SVマニュアル 1.「経営者の右腕」として機能するスーパーバイザーの役割と使命、職務遂行責任と昇格条件

SVマニュアル スーパーバイザーの役割と使命、職務遂行責任と昇格条件 SVは経営者の右腕として、売上・利益の増加、人材育成、店舗レベルの向上という職務遂行責任を担い、会社の経営方針を現場に徹底させ、「人財開発」と「利益確保」を実現

【この記事で分かること】
 SVシステムで店舗経営の魅力を引き出し、企業の成長を加速させる経営指導者の条件
 このSVマニュアルは、店舗経営を成功に導く実践的な内容を解説します。SVは「経営者の右腕」として、売上・利益の増加、人材育成、店舗オペレーションレベル向上という職務責任を担います。この役割を明確に定義し、間接的な経営指導を通じて複数店舗を統括することで、企業の成長を牽引する重要な存在となるのです。

 この連載記事では、スーパーバイザー(SV)として、店舗経営を成功に導くための実践的な知識とスキルを解説します。第1回となる今回は、SVの役割と使命、職務遂行責任、そして昇格条件について詳しく見ていきましょう。

この記事の目次

SVマニュアルシリーズへ、ようこそ!

 店長からSVトレーニー(見習い)への昇格、おめでとうございます!

店長時代、あなたは憧れの眼差しでSVの背中を追いかけてきたことでしょう。しかし、実際に自分がSVの仕事をするとなると、何が求められ、どんな業務をすればいいのか、漠然とした不安を感じているかもしれません。

昇格した喜びと意欲に満ちている一方で、誰もが通る道でもあります。店長をはじめとするマネジメントチームに良い影響を与え、新SVとして素晴らしいスタートを切れるよう、このマニュアルを活用してください。あなたの活躍を心から祈念しています。

このマニュアルは、スーパーバイザー(SV)やエリアマネージャー、ディストリクトマネジャーを目指す方々、あるいは店舗経営者としてSV制度を効果的に活用したいと考えている皆様に向けて作成されました。

SVマニュアルシリーズは半世紀以上、多くの人たちの支えがあって現在形にまとめられました。 ピープル・ビジネス・オンライン『店長マニュアルシリーズ』も連動した店舗経営を包括したパッケジマニュアルですので、店長教育時に是非とも活用してください。

SV、エリアマネージャー、ディストリクトマネージャーの違い

 いずれも管理職ですが、担当範囲と役割に違いがあります。企業によっては呼称が異なっても、主な職務は類似している場合もあります。

役職担当範囲主な役割
スーパーバイザー複数店舗の店長、社員やパート・アルバイト店舗経営に関わるマネジメントを経営代行として実施。経営理念の実現と経営計画の達成。業務品質の向上、業務効率の改善、問題解決に向けた指導・監督
エリアマネージャー複数の店舗や拠点を含むエリアエリア戦略の立案・実行、売上目標達成、店舗間の連携強化、人材育成
ディストリクトマネージャーより広範囲のエリア(エリアマネージャーを統括)エリア戦略の立案・実行、エリアマネージャーの統括・評価、経営目標達成に向けた施策の実行

SVは単なる「巡回担当者」「現場のメッセンジャー」「現場の御用聞き」ではありません。店舗を巡回することやチェックリストを付けることがSV業務の目的でもありません。

SV本来の役割は、経営者に変わって、会社の経営方針を守り現場に徹底させることで、会社の生命線である「人財開発」と「利益確保」を実現する、独立した権限を持つ経営指導者です。

SV制度の問題提起と背景

 多くの企業でSV制度が導入されているにもかかわらず、店舗経営がうまくいかない原因の多くは、SVが本来の機能と役割を果たせていないことにあります。これは、SVが抱える問題点が店舗運営に悪影響を及ぼし、様々な問題の連鎖を引き起こしているためです。

SVの機能と役割

 まず、SVが持つべき本来の機能と役割を明確に定義します。SVは「経営者の右腕」として、間接的な経営指導を通じて複数店舗を統括し、企業の成長を牽引する重要な役割を担います。その主要な機能と役割は以下の通りです。

  • SVの機能:会社の経営方針を守り、現場に徹底させること。それを通じて、会社の生命線である「人財開発」と「利益確保」を実現します。
  • SVの役割:上記の機能を果たすための「独立した権限を持つ経営指導者」として、店舗を間接的に指導し、会社の経営代行を務めること。店長や現場の従業員に対して、経営者視点での指導を行い、モチベーション向上とスキルアップを支援します。

これらの機能と役割をSVが果たすことで、有益な人財が育ち、出店に必要な資金を確保できます。その結果、人財の活躍の場として新たな店舗の出店が可能になり、多店舗展開という企業の成長が実現するのです。

SVシステムが抱える問題点と悪影響

 SVシステムが抱える主な問題点と、それが店舗運営に与える悪影響は以下の通りです。

1. SVの機能・役割の未達成

 SV自身の事務処理や問題処理に時間がとられ、本来の店舗運営や人材育成といった機能・役割が十分に果たせていない状況です。また、「巡回担当者」「現場のメッセンジャー」「現場の御用聞き」といった役割に終始し、経営指導者としての機能を発揮できていないケースも散見されます。

2. 知識・技術レベルの低さ

 店舗運営に関する知識や技術レベル、特に現場を法令遵守と監査の視点から把握し、評価するための専門知識が不足しており、これが店舗運営水準の停滞や従業員のモラル低下、やる気の喪失につながっています。

3. 信頼性・確実性のない欠陥運営

 オペレーションや店舗管理、コミュニケーションなどに問題があり、結果として売上・利益の減少や退職者の続出、クレーム・重大事故の誘発といった悪影響に及ぼします。

SVシステム機能不全が引き起こす問題の連鎖

 SVとしての機能と役割が果たせないことが、店長や店長代理がその役割と機能を果たせないことにつながり、問題の出発点となっています。その結果、以下のような悪循環が発生します。

  • フェーズⅠ:パート・アルバイトのレベルダウンから、顧客満足度(QSC)の低下を招き、売上と利益の減少につながり、さまざまな問題が表面化します。
  • フェーズⅡ:SVは問題処理や店長に代わって店舗業務に追われ、店長はワーカーとしてパート・アルバイト業務を日常的にこなすことになります。
  • フェーズⅢ:このような状況下で常に人員不足での店舗運営から、仕事が楽しくない、業務内容への不満といったモラールの低下や長時間労働といった問題も発生します。
  • フェーズⅣ:店の雰囲気や労働環境は悪化をたどり、退職者が続出して人手不足が慢性化します。

これらの問題が複合的に作用し、顧客満足経営が困難になるだけでなく、様々な問題やクレーム、重大事故を引き起こし、縮小均衡を招くことになります。

SVシステムを正しく機能させるための条件

 SVシステムを最大限に機能させるためには、以下の条件を整えることが不可欠です。

1. SVの定義とスーパーバイジングシステム

 スーパーバイジングシステムとは、会社の経営方針を守り、現場に徹底させることで、人財開発とプロフィット機能を実現する「社内企業家育成システム」です。

このシステムを実践するスーバーバイザー(SV)は、社長の右腕として、経営理念を店舗に浸透させ、会社の経営計画に基づいた人材採用と育成を担う重要な役割を果たします。

2. SVに求められる職務遂行責任と職務

 SVは、主に以下の3つの職務遂行責任を負います。

1. 複数店舗を担当し、売上と利益を増加させること

  • 各店舗の売上データやP/L(損益計算書)を詳細に分析し、売上向上のための具体的な施策を立案・実行を指導します。
  • 予算計画の策定を店長と共同で行い、実績との差異を分析し、改善策を検討します。
  • 販売促進計画(ストアレベル・プロモーション)の策定と実施を支援し、効果測定を行います。

2. 人材開発と指導に当たり、本社本部の条件を満たすレベルの優秀な人材を育成すること

  • 各店舗のマネジメントチームや従業員一人ひとりの能力を把握し、個別の育成計画を作成します。
  • OJT(On-the-Job Training)やC&T Day(Communication & Training Day)を計画的に実施し、スキルアップを促します。
  • 人事評価制度を公正に運用し、従業員のモチベーション向上とキャリアパス形成を支援します。
  • 人員計画と採用計画を店長と連携して策定し、質の高い人材を確保します。

3. 店舗オペレーションレベルを上げるよう指導すること

  • 短期的な目標設定と課題抽出には「マネージメント・ビジテーション・レポート」を、長期的な目標設定と課題抽出には「店舗総合診断レポート」を活用し、客観的な視点から店舗の問題点を診断します。
  • オペレーションマニュアルに基づいた手順や基準のチェックから適切な指導を行い、業務品質の維持・向上を図ります。
  • QSC(Quality, Service, Cleanliness)を常にチェックし、顧客満足度を高いレベルで維持するための改善策を指導します。
  • 現場を法令遵守と監査の視点から把握し、安全で安心な労働環境を整備するよう指導します。

3. スーパーバイジングシステムの再生(企業家育成システム)

 SVシステムを正しく機能させるためには、根本的な問題点の解決と再生が必要です。この「再生」とは、「人」の立て直しを意味します。

  • 人財開発体系: 各階層の役割・責任、業務基準や評価基準が不明確であり、トレーニングプログラムやチェックシステムが不十分なため、育成目標の達成が困難になります。
  • 本社による店舗への過度な統制の弊害: 店長にP/L管理が任されておらず、店舗経営に関する知識やスキル、当事者意識が育たないため、ビジネスライクな思考が不足します。
  • 階層別・個人別の到達目標が不明確: 各階層でトレーニングや知識・経験が不足しており、個人のパーソナリティに依存した知識・スキルに頼っているため、全体的な機能不全を招きます。

これらの問題が、売上低迷や成長低迷、問題店舗の増加という負の連鎖を引き起こしています。SVシステムを再生し、人財開発戦略の構築と展開、そして売上と利益の増大に繋げることが不可欠です。

4. 昇格条件

 SVへの昇格は、単に店長としての実績だけでなく、複数の店舗を経営者視点でマネジメントできる能力が求められます。具体的な昇格条件については、次回の第2回で詳細に解説します。

まとめ – SVへの職責変更と求められる能力

 SVへの職責変更は、営業日報、報告書や損益計算書などから異常を察知し、現場検証で本質を究明し、店長を通じて改善を指導するという間接的マネジメントを担う重要なステップです。

店長が1店舗のマネジメント規模であるのに対し、SVは複数店舗を担当するため、その職責とマネジメント規模は数倍に膨れ上がります。SVは、これまでの店舗マネジメントの枠を超え、複数店舗の経営指導を担うことで、企業の成長に欠かせない存在となります。

本マニュアルは、SVとしての役割と使命を正しく理解し、その職務を全うするための羅針盤となるでしょう。次回の第2回では、「店長からSVへの職責変更、SVの基本業務、そして昇格条件の詳細」について詳しく解説していきます。お楽しみに。

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