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【この記事の概要】
ドミノ・ピザがデリバリー文化を定着できた本当の理由
日本上陸をしたドミノ・ピザは「30分以内で熱々ピザのお届け」と「品質に満足いただけない場合、交換または全額返金」の約束を顧客にした。当時、日本はまだ出前という文化で、売り手市場でお客様満足などという概念もなかった中、消費者はこの約束を「本当なのか?」と疑って試しに注文をする人も多かった。その結果、期待は大きく裏切られデリバリーという文化が定着するきっかけとなった。競合も真似をしてプロモーションをするも、ドミノ・ピザの競争優位性を逆に高めてしまった。この成否を分けた本当の理由とは。
デリバリー文化が定着することになったきっかけ
ドミノ・ピザがお客様にコミットした二つの約束
ドミノ・ピザが日本で大ヒットするきっかけになったのが、お客様との二つの約束だった。
ドミノ・ピザ「お客様との二つ約束」
・品質の約束:品質に満足頂けなかった場合、商品の作り直し、もしくは全額返金。
・時間の約束:30分以内にで熱々のピザをお届け
当時の日本はまだ出前という文化だったので、30分で熱々のピザをお届けするという「時間の約束」は消費者に大きなインパクトを与えた。さらに、衝撃的だったのは「品質の約束」だった。
しかしながら、この約束に「本当なのか?」と大きな疑問を抱いた消費者も多かった。
当時の日本を振り返ると、まだ出前という文化だったので注文してから届くまで約1時間はかかっていたため「本当に30分以内に届くのか?」。さらに、30分を過ぎた場合700円を割引すると。
また、売り手市場で現在のようなお客様満足という概念も浸透していなかった時代で、クレームを言うこともあまりなかった中、「商品の作り直し、もしくは全額返金って本当なのか?」
と消費者は出前のピザ屋を疑ってかかった。
そして、本当かどうか試しに注文をする人もでてきた。
結果、この斬新なお客様との約束は守られ、見事に消費者の期待は良い形で裏切られた。
やがて、それは口コミで広がっていった。もちろん、当時、現在のようなSNSなどは無い時代だったため人を介した温もりある口コミだ。
それが、30分以内に熱々のピザにありつけるデリバリーという文化が日本に定着するきっかけとなったのだ。
ドミノ・ピザは、このお客様との約束によって見事に新規客の獲得に成功し、お客様満足で固定客化を実現できた。
その後、デリバリーブームとなり、その最中に衝撃的なことが発生した。
それは、1990年代、社会問題となった重大な交通事故の多発によって、30分デリバリーの約束「時間の約束」が廃止されたことだった。
このことをマスコミは一斉に報道し、お客様からも心配の声が上がったのだ、、、
しかしながら、迅速なデリバリーには変わりなく、お客様の期待に応えることができ、逆境をはねのけることができた(詳細「ピープル・ビジネス理論 2章 ビジネスモデル論 3.業態革新の探究と競合差別化の歴史」を参照)。
さらに、これらの約束は現在も継続され、次のようにブラッシュアップされている。
プロジェクト3TEN(プロジェクト・スリーテン)
ドミノ・ピザは焼きたてのピザを迅速にお届けするため、様々な工夫を行っています。少しでも早く焼きあがるオーブンの開発導入。迅速なお届けを実現できる店内のレイアウト設計。
また、1店舗のデリバリー可能なエリアを小規模に設定しています。お持ち帰り3分、デリバリー10分で お届けすることが、私たちの目標です。
ドミノ・ピザ「100%満足保障」
私たちは、お客様の“ドアの向こうの幸せ”を守るために、常にベストを尽くします。
商品、接客、時間に対する不満、配達時間遅延によるキャンセルなど、お客様にご満足頂けなかった場合、商品の作り直し、もしくは全額返金をお約束しています。
競合他社などが物真似をし、反撃をしてきた
まったく影響を受けなかったドミノピザ
ドミノ・ピザの快進撃に競合他社も黙っておらず、反撃をしてきたのだ。
それは、競合他社がドミノ・ピザと同じような約束を打ち出しプロモーションを仕掛けてきた。
しかしながら、ドミノ・ピザでは少しセールスダウンがあったものの直ぐに回復し、総合的にはまったくと言ってもいいほど影響を受けなかった。逆に、売上が上がると言う良い影響があった。
そのワケは、競合他社がドミノ・ピザの真似をしてプロモーションをするもお客様との約束が守れなかった。そのため顧客は失望して、ドミノ・ピザに戻って来てくれたからだ。
競合他社がお客様との約束を守れなかったのは、表面的なことだけを真似て、お客様との約束を守るための行動を具現化するための仕組みがなかったからと言える。
お客様との約束を守れなかった競合との違い
現場で徹底され、約束を守るための支えとなったこと
具現化するための仕組みとは、どのようなものなのか。
お客様からの注文の電話を受ける。ピザをメイクする。デリバリーをする。これらを実践するのはパートアルバイトのクルーたちだ。そのクルーが、理解し、実践できるようにオペレーションが仕組化されていた。
つまり、お客様との約束を守るための支えは、「H・T・A – Heightened Time Awareness」と「HUTSLE!」という「時間を常に意識する」ポリシーだった。
これは、入社時研修で学んで叩き込まれ、現場で実践も徹底的に求められたことだ。
この二つのポリシーの意味は、
「HTA-Heightened Time Awareness」とは、ピザメイクやデリバリー、両ポジションの各工程ごとに基準時間があり、それを守ることが徹底的に求められ、時間の意識を持ち続けるポリシー。
「HUSTLE!」とは、3歩以上は小走りし、時間を意識してと生産性を高める、ハキハキした言動でイメージアップを図るポリシー。
とても厳しいのもであった(詳細「1.「出前からデリバリーへ」ドミノ・ピザとの出会い」を参照)。
お客様との約束は、単なる掛け声でもなく、プロモーションのためのキャッチコピーやコーポレートスローガンなどとも異なったもので、オペレーションと連動した具現化のためのもので、このようなポリシーによってお客様との約束が支えられていたのだ。
そのため、競合がドミノ・ピザを真似したプロモーションでもドミノ・ピザの牙城揺るがず、逆にドミノ・ピザの優位性を高めることになった。
ただし、このポリシーだけは事足りない。
具現化の仕方については2025年1月公開予定の記事で説明をします。
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