会社の定めた基準の遵守と基本を徹底することが重要
と言うと「機械的、マニュアル的な人財開発」をイメージされることが多くあります。
しかしながら、決してそうではなく「正しいことを正しく行う」ための最低限のルールや基準のことを指します。
店舗経営(ピープル・ビジネス)の場合、業務やルールが標準化されておりかつ単純・わかりやすさ・明快さが必要です。それを一言で表すと「シンプル」といえるでしょう。
人間は自分勝手な存在であり誰もが自分の都合で考えますので、基本動作や考え方については店舗間のばらつきを極力抑えて同じように行われて同じような結果が出せることが求められます。
そのためには店舗で使う言葉などは誰もが同じ認識ができるように定義しなければなりませんし、オペレーションについては、誰もが同じようにできるように詳細に規定して疑問の余地を残さない工夫が必要です。
これは、人種、国籍、性別、学歴や年齢などなど、多様化した人たちの誰もが同じようにできるようにオペレーションを単純化(Simplification)、標準化(Standardization)、専門化(Specialization)の3S*で設計開発しています。
このような観点から本社本部で想定している想定と比較して各店舗でのオペレーションや結果がどうであるかを見ながら店舗水準を監査します。
ここではその際の視点としてチェックすべき項目とそれに関する着眼点(視点)をご説明します。
■3S*の詳細は「ピープル・ビジネス理論 2章 ビジネスモデル論 3 業態革新の探究と競合差別化の歴史」を参照してください
1.クレンリネス(清潔)と衛生
店がきれいであるかどうかは売り上げに直結します。汚い店は人を寄せ付けないと店舗経営(ピープル・ビジネス)では定義しています。店舗イメージの源は清潔さや衛生さに表れます。
店舗環境はそこで働く人たちの心の状態を示していますので、仕事にやりがいを持ち、生き生きと働けている職場では5S*が徹底され、掃除が行き届き清潔で衛生的な環境が実現しています。
クレンリネス(清潔)と衛生の着眼点
(1)トイレ 清潔で衛生的か?用具や紙類は十分補充されて欠品が起こらない状態になっているか?
(2)従業員の身だしなみ 清潔で衛生的か?
(3)休憩室やバックヤード 5Sが徹底されており清潔で衛生的か?
(4)店舗外観 店外の雑草除去や植栽の手入れ、看板の状態、のぼり旗や懸垂幕など店舗外観イメージは良いか?清潔で衛生的か?
(5)店舗出入口 ドアガラス、入口マットや自動ドアの溝の汚れは手入れがされているか?清潔で衛生的か?
(6)店舗内 5Sが徹底されており、天井から床までが清潔で衛生的か?照明切れが無く、床に照明が鏡のように反射しているか?
(7)売場やレジ周り 5Sが徹底されており、清潔で衛生的か?
などを段階的に詳しくチェックしてください。
その理由は、例えトイレだけが衛生的で清潔に維持できていたとしても、業績が悪い店は、トイレが汚く、スッタフの身だしなみは乱れ、休憩室は汚れ、看板は色褪せし、照明の電球切れ、出入口が店内は汚く、植栽は枯れ、ポスターやPOPは破れ、そして、傘立は傘で溢れているなど、顕著な特徴であり、何れ『腐ったみかん*』のように腐敗が広まってしまいます。
そして、自分のことや身の回りのことに配慮や三配り(目配り、気配り、心配り)ができない人が他人であるお客様への配慮などまでできないからです。
段階的な5Sの徹底により清潔で衛生的であり、できれば見えないところまできれいになっているかを調べると従業員(パートアルバイト、社員)のクレンリネス(清潔)と衛生に対する意識の度合いが分かります。
『腐ったみかん*』とは:1980年代にTBSで放送されたドラマ「3年B組金八先生」で教師役の武田鉄矢が一人の不良少年がクラス全体に悪影響を与えることを表現した言葉で「箱の中のみかんが一つ腐ると他のみかんも腐ってしまう。だから腐ったみかんは早く取り除かなければならない」という名セリフ。『腐ったみかんの方程式』とも呼ばれている
5S*とは:「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の意で、それぞれのローマ字表記の頭文字のSをとった言葉
それぞれの意味は
「整理」とは :必要と不要を区別し、不要なものを捨てること
「整頓」とは : 置き場所を明確にし、使いやすく並べて表示すること
「清掃」とは : きれいに掃除をしながら、あわせて点検すること
「清潔」とは : きれいな状態を維持すること
「しつけ」とは : きれいに使うようにルールを守り習慣づけること
■5S*の詳細は、「中小企業向け補助金・支援ポータル ミラサポplus中小企業向け補助金・総合支援サイト」マンガでわかる「5S活動」を参照してください。
2.売場や客席の状態(仕入から販売まで)
売場や客席の状態が乱れ、欠品があれば、当然ながらお客様への購買意欲を削ぐ要因となりチャンスロスのみにとどまらず再来店しないことに直結する重要な要因です。
そうならないために、小売店の場合、品出しや配列、棚割り通りの商品配置、消費期限管理、欠品の有無と在庫数、値引き処理などがルール通りに行われているか等を監査します。
ここで重要なのはいかに「基本に忠実にオペレーションが行われているか」です。先ずは正社員が基本をマスターして「決めたことを決めたとおりにやる」ことができているかがここでの重要な視点です。
基本が徹底しているかどうかを確かめるには、売場や客席の状態を見て問題が想定されたら、オペレーションを誰がどのようにやっており問題をどのように検出して、それをどのように解決しているかとった一連のプロセスを聞き出してどこに基本の崩れがあるかを見出しましょう。
基本を徹底するにはパート・アルバイトの全員に至るまで全員が無意識に基本通りの動きができるように、教育の徹底と周りの声掛けやアドバイスが重要になります。よい店舗は働く人たちすべてが心を一つにして声を掛け合いながら観察し合い確認し合いながら業務を行っています。
このプロセスを店舗経営(ピープル・ビジネス)では、問題の発見から本質原因究明*を段階的に検証できる仕組みと考え方がありトラブルシューティングと呼んでいます。
従業員同士の声掛けは、「○○お願いします」「○○ありがとう」といった声掛けを徹底しているので、この時点で依頼漏れやミスがあれば修正(是正)ができますし、職場環境に活気も生まれ、五感を使ったオペレーションの習得によって業務精度の向上にも繋がります。
さらに、商品の仕入からお客様への提供までを一連の流れとして捉えた『品質管理の4ステップ*』というシステムで、各工程の検証ができ、その工程の担当する各持ち場の担当者が作業基準と手順(工程)をダブルチェック、そして、次の工程担当者も同様にダブルチェックするようにオペレーションが標準化され、徹底し遵守されることで、ロス削減と生産性向上から従業員満足度に繋がり、結果、お客様満足度も向上すること念頭に置いた監査が必要です。
■本質原因究明*についての詳細は『ピープル・ビジネス理論 0章 概論 3.一見、複雑に見える事象のシンプルな捉え方』を参照してください
■『品質管理の4ステップ*』の詳細は『店長マニュアル 2.業務知識 (8)商品管理』を参照してください。
3.店舗イメージの源(挨拶)
店舗イメージの良し悪しは、店舗スタッフの第一印象と最終印象によってお客様に与える印象を決定します。つまり、店に入った瞬間と店を出る際の挨拶のことです。
来店を歓迎し、再来店をお待ちすることを挨拶や表情で直接、お客様に伝え、その挨拶は一人がするのではなく店舗スタッフ皆で行うことで、活気が生まれ盛況感に繋がります。それは、店舗が明るい雰囲気で顧客に愛されている店では昔ながらの日本の「八百屋さん」*のような挨拶が行われています。
脳科学的には挨拶はコミュニケーションの第一歩だと言われており、挨拶が自然に行われることで心のバリケードが溶けて親密な関係性が作れます。気持ちよい挨拶が行われると顧客は安心して店員さんに質問できますし、受け答えもスムーズになります。
日本の「八百屋さん」*の事例:『商業経営の原理原則(第4回)共通する繁盛の法則 「The商人」実践者たちの横顔[連載] 商売の原点「利益はお客様の笑顔」』を参照してください。
4.スムーズな店舗運営(人繰り)
一日の時間帯や週により顧客の数に変動があり、それに応じた人繰りが必要になります。
暇な時間帯に大人数を抱えると収益が悪くなりますし、忙しい時に人が少ないとレジが渋滞して顧客に不満を持たせてしまいます。
この人繰りがうまくいっているかどうかは業績に直結しますので、チャンスロスや無駄なコストが生じない人繰りが出来ているかを監査します。
できれば時間帯別の来店人数をデータ化して来店人数当たりの店員数を割り出してそれがちゃんと守られているかを記録化して日報で報告しながら、日々の管理で指導を行うとともに、監査時は事前に監査員が店舗の課題を事前に知りながらそれをどのように改善する手立てをとっているかを聞き出します。
店舗経営(ピープル・ビジネス)では、ワークスケジュールというツールで人繰りと売上確保の準備を非生産高労働時間と生産高労働時間の計画で確保し、フロアコントロールを呼ぶシステムで客さばきを効果的に実施していますので、これらのツールとシステム、そして正しい考え方での運用によって、お客様や従業員の人だまりがないスムーズな店舗運営ができているかを監査します。
店舗経営(ピープル・ビジネス)は、ツール、システムと考え方の三要素から構成され、ほとんど事象の原因が何れかにあること説明できるように設計開発されています。
■ピープル・ビジネスの三大要素の詳細は、『ピープル・ビジネス理論 0章 概論 3.一見、複雑に見える事象のシンプルな捉え方』を参照してください
5.雰囲気
よい雰囲気の店舗はお客様も従業員も寄せ集めます。よい店舗は働く人達の人間関係がいい関係性を保てています。それは店長のコミュニケーション力や指導力そして最重要なのが人間性です。
雰囲気の良し悪しは、従業員の笑顔あふれる仕事ぶりやキビキビをした態度、そして遅刻欠席などの出勤状況や離職率などに現れますし、その雰囲気は生産性やサービスにも直結し、お客様にも伝わるため業績にも表れます。
店舗監査では従業員に働きやすい環境かどうかのヒアリングと店長との面談から店長の人柄を中心に観察して課題を見つけましょう。
6.商圏特性を活かした店舗の独自性(地域密着店)
各店舗ごとにその地域にある競合店、施設や住人の在り方によって顧客層の特徴が変わります。それに対応して商品の在り方も少しづつ異なりますし、イベントの在り方も変わります。
店長が顧客の特徴や地域特性を把握して独自の工夫をしているかどうかや、その検証方法を聞きながら適切な対応が出来ているかを調べましょう。
またマーチャンダイジングは地域特性を考慮してその店あったバランスが求められますが、本部が調べた顧客層や地域特性と店長が感じている感覚に差異が無いかどうかや改善の余地がないかどうかを調べましょう。
店舗経営では6マンスプランというツール、ストアレベルマーケティングというシステムで本社本部主導マーケティングやマーチャンダイジングと商圏特性に合った店舗独自性を引き出すことで、商圏ニーズとの乖離を無くして地域に密着し、地域ナンバーワンが実現できるような経営システムになっているので、店舗の独自性を活かし優位性を保てるような計画と行動計画、そして行動の結果を俯瞰しマーケティングサイクルを監査します。
7.店舗盛況感の演出(売場やPOPのアピール度)
店舗盛況感を演出する販促ツールには、店外用にはのぼり旗や懸垂幕等の店外用。店内用にはポスター、POPや値札等が主にあり、これらの効果的活用が必要です。
特に飲食や小売業業においては顧客のリスクで購買がなされるために、少しでも顧客が商品の魅力を知り、商品を理解して購入できる手段としてポスターやPOPが活用が効果的です。
その店舗盛況感を演出するツール事体の鮮度や品質管理、時期や時間帯に合った運用も重要になります。
監査時には、販促ツールは時期に合っており鮮度は良いか、退色や破損等は無いか。そして、どのような工夫がされているか。また店内放送や従業員のお客様への声掛けやプレゼンテーションなどの売る力などを実際のオペレーションを観察し、店長に質問しながら確かめて実態をつかみ課題を見出しましょう。