【最新版】人を大切にする経営「京セラフィロソフィー」紐解き 7.経営理念を浸透させるコツ|稲盛流「浸透工作」で、自ら動く組織を作る

人を大切にする経営 京セラフィロソフィー 経営理念を浸透させるコツ 稲盛流「浸透工作」の全貌を、脳科学や心理学の視点から紐解く。恐れを克服し、尊厳欲求を刺激する自主勉強会、店長の信頼を高める「人間力」、理念をスタッフの血肉にする実践的方法

【この記事で分かること】
「伝わらない」を「伝わる」に変える!店長のための行動心理学
「なぜか従業員が動かない…」そんな悩みを解決する、稲盛和夫さんが京セラで実践した理念浸透の具体策を解説。スタッフの「変わりたくない」心理や「反発」の壁を乗り越え、自ら行動する環境を作る「浸透工作」の全貌を、脳科学や心理学の視点から紐解きます。恐れを克服し、尊厳欲求を刺激する「自主勉強会」の活用、そして店長の信頼を高める「人間力」まで、理念をスタッフの血肉にする実践的なコツが満載です。

 前回の記事では、経営理念を組織に浸透させる上での様々な「難しさ」について深く掘り下げました。今回は、それらの障壁を乗り越え、稲盛和夫さんの教えから、理念をスタッフ一人ひとりの心に根付かせ、行動へと繋げる具体的な「コツ」と、それを店舗経営に活かすヒントを探ります。

この記事の目次

経営理念を浸透させるためのコツ|障壁を乗り越える方法

 人が行動をためらう「やらない理由」、具体的には「人は変わりたくない」「叱られたり矯正されたくない」「できもしない人から言われたくない」といった心理的な障壁を一つひとつ潰していくことが、経営理念を浸透させるための非常に重要なコツです。

稲盛和夫さんの教えから、その具体的な解決策を見ていきましょう。「やらない理由」については、前記事『人を大切にする経営「京セラフィロソフィー」紐解き 6.理念浸透の壁とその超え方』を参照してください。

解決策 その1:無意識のブレーキを外す「恐れの克服と環境づくり」

 スタッフが変化を恐れて行動できない状態を克服するには、以下の2つのアプローチが有効です。

1. 恐れの克服(「誘因 > 恐れの状態」を作る)

 心理学的に、恐れを克服するには「やりたいと思う気持ち(誘因)」が「恐れの状態」を上回るようにすることです。

稲盛さんはこれを最も重視し、「これをやると、あなたの仕事がもっと楽しくなるぞ」「この理念を実践すれば、お客様がもっと喜んでくれて、あなた自身も達成感を感じられるぞ」といったように、相手の身になって、その行動がスタッフ自身の人生や仕事にとって重要だと感じてもらえるように働きかけました。

つまり、「相手にとって良い」と思ってもらえることが何よりも大切なのです。

2. 環境づくり(3つのタイプ別アプローチと習慣化)

「誰もがやる状態を作り、自分だけがやらないという選択肢がないような環境」を店舗に作り上げることが重要です。稲盛さんは人間を以下の3つのタイプに分け、それぞれに合わせた浸透工作を行いました。

  • 自然性(自ら進んでやる人):理念を率先して実践するスタッフを「火付け役」とし、彼らに先頭を走ってもらいます。彼らの行動が他のスタッフの良い刺激となります。
  • 可燃性(たきつければ火が付く人):自然性のスタッフの行動を見て、「自分もやってみようかな」と思い始めるタイプのスタッフです。店長が積極的に声かけをしたり、成功事例を共有したりすることで、彼らに火をつけ、行動を促します。
  • 不燃性(テコでも動かない人):なかなか変化を受け入れないスタッフに対しても、諦めずに少しずつ働きかけます。例えば、理念に沿った小さな行動でも見逃さずに「よくできたね!」「お客様が喜んでいたよ」と具体的に褒め、動機付けを行います。

 そして、最も重要なのが習慣化です。どんなに嫌なことでも、習慣になれば無意識に体が動くようになります。

店長は、あらゆる機会を捉えて、経営理念を日々の業務や行動に結びつけて指導し、スタッフが「耳にタコができる」ほど繰り返し聞く状態を作ります。

「嘘も100回言えば本当になる」という言葉のように、すべての行動や考え方が経営理念に則って行われるよう、継続的に働きかけ、無意識レベルで実践できる習慣を築くことを目指します。

解決策 その2:スタッフの「尊厳欲求」を刺激する「自主的な学びの場」

 スタッフの「尊厳欲求」を刺激し、理念を「やらされ仕事」ではなく「自分事」として捉えてもらうためには、「自主勉強会」の主催を目指すのが効果的です。人は人から言われたことはやりたがりませんが、自主的にやることは大切にするからです。

JAL再建の事例がこれを雄弁に物語っています。JALでは、稲盛さんの指導のもと、経営理念の自主勉強会を推奨しました。好きな仲間や職場のチームごとに、自由に自分たちのやり方で勉強会を行うことを奨励したのです。

最初はなかなか進まなかったものの、ある時期から社内で「これは良い」という評判が立ち始め、まるで「雨後の竹の子」のように次々と勉強会が開催されるようになり、理念は一気に浸透していきました。

自主勉強会を通じて、スタッフは心が晴れやかになり、仕事もスムーズに進むようになり、それが業績にも直結することを身をもって感じられるようになりました。

このポジティブな体験が社内に口コミを生み、理念浸透の大きな原動力となったのです。店舗でも、例えば「お客様満足度向上ミーティング」や「新商品勉強会」などを、スタッフが自主的に企画・運営する形にすることで、同様の効果が期待できます。

解決策 その3:リーダー自身の「人間力」で信頼を得る「言行一致と謙虚さ」

「店長自身ができていないことはやりたくない」というスタッフの反発への対策として、稲盛さんは次のように述べています。

「私もできないかもしれないが、こうありたいと思っている。ですからみんなでこれを血肉化して幸せになろうではないか」そして、「もし自分ができないときは遠慮なく指摘してほしい。そうすれば私も気づけて直せるのでありがたい」と伝え、皆で取り組めるように工夫されました。

店長が完璧であることを求めるのではなく、「私もまだ道半ばだが、共に理念を追求し、より良い店舗、より良い自分を目指そう」という謙虚な姿勢を見せること。

そして、自らの至らない点を素直に認め、スタッフからのフィードバックを歓迎する姿勢は、スタッフからの絶大な信頼を得ることに繋がります。この「人間力」こそが、理念浸透の土台となるのです。

理念を根付かせるために:日々の実践と組織文化への定着

 経営理念の浸透は、単なる知識の伝達ではありません。スタッフ一人ひとりの心に理念を根付かせ、行動へと繋げるための、粘り強い「浸透工作」が必要です。

今回ご紹介した「恐れの克服」「環境づくり」「尊厳欲求の刺激」「リーダーの姿勢」という解決策を参考に、ぜひ皆様の店舗で経営理念の浸透に努められることを期待しています。

次回の記事では、「人を大切にする経営「京セラフィロソフィー」紐解き 8.理念経営の実践」として、浸透した理念をどのように日々の経営に活かしていくか、その実践についてさらに深く掘り下げていきます。

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