【この記事の概要】
ダイソーの世界戦略と米国1000店への挑戦と勝機
ダイソーは、高品質・低価格戦略と店舗運営ノウハウを活かし、世界26以上の国と地域で5,000店舗以上を展開する100円ショップです。成長戦略において米国市場を重視し、2030年末までに1,000店舗展開を目指しています。日本らしい商品と品質、節約志向の高まりを背景に支持を拡大する一方、物流網構築、人件費、競合、文化適応、人材育成、「100均」イメージ確立、万引き・不正対策が課題です。戦略的出店、効率化、地域マーケティング、人材育成、セキュリティ強化を通じて、米国での確固たる地位確立を目指すダイソーの最新戦略と課題を解説します。
ダイソーの世界展開と米国戦略
グローバル展開の現状と強み
100円ショップ「ダイソー」は、アジア、北米、中東、オーストラリアを含む26以上の国と地域に店舗を展開し、世界中で成長を続けています。各国・地域の市場ニーズに合わせた柔軟な商品構成と価格設定により、現地のお客様から高い支持を得ています。
日本国内で長年培ってきた商品開発力と厳格な品質管理に加え、オペレーション、人材育成、店舗マネジメントや出店戦略のノウハウを活かし、海外でも同様のビジネスモデルで競争優位性を確立しています。
低価格かつ高品質な豊富な商品戦略に加え、清潔な店舗、親切な接客、迅速なレジ対応、効率的なレイアウトや陳列、商品が買いやすい売場こそが、ダイソーが世界各地で着実に成長し店舗数を増やしている大きな要因と言えるでしょう。
世界におけるダイソーの店舗数(2025年2月末現在)
- 全世界店舗数: 5,670店舗
- 海外店舗数: 1,045店舗
- 海外展開国数: 26の国と地域(日本を除く)
米国展開の現状と目標
ダイソーは米国において着実に店舗数を増やしており、これまで西海岸の主要都市を中心に店舗網を拡大してきました。近年では、テキサス州、ニューヨーク州、イリノイ州、ニューメキシコ州など他の地域への展開を積極的に進め、アジア系住民が多い地域以外への出店も進めています。
日本らしい商品と品質の高さが評価され、インフレによる生活費の高騰を背景に、低価格でも高品質な商品が幅広い顧客層に支持されています。アメリカでは雑貨店として認知されており、日本発の商品に加え、現地ニーズに合わせた商品開発や接客サービスの向上にも力を入れています。
この好調な状況を踏まえ、ダイソーは成長の余地が大きい米国市場で2030年末までに1,000店舗を展開するという中長期目標を掲げ、積極的な出店戦略と物流・製造拠点の機能強化などを進めています。
主要な展開地域
- カリフォルニア州: 特にロサンゼルス、サンフランシスコなどの主要都市を中心に多数出店
- テキサス州: ダラス、ヒューストン、オースティンなどに出店
- ワシントン州: シアトルに米国1号店があり、その後も出店
- ニューヨーク州: ブルックリン、クイーンズ、マンハッタンに出店
最近進出した地域
- イリノイ州: シカゴ郊外に「DAISO」「Standard Products」「THREEPPY」の複合店がオープン
- ニューメキシコ州: サンタフェにオープン
- アリゾナ州: チャンドラーなど、アジア系住民が多い地域で人気
- オレゴン州: グレシャムに出店
最新の店舗リストは、ダイソーUSAの公式サイト「店舗一覧」をご確認ください。
5年後1,000店舗達成における課題と対策
効率的な物流網の構築
広大な国土を持つアメリカにおいて、効率的な物流網の構築はダイソーの収益性を左右する最重要課題です。物流コストは店舗経営に大きな影響を与え、その最適化は不可欠と言えます。今後の1,000店舗という目標達成に向けて店舗数が増加するにつれて、物流コストの増大や配送遅延のリスクが高まります。
この課題に対応するため、サプライチェーン全体の見直しと最適化が急務となります。具体的には、複数の配送拠点の設置による配送距離の短縮、輸送ルートの効率化、倉庫管理システムの高度化などが考えられます。また、IT技術を活用した需要予測の精度向上も、過剰な在庫や欠品を防ぎ、物流効率を高める上で重要です。
さらに、輸送手段の多様化や、現地の物流事業者との戦略的な提携も有効な手段となり得ます。コスト効率だけでなく、災害時などにも安定した配送を維持できる強靭な物流網の構築が、ダイソーの米国市場における持続的な成長の基盤となります。
人件費高騰への対応と効率化
アメリカにおける人件費の高騰は、ダイソーの店舗運営において大きなコスト増要因となります。日本と比較して高い人件費に対応するためには、従来の価格設定を見直し、商品の価格帯を多様化する「プライスライニング」戦略などが考えられます。これにより、高価格帯の商品を導入することで、人件費の上昇分をカバーする売上確保の機会となります。
同時に、徹底的なコスト構造の見直しも不可欠です。サプライチェーン全体を最適化し、無駄なコストを削減することはもちろん、店舗運営においても効率化を追求する必要があります。
具体的には、セルフレジの導入や自動化技術の活用による省人化、AIを活用した在庫管理やシフト管理の最適化などが挙げられます。従業員一人当たりの生産性を向上させるための研修制度の充実や、業務プロセスの見直しも重要です。
より少ない人員で高い成果を上げられる運営体制を構築することで、人件費高騰の影響を最小限に抑え、アメリカ市場における持続的な成長を目指すことが重要です。
出店戦略の推進
1,000店舗という目標達成のためには、売上予測の精度を高めた戦略的な出店が不可欠です。売上予測の失敗は不振店舗に直結し、今後の出店計画全体に悪影響を及ぼしかねません。
そこで、既存店と競合店の緻密な分析、徹底した市場調査に基づいた商圏の潜在購買力の把握が重要となります。その上で、高精度な売上予測と立地判定を可能にするGIS商圏分析ソフトの活用が重要となります。
さらに、地域特性に合わせた多様な店舗フォーマットの展開も重要な鍵となります。都心部、郊外、住宅地など、それぞれのエリアのニーズに合致した店舗設計と品揃えが求められます。
これらの戦略を実行し、急速な出店ペースを維持するためには、店舗開発を担う不動産部門の強化が喫緊の課題となります。物件情報の収集力、交渉力、そして迅速な意思決定体制の構築が重要です。

競合との差別化戦略
アメリカ市場には、ウォルマートやダラー・ツリーといった強力な競合が存在します。ダイソーが優位性を確立するためには、「日本らしい」独自の商品、高い品質、そして丁寧な接客サービスといった強みを際立たせる必要があります。
特に注目すべきは、大手1ドルショップであるダラー・ツリーが、長年堅持してきた「1ドル価格」を維持できずに値上げに踏み切った点です。この変化は、ダイソーにとって「100均」というワンプライスショップならではのお値打ち感を改めて訴求する好機と言えるでしょう。
さらに、商品の質やグレードに応じて価格帯を設定する「プライスライニング」戦略も、顧客の多様なニーズに応え、競合との差別化を図る上で重要な選択肢となります。
現地の文化と消費行動への適応
ダイソーがアメリカ市場で成功を収めるためには、日本との文化的な違い、すなわち生活習慣、価値観、購買行動などを深く理解し、それらに合わせた事業展開が不可欠です。アメリカと日本では、消費者が何を重視し、どのように商品を選び、どのような店舗体験を求めるかが大きく異なります。
例えば、アメリカの家庭では、日本よりも大きなサイズの製品や、週末に家族や友人と集まるためのパーティーグッズなどの需要が高い傾向があります。また、DIYやホームセンター文化が根強く、実用的な商品に対する関心も高いでしょう。店舗レイアウトにおいても、広々とした空間で通路が広く、カートが通りやすい配置が好まれます。
プロモーション戦略においても、日本の手法がそのまま通用するとは限りません。アメリカでは、テレビCMやオンライン広告、SNSなどを活用した積極的なマーケティングが重要になります。また、地域ごとの特性を考慮し、例えばヒスパニック系の住民が多い地域ではスペイン語での広告や、彼らのニーズに合った商品展開などが有効となるでしょう。
このように、アメリカ市場においては、画一的な店舗運営ではなく、地域ごとの特性を細かく分析し、商品構成、店舗レイアウト、プロモーション戦略を柔軟かつ迅速に調整する店舗マーケティングの「ストアレベルマーケティング」が成功の鍵となります。
現地の消費者のニーズを的確に捉え、地域に根ざした店舗運営を行うことで、アメリカ市場において確固たる地位を築き、更なる成長を可能します。
人材の確保と育成
大量出店を支えるためには、十分な数の人材確保が不可欠です。そのため、現地における積極的な採用活動を展開する必要があります。同時に、採用した人材をダイソーの一員として育成し、その理念や高品質なサービスをしっかりと理解してもらうことが重要です。
さらに、店舗展開を加速させるためには、店舗マネジメントを担う店長、マネージャー、そしてスーパーバイザーの育成が急務であり、その育成スピードは店舗展開のペースに合致している必要があります。
ダイソーでは、グローバルに活躍できるリーダーを育成するための「リーダーシップ・ローテーションプログラム」を実施しています。このプログラムを通じて、従業員は多様な部門での実務経験を積み重ね、必要なスキルと問題解決能力を習得することを目的として人材育成を進めています。

「100均」イメージの確立
日本で広く浸透している「ダイソー=100均」というイメージを米国市場に確立することは、価格競争力を高める上で極めて重要です。アメリカの消費者に「ダイソーに行けば、手頃な価格で高品質な商品が手に入る」という認識を根付かせる必要があります。
そのためには、明確な価格設定と、お値打ち感のある豊富な商品構成を軸とした店舗マーケティング戦略を展開することが不可欠です。例えば、主力となる価格帯を明確に打ち出し、消費者に分かりやすい価格体系を提示する必要があります。同時に、価格に見合う以上の品質を持つ商品を積極的に展開し、「お値打ち感」を強く訴求することが重要です。
具体的な施策としては、店舗内外での価格表示の徹底、お買い得商品を分かりやすく陳列する工夫、そして「低価格・高品質」を強調した広告宣伝などが考えられます。SNSやオンライン広告を活用し、ターゲット層に効果的にアプローチすることも重要でしょう。
「ダイソー=手頃な価格で高品質な商品が手に入る店」というブランドイメージを確立し、商圏の顧客に浸透させることで、価格に敏感な消費者の来店を促し、安定的な顧客基盤の構築に繋げることが期待されます。

万引き・不正対策
ダイソーの米国展開において、万引きや従業員不正への対策は、店舗の収益性維持、安全な運営、そして地域社会からの信頼獲得という観点において、米国展開を行う上でとても重要な課題です。
- 万引き対策
万引き対策は、日本国内と同様に、防犯カメラの設置による抑止効果が期待されます。また、従業員による声かけの強化や、死角を減らす店舗レイアウトなどは必須です。
米国では、セルフチェックアウトの導入が進んでいますが、これは万引きリスクを高める可能性があるため、従業員による監視の強化や、AIを活用した万引き検知システムの導入も必要になります。
また、AIカメラやAIセキュリティを活用することで、犯罪の抑止効果に加え、不審な動きの検知による犯罪予兆の把握が可能となり、犯罪の未然防止に繋げられます。これにより、省力化を図りながら、逸失利益を減らすこともできます。
- 内部不正対策
従業員不正対策は、まず採用時の身元確認の徹底が重要です。入社後の対策としては、内部監査の実施、複数担当者による業務分担、スーパーバイザーによる監視体制、現金差異・棚卸しロスを中心としたPOSデータの分析による不正の早期発見などが挙げられます。また、従業員向けの倫理教育や内部通報制度の整備も、不正行為の抑止につながります。
米国と日本では文化や商習慣が異なるため、日本の対策をそのまま適用するのではなく、現地の状況に合わせた対策を講じることが重要です。

ダイソーの世界展開と米国戦略の展望
ダイソーは、世界26以上の国と地域で展開するグローバル企業として、成長の大きな柱と捉える米国市場での成功を目指しています。2030年末までに1,000店舗という目標達成に向け、積極的な出店と物流・製造基盤の強化を推進。雑貨店としての認知を活かしつつ、日本の強みである高品質・低価格の商品戦略と、地域ニーズに合わせた商品開発、丁寧な接客で顧客獲得を図ります。
ただし、広大な国土ゆえの物流網構築、高水準な人件費への対応、強力な競合との差別化、文化・消費行動の違いへの適応、人材確保と育成、「100均」イメージの浸透、そして、万引き・不正対策といった課題克服が不可欠です。
これらの課題に対し、戦略的な出店、効率化、プライスライニング、地域マーケティング、人材育成プログラムなどを通じて着実な成長を目指すダイソーの今後の展開が注目されます。