【この記事で分かること】
正確な情報と高精度調査が鍵!科学的商圏分析と立地判定で失敗しない出店戦略と立地選定
かつて「勘」と「データ捏造」が招いた企業の悲劇は、店舗展開の限界を示しました。しかし、GISの普及と安価な商圏分析ツールの登場で、精度の高い商圏情報が誰でも手に入る時代です。筆者の林原安徳さんは「でも、データだけで喜んでいてはだめだよ。分析力もないとデータは宝の持ち腐れになっちゃうよ」と言います。経験と勘に頼らず、データに基づいた戦略的で緻密な出店こそが、不確実な時代を生き抜くための絶対条件となります。
経営者必見!あなたの会社を救う、情報化時代の商圏分析術
店舗経営者の皆さん、かつて「勘と経験」に頼ることが当たり前だった店舗開発の世界は、今や劇的に変化しています。特に、一歩間違えれば企業の存続さえ危うくする「出店リスク」を回避するためには、もはや直感だけでは立ち向かえません。
前回の記事では、売れる商圏の見極め方と商圏調査の重要性について解説しました。本記事では、その商圏情報をさらに深掘りし、出店リスクを回避するためのデータ活用術を紹介します。
このデータ活用の重要性を理解するには、まず、企業生命を左右する商圏情報と店舗開発担当者の真剣度を巡る、過去の衝撃的な実態を知る必要があります。
過去の衝撃的な実態:『勘』に頼った商圏分析の悲劇
20年ほど昔に、私のところに、ある有名大型衣料品店「N屋」を全国展開しているチェーン企業の店舗開発マンが相談にこられ、彼はこのように言いました。
「先生、商圏人口は、勘と経験で適当に書いてますよ。みんな大体わかりますから」と。
今でもその瞬間を鮮明に思い出せます。なにしろ「商圏人口は『勘』で書けば良い」と、イカサマ、データの捏造を他人に対してはっきりと告白されたのは後にも先にもその人だけです。
有名な大チェーン企業がそんな大胆なデタラメを言っていた時代でした。もちろん、このような状況は氷山の一角だったのかもしれません。実際に、それから数年ほどして、その企業は会社更生法を申請し、その大チェーンは永遠に消滅したのですから。しかし、この会社に限らず、当時はこの店舗開発マンの言い分を誰もが認めあってしまうような「切実な」事情があったのです。
GISの登場と高額な障壁
その頃、1980~90年代に、GIS(Geographic Information System:ジス・地理情報システム)というソフトウェアが華やかに登場し始めました。これは、地図上に様々なデータを重ね合わせ、視覚的に分析することを可能にするシステムです。
どこのチェーン企業も「GISさえ購入すれば、出店は皆うまくいく」という思い込み(あるいは都市伝説)が生まれました。しかし、導入には決定的な問題があったのです。それは、そのソフトが1つ数百万から数千万円と非常に高額だったことです。
ですから、多くの企業が導入を躊躇しました。先ほどのチェーン企業もそうだったのでしょう。だから、店舗開発マンは「勘」で商圏人口を書いていた」とも言えます。
進化する商圏分析ツールと脱却の必要性
しかしながら、時代とともにGIS(ジス)の価格は徐々に下がり始めました。さらに、政府は地理情報システムjSTAT MAPを通じて、物件の商圏レポートを無料で提供するようになりました。登録するだけで、すぐにレポートが作成できるのは非常に嬉しい点です。
また、ウェブ上では、タウンページに掲載されたすべての事業所を検索し、例えば半径500m圏内の同業店(ライバル店)をたちどころに表示できるサービスも登場し、これらは、年間数千円程度で毎日使い放題と、非常に安価に利用できます(事例:ゼンリン地図・いつもNAVI )。
このように、商圏情報の入手は格段に容易になりました。もはや、経験と勘だけに頼った店舗開発から一刻も早く脱却することが重要です。
皆さんも、会社の規模や予算に見合ったサービスやソフトを積極的に探し、活用されることを強くお勧めします。具体的な商圏分析ソフトやサービスについては、次章でいくつか紹介しましょう。
これらのサービスを活用することで、前回の記事で触れた「商圏の質」を測る上で重要な指標の一つである「昼間人口」のような詳細なデータも容易に把握できるようになります。
- (用語解説)昼間人口:日中に働きに出たり学校に通ったりして、その地域からいなくなってしまう人がいるので、こういう人たちを人口から差し引きし、反対に就業や通学で入ってくる人たちを加えた人口のことを「昼間人口」と言います。
商圏調査に適したサービス例
より精度の高い商圏分析のために、以下のサービス活用を推奨します。
1. 商圏の広がりが分かる
メッシュを色分けした上に、顧客の住所分布を重ねることができて商圏の広がりがメッシュの人口に見合っているものかどうかがわかります((株)マーケティングセンターのWEBサービス、MC-MAP。これなら、格安料金で1000項目もの統計データも調べられます)

2. 地域購買力(商圏集積)の大きい場所が分かる
商業集積の大きい場所がどこにあるかを調べられます。ここでは、商業集積が3km圏で5ヶ所あることがわかります(ソルブ社「統計てきめん2プレミア」)

3. お手頃な商圏分析レポート
商圏分析レポートや所得階級別の就業者数などの各レポート((株)アビス社、日本国政府、パスコ社・無料~月額数万円前後)


データに基づく「失敗しない出店」の絶対条件
かつて「勘」と「データ捏造」が招いた企業の悲劇は、情報化社会以前の限界を示しています。しかし、GISの登場とそれに続く無料・安価な商圏分析ツールの普及は、私たちの店舗開発に革命をもたらし、精度の高い商圏情報が誰でも手に入る時代となりました。
しかしながら、データは豊富に手に入りますが、それだけで喜んでいては宝の持ち腐れです。真に重要なのは、そのデータを読み解き、戦略に活かす実践力にあります。経験と勘に頼らず、データに基づいた戦略的な出店こそが、不確実な時代を生き抜くための絶対条件となります。
正確なデータ活用で切り拓く未来:持続的な繁盛への道
本記事でご紹介した商圏分析ツールと活用法は、あなたのビジネスをより確実な成功へと導く指針となるでしょう。
ぜひ、これらのツールを積極的に導入し、データドリブンな店舗開発へとシフトしてください。それが、市場の縮小や人材枯渇といった困難を乗り越え、個人店から大手チェーンのような繁盛を築くための第一歩です。あなたの挑戦を心から応援しています。