチェックとともに異常や危険な状況がないか、不審者がいないかなどを確認し、必要に応じて対処をします。一般的に「ラウンド」と呼ばれています。
そして、30分に一度は、時間帯責任者が、店内外をくまなく見て回り、ラウンドと同様に必要な対処をします。同時に、パートアルバイトの仕事ぶりなどの把握も行ない、必要に応じてフォローアップをします。一般的に「トラベルパス」と呼ばれています。
小売店でも同様に行ない、面積の広い店舗の場合、各売場ごとに実施します。
これらラウンドやトラベルパスの実施によって、火災の予防はもちろんのこと、万引きなどの窃盗や駐車場の不正利用などを防止や店舗運営面で多くの効果も得られます。
・火災の予防ができる
・万引きや店内備品類の窃盗や強盗の下見を予防できる
・駐車場や駐輪場の不正利用を防ぐことができる
・お客様の状態を把握ができる(お客様満足度の向上)
・従業員の仕事ぶりの把握ができる(従業員満足度の向上)
・照明やエアコンの調整ができる(エネルギーコストの削減)
・店舗運営の改善点を見いだせる(売上増大)
・販売機会ロスを削減できる(売上増大)
・従業員の適材適所が分かり、持ち場担当者との人間関係の構築ができる
・販売活動状況や活動結果の確認ができる
重要なことは、常に店内外の状況に注意を払う姿勢です。この姿勢をお客様や従業員に見せることで、隙の無い店が実現して、防犯や防火対策、そして、店舗運営面での効果につながります。
ラウンドやトラベルパスの実施は、新たな投資投資の必要が無くて、今すぐ実践できる方法ですのでおすすめですので、最優先事項として取り組んでいただきたいことです。
防火や防犯設備への投資をしても、隙だらけの店では効果は限定的ですので、あくまで、このように隙の無い店舗であるからこそ逸失利益を最小限にでき、効果に繋がると認識してください。
また、スーバーバイザー(SV)による防火管理チェックリストの実施で防火管理状況のチェックと見直しも重要になります。
防火意識の向上
従業員全員に防火教育を行い、初期消火の方法を習得させることが効果的です。
防火教育では、火災発生時の対応、消火器の使い方、避難経路の確認などを徹底的に指導します。また、定期的に防火訓練を実施し、従業員の防災意識を高めることが重要です。
防火訓練では、実際に消火器を使用したり、避難経路を歩いて確認したりすることで、緊急時の対応能力を高めることができます。さらに、防火ポスターや標語などを掲示することで、従業員だけでなく、来店客にも防火意識を啓発することができます。
設備の定期点検
定期的に設備点検を実施し、必要な修理・交換を行いリスクを軽減させましょう。
定期的に設備点検を実施し、問題があればすぐに修理・交換を行うことでリスクを軽減できます。
特に、消防設備や電気設備は、定期的な点検が法律で義務付けられています。点検項目には、消火器の点検、火災報知機の作動確認、避難経路の確保、電気配線のチェックなどがあります。
これらの点検を怠ると、火災発生時の対応が遅れ、被害が拡大する可能性があります。また、設備の老朽化や劣化は、火災のリスクを高めるため、定期的な更新も必要です。
火災保険への加入
万が一への備え。業種に適した火災保険への加入。
火災による被害を軽減するために、業種に適した火災保険に加入し、補償を確認しておきましょう。
火災保険は、火災による建物や家財の損害を補償する保険です。店舗の規模や業種、保険内容によって、保険料や補償範囲が異なります。
火災保険に加入する際には、自分の店舗に合った保険内容を検討し、必要に応じて補償を充実させることが重要です。また、保険会社との契約内容をよく確認し、保険金請求の手続きなども事前に把握しておきましょう。
火災が発生した場合の対応
初期消火の重要性
ラウンドやトラベルパスで火災を早期に発見し、初期消火で被害の拡大を防ぐ。
火災を早期に発見し、消火器や消火具を用いて初期消火を行うことが被害の拡大を防ぐために重要です。
火災発生時は、まず落ち着いて状況を把握し、人命最優先のため周囲に危険を知らせることが大切です。その後、消火器や消火栓などを用いて初期消火を行い、火勢を弱めることが重要です。
初期消火が成功すれば、火災による被害を最小限に抑えることができます。消火器の使い方や避難経路は、日頃から従業員に教育しておくことが重要です。
緊急避難の手順
火災発生時の避難経路を日頃から確認し、従業員と共有し、安全な避難を確保。
火災発生時の避難経路を日頃から確認し、従業員と共有することで安全な避難を確保できます。避難経路は、分かりやすく表示し、従業員全員が理解できるようにしておくことが重要です。
また、避難訓練を定期的に実施し、緊急時にスムーズに避難できるよう訓練しておくことも大切です。
避難訓練では、実際に避難経路を歩いて確認したり、消火器の使い方を練習したりすることで、緊急時の対応能力を高めることができます。
さらに、避難経路に障害物がないか、照明が十分に確保されているかなども確認し、安全な避難経路を確保しましょう。
避難訓練の実施
不測の事態に備え、最悪を想定した避難訓練を定期的に行ないましょう。
訓練を定期的に行い、緊急時に備えたスムーズな対応を計画・実践しましょう。避難訓練は、火災発生時の対応をスムーズに行うために非常に重要です。
訓練では、火災発生時の状況を想定し、従業員全員が避難経路を理解し、安全に避難できるよう訓練します。
また、消火器の使い方や初期消火の方法なども訓練することで、緊急時の対応能力を高めることができます。
避難訓練は、定期的に実施することで、従業員の防災意識を高め、緊急時の対応能力を向上させることができます。
火災後の復旧と保険請求
専門業者による復旧作業
専門の災害復旧業者に依頼し、安全かつ迅速な復旧作業を進めます。
火災による被害は、建物や設備の損傷だけでなく、営業の中断による経済的な損失も発生します。
そのため、迅速な復旧作業が重要です。復旧作業は、専門の災害復旧業者に依頼することで、安全かつ効率的に行うことができます。
災害復旧業者は、火災による被害状況を調査し、適切な復旧計画を立案します。また、必要な資材や人員を調達し、迅速に復旧作業を進めます。
保険請求手続き
火災後の保険請求手続きについて、必要な書類や手続きを早めに確認し、スムーズに進行させましょう。
火災保険に加入している場合は、火災発生後、保険会社に連絡し、保険金請求の手続きを行います。
保険金請求には、火災発生時の状況を証明する書類や、損害の状況を写真や動画で記録した資料などが求められます。これらの書類を揃え、保険会社に提出することで、保険金が支払われます。
保険金請求の手続きは、複雑な場合もあるため、保険会社に相談しながら、スムーズに手続きを進めることが重要です。
火災後の営業再開
設備の修繕完了後、衛生管理や安全確認を徹底し、営業再開に向けた従業員への指導も実施します。
火災による被害が復旧し、営業再開できるようになったら、衛生管理や安全確認を徹底することが重要です。
特に、厨房やトイレなどの衛生管理は、火災後の営業再開にあたり、特に注意が必要です。また、従業員にも安全意識を高め、火災発生時の対応や避難経路などを再確認する必要があります。
営業再開にあたり、従業員への指導や教育を徹底することで、安全な店舗運営を再開することができます。
まとめと今後の対策
火災予防の継続的取り組み
火災予防対策は継続的に見直しを行い、より安全性を高める努力を続けましょう。
火災予防対策は、一度実施すれば終わりではなく、常に状況に合わせて見直し、改善していくことが重要です。
定期的な防火訓練や設備点検、従業員への防火教育などを継続的に実施することで、火災のリスクを低減し、安全な店舗運営を実現することができます。
また、最新の防火技術や防災設備を導入することで、より安全性を高めることができます。
最新防火技術の導入
新しい防火技術や器具を定期的に導入し、店舗の安全性を向上させましょう。
近年では、火災感知器や消火設備などの防火技術が進化しています。最新の防火技術を導入することで、火災の早期発見や消火、避難誘導などをより効果的に行うことができます。
また、新しい防火技術や器具を導入することで、従業員の負担を軽減し、より安全な環境を実現することができます。
防火管理者の指名
防火管理者を指名し、責任ある立場から防火対策を推進します。
防火管理者は、店舗の防火対策を統括する責任者です。
防火管理者は、防火教育の実施、設備の点検、消防署との連絡など、様々な業務を行います。防火管理者を指名することで、責任ある立場から防火対策を推進し、火災のリスクを低減することができます。
防火管理者は、防火に関する知識や経験を有する従業員の中から選任することが重要です。
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