『八百屋』とは知識に富んだ学問・技芸・趣味などに通じている人の店
半世紀で61%減、2.8万店も減少した『八百屋』。それだけに本物が生き残る
かつて商店街には必ずあり、私たちの暮らしを支えてくれた八百屋。その役割をスーパーマーケットに奪われ、街なかで見かけることが減って久しい。
経済産業省の経済センサスによると「野菜・果実小売店」の数は、1991年の4万6700店から2016年の1万8397店まで減少。
詳細はまだ発表されていないが、2021年調査ではさらに数を減らしていることは想像に難くない。
しかし、それだけに本物は残り、ひときわ光り輝く。八百屋という言葉には「野菜・果物の小売商」のほかに、知識に富んだ学問・技芸・趣味などに通じている人という意味がある。そんな八百屋が福岡市にいる。
自店舗を取り巻く環境が変わり経営が厳しくなると、「店舗数が減っている」「景気が悪い」「チェーン店には敵わない」と外的要因を理由に諦めてしまうことが往々にしてある。外的要因はすべての経営者に平等に与えられたもので、それを「危機と捉えるか」、「チャンスとして捉えるのか」によって商いの本質も結果も異なる。
与えられた経営環境を真正面から受け止め、逃げずに、諦めずに商売の原点である「利益はお客様の笑顔」を探究された 「The商人」の横顔を紹介したい。
私たちの仕事は「家族が集まる食卓を『美味しいね』と笑顔にすること」
採れ時、買い時、食べ時という『三つの時』を半世紀以上も探究した結果、年間45万超のお客様から支持される
商う目的は
食卓の笑顔
福岡市西区のショッピングセンター「木の葉モール」に店を構え、レジ待ちの行列が途切れない青果店「やおや植木商店」は、20坪足らずの売場でおよそ500種類の野菜と果物を商う。
一日あたりの客数は、なんと平日は平均で1000人、土日祝日は2000人、年間45万超のお客様から支持され、一日の坪当たり売上高は20万円という繁盛店だ。
3代目店主、植木宏徳さんの一日は深夜0時過ぎ、久留米の青果市場から始まる。4代目を継いだ息子の剛さんと共に、まだ人も商品も少ない市場に誰よりも早く訪れ、刻々と入荷してくる品を確かめ、今日の買いつけを決めていく。
「野菜や果物にはどれも、採れ時、買い時、食べ時という『三つの時』があります。採れてすぐ食べたほうがよいものもあれば、少し待ったほうがさらにおいしくなるものもある。私たちの仕事は、品種や産地でことなるそれぞれ三つの時を把握し、最もおいしい食べ時をお客様にお伝えし、家族が集まる食卓を『おいしいねえ』と笑顔にすることです」
こう語る植木さんの品揃えの基準は、お客様の笑顔。昨今の食卓に欠けている家族のだんらんを取り戻し、家族の絆を深めてほしいという願いが込められている。
それゆえ、家庭で毎日食べる野菜や果物をリーズナブルな価格で提供することを半世紀にわたって追求してきた。
仕入とは「産地(どこ)ではなく、誰から買うか」が重要
市場を通さない仕入れは…