店舗監査(会計と業務)のすすめ方 1.なぜ店舗監査が必要なのか?

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【この記事の概要】
 「店と人を守る。そして、売上と利益を守る」経営
 ピープル・ビジネス発症の米国は「多民族の国」で個人主義や契約社会などの文化。一方で、日本は安全や人を疑うことは馴染みの薄い文化で、店舗では万引きや内部不正が横行して企業財産がむしばまれる危機を招きました。店舗経営で不可欠なことは、店舗に隙を与えず、不正や犯罪を防止し、企業利益の保全と確保が求められるます。そのためには店舗問題の誘発要因に気付いて、犯罪や不正の芽を早々に摘む店舗監査が必須なのです。

この記事の目次

店舗監査がなぜ必要なのか。監査導入が必須なワケ


「企業財産である人とお金を守る」 店舗会計監査や業務監査のすすめ方

 昭和中期に米国から大手チェーンが続々と上陸し、国内各企業もこぞってチェーン展開を開始します。その中、労働力確保と人件費削減のために従業員のパート・アルバイト(以下、P/Aと略)化を一気に進めました。

それまでは、中央集権型経営で本社本部の監視下に置かれていた企業と店舗分権型経営を採用する企業に二極化して、正社員である店長、副店長やマネージャーを中心とし店舗マネジメントを、現場の接客、レジ打ちやオペレーションはP/Aという役割分担で経営の権限委譲を行いました。

分かりやすく例えると、1店舗当たりの平均年商を1億円とし、店長はその1億円の経営管理を担当。各店舗の経営管理は、店長の直属上司であるスーバーバイザー(以下、SVと略)が5店舗、年商5億円を担当し、そのSVの管理を直属の上司である統括SVによってSVを5名、計30店舗、年商30億円の経営管理を担っていました。

つまり、SVや統括SVは中小企業、いや現在であれば上場可能な規模の経営管理を担い、当然、責任もあり、その責任に応じた処遇でもありました。

そして、バブル経済時から今日まで店舗展開を支えたのは、このSVで正社員やP/Aを確保、育成し現場配属させて強い現場を作り、商圏特性に合った売上を確保しています。

店舗経営管理と一言でいっても商品管理、施設管理、労務管理、人事管理、マーケティングや販促、損益管理や経営管理など多岐にわたり、これら全てを連動させた管理のことを「トータル・マネジメント・システム」と呼び、SVが経営者代行として分権経営や監査を実施することを「スーパーバイジングシステム」と呼んで店舗展開と共に店舗マネジメントが構築されていきました。

国内チェーンごと、部分的に採用され成否を分けたマネジメントシステム

 このトータル・マネジメント・システムの導入、構築項目はチェーン店ごとに異なりP/Aや正社員の賃金制度と人財開発システム「キャリアパスプラン」、人件費の変動費化「ワークスケジュール」、店舗損益管理「P/Lコントロールシステム」などが最優先で導入され、小数の正社員と多数のP/Aによって店舗経営が行わるようになりました。

各店舗の経営管理はSVが実施しましたが、このSVの経営管理で成否を分ける結果になったのです。多くの企業は中央集権型経営を採用していたため、お客様満足度(QSC)測定、人財開発、労務管理、販売促進、損益管理や経営管理などの運用を店舗やSVに権限委譲したのですが、実態は本社本部に稟議承認が必要な場合が多く、店舗会計監査や業務監査、人事評価などは本社本部がSV報告のもとで実施していたため中途半端な権限委譲となり、結果、充分な成果を得られず各社ごとに業績や人財開発に大きな差が生まれました。

その主な要因は、人、モノ、金と業務監査権と連動した採用、評価、異動や解雇などの人事権や予算執行権などの経営権の権限委譲が中途半端であったため、店舗はいわゆる「任せ放し」状態となり、販売促進で集客しても人員不足で不安定なオペレーションからお客様満足度低下による売上低迷、内部や外部不正で利益喪失などから縮小均衡が生じていったのです。

バブル崩壊やリーマンショックで、一層経営環境が厳しくなった各社は利益確保のため、高給取りのSVを廃止して本部本社による中央集権型経営を進め、店舗のP/A不足の労働力確保と単純作業を正社員に依存し、店番的存在となり売上や利益獲得などのダイナミックで達成感のある仕事もできなくなり、その仕事はまったく魅力的ではなくなってしまいました。

さらにキャリアパスプランも中途半端になって、先行き不透明な将来不安から高質人財は他業種に流出するなどの結果、さらに中途半端な店舗分権型経営となって、縮小均衡を招き、今日に至っています。

「信頼するが信用はしない」経営

 ピープル・ビジネス発症の米国は先住民や移民の「多民族の国」で個人主義や契約社会などの文化をベースにしています。一方で、1970年「日本人は水と安全はタダと思っている」とイザヤ・ベンダサン氏は自著「日本人とユダヤ人」で述べているように、日本では安全や人を疑うという文化は馴染みの薄いことでもありました。

このような欧米と日本の文化の違いもあって、日本では信頼と信用を混同する傾向にありました。大胆な権限委譲によって店舗経営を任せることは店舗分権型経営には重要なことですが、信頼をしないことが大前提なのです。実際に「信用して店を任せている」ということを耳にすることがありますが、「信用」と「信頼」はまったく異なります。店舗経営では信用して店を任せた結果、オペレーションの乱れやお客様満足度の低下などに加えて魔をさす場を与えることになり、不正の被害にあったと聞きます。

例えば、店舗スタッフが売上金や両替金を手にしたことで、「一山当てるつもりで馬券を買って、儲けだけをポケットに入れ、元手をこっそりと戻すつもりが…」。一山当てていれば発覚していなかったかもしれない。たった1回されど1回の出来心が大事に至るのです。

このようなことで、企業財産である人とお金を失うことは中小企業や店舗経営にとって致命傷になりかねません。ピープル・ビジネスにおいて「信頼して店を任せる」とこは重要ですが、「信用」を前提にしないことが必須なのです。

そして、社会や会社は所詮、他人の集まりで、面倒な事には巻き込まれたくない。問題などに対して、最終的には他人事である現実も受け止め「信頼して任せるが、信用はしない」経営。つまり、出来心を与えず、隙を与えない経営環境を与えることが信頼経営につながるのです。

隙を与えない店舗づくりと真なる目的

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 防犯カメラなどのハードや警備員の配置など外部に頼った防犯に力を入れている店舗が増えましたが、その牽制に頼り過ぎないことが重要です。ハードや外部に頼りきってしまうとそこに隙ができてしまうからです。

不正防止には店舗スタッフやお客様に対して常に注意を払っている隙のない現場環境づくりが必要でSVは店長や従業員に、店舗スタッフはお客様に関心を示すことによる牽制が重要で、あくまでハードはソフトの補完的役割と認識すべきです。

隙を与えない経営環境と言っても規則や管理でがんじがらめにしたり、監査で粗探しなどによる制約をすることではありません。隙を与えない経営環境づくりの真なる目的は、監査などの業務を通じて経営者と同じ土俵に立って、同じ視点でリスクを感じ、やり場と自由の中で店舗経営を主体的に行ない、正しい売上と利益確保の実現によって真の店舗経営者を育成することなのです。

ですので、監査などの牽制機能は経営者育成の場と認識が必要です。また、消防や保健所などの公的機関による検査も同様で、本来ならば自分自身で行うべき業務を第三者が専門的、客観的に指摘し、改善策まで教えてもらえる絶好の機会で、さらにその事例をまとめることで対策マニュアルも完成し自己成長ができる一石二鳥以上の場であるのです。このような姿勢の結果、信頼経営が実現できるのです。

企業財産と利益を守る店舗監査と危機管理の重要性

 店舗分権型経営において、店長の上司であるSV業務に不可欠なことは、不正や犯罪防止、事故や防火対策による企業利益の保全と確保が求められるのです。そのためには店舗問題の誘発要因に気付いて、犯罪や不正の芽を早々に摘むことが求められるのです。

①犯罪(不正行為、盗難、窃盗、強盗、暴力行為)
②原価管理の問題(棚卸ロス、万引き、従業員による不正)
③現金管理の問題(レジ、返金、小口現金、クーポン券や商品券などの処理)
④従業員の重大な違反事項(不法行為、法令違反行為、ひどい不品行、会社規定事項の軽視と違反)
⑤不従順・反抗

●犯罪や不正の多い店舗は、店のイメージ雰囲気も悪く、お客様も従業員も寄りつかなくなります。
→売上の減少

●店舗で事故が発生すると、お客様、そこで働く社員やP/A等、人命等の金銭以上のものを失うことになり、大きな無形の損失を出すことになり企業生命に関わる事態を招きます
→利益・企業存続の危機

●事故は滅多に起こらないように見えて実は身近にあり、ヒヤリハット*がその一部です。
→会社及び経営者代行のSVが事故防止のため店舗への指導と監視が必要

*ヒヤリハットとは
床が滑って転びそうになった。手を切りそうになったなど身近な危ないことが起こったが、幸い大事に至らなかった事象のことで、労働災害の発生比率から「1 件の重大事故の裏には、29 件の軽微な事故、300 件の怪我に至らない無傷事故」があると言われています。「ハインリッヒの法則」「1:29:300の法則」とも呼ばれています。

例えば、レジ現金管理おける現金差はマイナスとプラスの収支額ではなく、絶対値の合計を見る。そうしないと「現金差の収支が0に近ければ良い」となり、1件の現金差には300件の無傷事故があるという本質が見えなくなってしまうのです。

このように、店舗には不正や事故の兆候(事前現象)として、QSC(お客様満足度)レベルの低下、オペレーションスキルの停滞、クレーム数の増加、モラル(道徳面)の停滞、店舗運営水準の停滞、従業員のやる気や士気の喪失などの現象が必ず見られます。これら状況は早期に察知し対策を講じることが重要なのです。

放置しておくと、人離れ、人財不足、シフトの乱れなどとなって表面化し、結果、売上や利益まで悪影響を及ぼして経営危機を招くことにもつながります。

●店舗イメージの低下→人罪店舗(問題店舗=プロブレムストア)の増加
●赤字店舗(売上不振店=ダウンストア)の増加
→結果縮小均衡から売上低迷となり経営危機を招く

現在店舗で安全の問題がないからといって軽視せずに、8大監査(会計、資産、労務、衛生、情報、セイフティ(安全管理・犯罪防止)とセキュリティ(事故防止・防火管理)と経営理念の徹底やお客様満足度や業務監査を実施することで、安心安全な店舗づくりを可能にします。

お客様、P/Aや社員の安全を守り、企業の現金や所有物などの資産を守ることで、全店舗の最大限利益の保証、人財開発から店舗イメージが増大し、その結果、売上も増大するのです。それは、売上げや利益に直結し、売上は約3~8%、利益は3~5%の改善が可能とされているのです。

原点回帰。店舗会計監査と業務監査の即見直しを!

 中小企業やチェーン店において、企業ブランド、お客様満足度、収益確保や信頼担保のために各監査が必要なのです。

少子高齢過疎化が進む市場には、地域密着店の需要がより一層高まっています。地域ニーズに対応した店舗づくりのために。また、企業存続のため、お客様のためにも、従業員のためにも原点に戻った安心安全な店舗づくりが求められています。

そして「信頼し店を任せるが、信用はしない」ことを前提とした、店舗分権型経営の基盤となる店舗会計監査や業務監査を中心とした各監査の実施によって、皆さんが幸せになれることはお分かりいただけると思います。この機会に是非、見直しをしていただければ幸いです。

店舗監査概要は以上になります。次回から店舗会計監査と業務監査概要を公認会計士、税理士、中小企業診断士、監査のプロで株式上場のエキスパートである長山宏先生に解説をしていただきます。

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