(3)損益管理 事例研究編
一見、複雑難解に見える問題でも、店舗経営(ピープル・ビジネス)の三大要素に基づいた現場検証によって根本を見抜き、シンプルに捉え、整理し改善する。根本は「森を見て、木を見て、その根を見る」ことで見えてくる。
本事例研究を進めるにあたり、下記事例と改善に必要な現場調査と実態を把握の上、下記章の「ピープル・ビジネスの三大要素」を参照して、事例研究に取り組んでください。
ピープル・ビジネス理論 0章 イントロダクション Ⅲ 物事をシンプルに捉える
3)事例研究
■事例
クリーニング工場の事例を紹介しよう。消費者の消費額が年々減少傾向にある中、クリーニング工場の利益はどんどん減っていき赤字に。どうにか黒字に改善したい。
■改善に必要な現場調査と実態
その工場の損益計算書を確認するとパートアルバイト(P/A)の人件費が利益を圧迫していたので、現場で詳細を確認した。
①適正人員の把握:工場の生産性、生産点数とパートアルバイト在籍数を確認したところ、適正人員数であった。
②P/A人件費内訳:下記P/A人件費の公式に基づき、労働時間と平均時給の確認。労働時間は適正であったのだが、平均時給が工場の生産性や生産点数と比較すると異常に高かった。
◆ P/A人件費=労働時間×平均時給
③P/A人件費と生産性、生産点数の推移
・P/Aの入社年月日とスタート時給、そして、現在の時給とアップ額、できるようになった業務数と人事評価内容を把握。結果、10年以上勤務しているベテランが多く、時給アップは年に1回、一定額をまとめてアップし、従業員満足度の維持と定着促進を行っていた。
・平均時給は1,000円を超えており、10年という歳月の経過から体力は低下し、一人当たりの生産点数が同じ労働時間でも減少していたために、利益を圧迫していた。
④予算統制と組織
・本社組織図を確認すると、人件費の管理は工場長とエリアマネージャー、生産点数は生産管理、時給アップや人事評価は人事と担当部署が別々。
・現場で必要な情報は各担当部署でバラバラで一元管理がないため、必要時に把握ができず、本社の損益計算書の結果待ちの状態。
・損益実績の把握ができるのは翌月の15日頃で、改善は現場任せ。
・責任の所在が曖昧で不明。
・改善しても、しなくても評価には反映されない。
■改善の実施
この場合、P/A人件費の削減が必要なのだが、人件費削減というと真っ先に人員カットを思い浮かべる傾向があるが、それはとても危険なこと。
その理由は、
・先述の通り、 P/A人件費のコントロールに必要な着眼点は労働時間と平均時給で、時給相当の労働時間や生産性のバランスをとること。
・売上、客数や後方支援業務などを1時間単位で算出し、それの工数に見合った人員を投入するため、人員カットではその分の人件費は浮くが、必要な時間帯の人員カットにもなる。
以上から、人員カットによって短期的な利益が確保できても、長期的に現場への負担やチャンスロスが生じる可能性があるからだ。
さらに、マニュアルや帳票を作成して問題解決を試みことも、それを運用するシステムや考え方がなければ機能せず改善できない。
問題の根本ははツール、システムや考え方のどこにあり、何が原因なのかを見定めて必要な対応を行うこと。そうしないと、マニュアルや帳票が増えるにとどまらずその管理工数も増えて、現場への負担が増すばかりだ。実はバブル崩壊以降今日まで、この傾向にあるので注意してほしい。