【この記事の概要】
共有された内部不正の主な手口。その被害規模と影響は?そして、この巨額不正を招いた根本原因
ブックオフ・ハードオフで内部不正問題が発覚してからSNSなどで、買取不正などの様々な手口が共有されました。現実的に、このような巨額被害になるまで何回の不正が繰り返されたのでしょうか?本来、店舗経営では、二重三重の不正防止策が講じられています。会社や組織の内部で不正や誤りを発見し、防止するために複数人のチェックによる内部牽制や内部統制から、異常を示す信号に気がつくことはできたのではないでしょうか。また、成長戦略と組織変更に見る今回の事案の関連についても解説します。
ハードオフ・ブックオフで内部不正問題が発覚してからSNSなどで、不正の様々な手口が共有される
不正の主な手口は、架空買取、内引きなどによるフリマ転売
2024年6月25日、神奈川県相模原市のブックオフグループホールディングス(以下、ブックオフ)は、従業員が架空の買取を行っていた疑いがあることを受け、外部専門家による特別調査委員会を設置し、全国400以上の直営店で休業や営業時間の短縮、臨時棚卸しを実施することを発表しました。
同日、ハードオフやブックオフの加盟店を運営する株式会社エコノスでも、3200万円超の所在不明金額が判明し、調査結果が公表されました。
詳細は、「ハードオフ運営会社における3200万円超もの内部不正に見る店舗経営のあり方」をご覧ください。
このニュースが報道されると、マスメディアやSNSで大きな話題となり、架空買取を除いた多くの買取に関わる不正事例がSNSなどで投稿されました。
その主な事例は、
- 0円買取*と称して商品を処分せず、店で販売するケース
- 0円買取*と称して商品を処分せず、従業員が持ち帰ってフリマで転売するケース
- レア物として買取金額の何倍もの値段をつけて、自分で持ち帰ってフリマで転売するケース
- レア物を安く買取し、安い価格で従業員が買うか、仲間のお客に買わせて、フリマで高額転売するケース
上記の違法性については、不正に該当する行為と不正には該当しないがモラル違反や社内規定などに抵触する行為に大別されます。
そもそも、従業員が店の商品を購入したり、友人に販売する場合のルールは、どうなっていたのでしょう。
店舗経営で従業員などへの販売における大原則は以下の通りです。
- 従業員が店の商品を購入する場合:休憩時間や勤務時間外にお客様と同じようにレジで会計をして商品を購入する。
- 従業員の友達が商品を購入する場合:該当者が販売を担当するのではなく、他の従業員が販売を担当して商品を販売する。
これらを徹底しないと不正の機会を与えしまうため、ルール化して現金管理の一部として実行することが求められます。詳細は、以下の現金管理シリーズを参照してください。
ブックオフ社などは、上場企業であるため当然ながら社内規定があるはずで、それが厳守されているかはスーバーバイザーやエリアマネージャーによる抜き打ちチェック、監査部による監査で分かることです。
「0円買取*」とは:参照先「ブックオフ・ハードオフ「従業員不正疑惑」の真相に迫る 第1回 ブックオフシステムと不正要因との関連」
先述の手口は、オンライン買取でもよく見られるもので、事前に「値段がつかない場合は処分します」と同意させた上で、買取金額を大幅に下げる手口が一般的です。
また、実際に「0円で引き取った商品が売り場に並んでいた」との投稿やレアを安い価格で従業員か仲間のお客が買い、フリマで高額転売するような行為はお客様の期待を裏切る行為であり、社会通念上の観点からもお客様の不信感は高まって、ブランドイメージが大きく損なわれる可能性があります。
(関連記事)[第四弾]ブックオフ直営24店舗で7000万円もの内部不正が判明し、その手口も明らかに ブックオフの不正現金着服問題、従業員が内部不正を行っていたことが判明。24店舗で約7000万円分の不正行為が確認され、中間報告が発表されました。主な不正行為は架空買い取り在庫の不適切な計上が……
(関連記事)[第二弾]ブックオフシステムと不正要因との関連 ブックオフ子会社が運営する複数店舗において、従業員による架空買い取り、在庫の不適切な計上や現金の不正取得の可能性が発覚。ハードオフ運営会社エコノスでは従業員による巨額不正などの異例の事態が……
(現金管理シリーズ)
● 現金で失敗しないための秘訣「現金管理マニュアル」導入のすすめ 1.現金管理の重要性と基本知識
● 店長マニュアル 2.10のマネジメント知識 (2)現金管理
不正の被害規模と影響
不正による被害と閉店による売上の損失
今回の不正行為による被害額は、確定していませんが、ハードオフ運営会社エコノス社の一店舗被害額を上回る可能性があるとされています。
また、400以上の直営店を休業する異例の事態で、この休業による営業損失も甚大と言えます。
企業イメージやブランド棄損による損害
ブックオフの企業イメージやブランドイメージに大きな傷が残りました。中古、リユース業界にネガティブ印象を与え、顧客からの信頼を失い、その影響は計り知れません。
加盟店への影響
フランチャイズ形式で運営される加盟店も多く、今回の事案が加盟店のイメージダウンや経営に影響を与え、顧客離れや売上減少につながる可能性があります。
今回の不正による被害の合計
直接的な金銭的な損失だけでなく、企業イメージの失墜、顧客離れ、売上機会の損失など、多岐にわたります。これらの合計が相当規模に達する可能性があり、ブックオフ社にとって大きな打撃となると予測されます。
巨額不正を生んだ原因
このような巨額被害になるまで何回の不正が繰り返されたのか
ハードオフ運営会社のエコノス社で発生した内部不正は、エコノス社調査委員会によれば長期間、常習的に不正が行われていたと認定しています。
具体的には、報不正をしたA店長は、調査時も失踪中のため、本不正行為の正確な終了時期を特定することが出来ないとしながらも、本不正行為は、A店長がHO●●●店の店長に赴任した2021年5月以降に開始され、A店長が失踪した2024年5月に終了したものと認定しています。
そして、内引き個数は333個、所在不明金は16,655千円。架空買取は217個、所在不明金は 15,613千円とも認定されています。現実的に店舗経営において、一店舗で3200万円もの不正が起こることは他に類を見ないことで、217個もの架空買取が繰り返されること事体、想像もつきません。
さらに、ブックオフでは子会社が運営する複数店舗で、従業員による架空買い取り、在庫の不適切な計上及びこれらによる現金の不正取得の可能性が発覚したことで400以上の直営店の臨時休業をしてまで調査に乗り出すことから、先述のような相当の被害が予測されます。
銀行などの金融機関や大企業の財務担当者による横領ともなれば、小切手の不正作成や不正送金などの手口で巨額不正の事案もありますが、店舗経営でこれほどの巨額不正は極めて異常な事態と言え、これほど常習化した内部不正になぜ、気づけなかったのでしょうか。
詳細はこちらから。
(関連記事)[第一弾]ハードオフ運営会社における3200万円超もの内部不正に見る店舗経営のあり方 この記事では、ハードオフの運営会社である株式会社エコノスで発覚した3200万円を超える内部不正について解説します。
異常を示す信号である「シグナル」と不正の機会
店舗経営では、このような大きな被害になる前に、店舗では異常を示す信号であるシグナルが生じます。このシグナルに気づかないでいると、重大な問題となり表面化するので、そこではじめて気づくことになります。
ちなみに、このシグナルという用語は不正だけではなく、さまざまな問題や機会で発信される信号の意として使用されています。
異常を示すシグナルを店舗での一般例で説明しますと、最初はレジでの取消や返品処理などのイレギュラーな対応をしていると、現金差や棚卸ロスなどの値として異常というシグナルが表れますが、わずかな変化や値ですと軽視したり、見落としたりして、異常を異常と思わないため気づかないのです。
そして、このシグナルを見落としていると、店舗は「イレギュラーな対応をしてもバレない」と店舗に不正の機会を与えてしまうことになります。
何度も発生していた異常のシグナル
エコノス社の内部不正の手口、頻度や被害額などを見ると、そのシグナルは何度も発生しており、“その異常に気づけない。あるいは、気づかなかった”ことは、店長直属の上司であるエリアマネージャーやスーバーバイザー、本社の事業部長や監査部長、取締役らが職責を果たし、適正な経営管理を行っていたか、大きな疑問です。
ただ、不正に関しての知識に乏しく、不正のシグナルを見抜くスキルがない場合、異常に気づけないことはあります。そのために十分なトレーニングを受けて、証憑類などと現場から異常を見抜き、現場検証による原因究明と裏取り調査ができるスーバーバイザー、内部監査担当や監査役による監査が必要になります。
(関連記事)店舗監査[会計と業務]のすすめ方 1.なぜ店舗監査が必要なのか? この記事では、店舗経営に不可欠な、店舗に隙を与えず、不正や犯罪を防止し、企業資産や利益の保全と確保が求められ、そのためには店舗問題の誘発要因に早期に気付き、犯罪や不正の芽を早々に摘む店舗監査ついて解説します。
このように本来、店舗経営では、二重三重の不正防止策が講じられていますし、会社や組織の内部で不正や誤りを発見し、防止するために複数人が信憑性をチェックします。その内部牽制が機能するように組織設計と職務分掌、そして、証憑類が作成されています。つまり、それぞれが連動して内部統制が機能します。
店舗から本部に提出された情報や証憑類は、当然ながら承認・決裁フローに基づいて各部署の責任者が承認し、上司による決裁があり、最終的に取締役会で決算の承認をしているはずですから、誰かしら不正のシグナルに気がつくことはできたのではないでしょうか。不正は何度も発生しており、本当に気づけなかったのでしょうか。
ブックオフの成長戦略と組織変更に見る今回の事案
また、ブックオフの人事異動や組織図を見てみると、売上高1,300億円、経常利益45億円の獲得を目指す成長戦略を全面に押し出しており、2023年6月1日付で大きな組織変更を実施しています。
(ブックオフ組織変更・組織図)組織変更、人事異動及び取締役・執行役員の担当変更に関するお知らせ
その組織変更の主な変更点と理由、人事異動内容、職務や組織図を見る限り、 内部監査などの牽制機能や内部統制が持ち株会社であるブックオフグループホールディングス株式会社にしかなく、現場最前線のブックオフコーポレーション株式会社にはそれが見たりません。
ブックオフコーポレーション株式会社の組織設計は成長を重視するあまり、売上拡大を中心とした組織となり、さらに、運営と管理がブックオフ事業部でまとめられている不十分な牽制機能や統制範囲の原則*を超えた部門数であったりと、内部統制も脆弱で運用面でも無理がある組織と伺え、起こるべくして起こった事案とも受け止められます。
統制範囲の原則*とは:統制範囲の原則とは、「スパン・オブ・コントロール」とも呼び、管理者が効果的かつ効率的に管理できる部下の人数に限界があるという考え方で、一人の管理者が統制できる人数は、通常5〜10人程度とされ、店舗経営や工場などの特定ライン業務では20〜30人程度までとも言われています。
また、組織構造は、以下の5原則で構成されています。
- 責任・権限一致の原則
- 命令一元化の原則
- 統制範囲の原則(スパン・オブ・コントロール)
- 専門化の原則(分業化)
- 例外の原則
組織は、これら原則を機能させる設計と運営が求められます。
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