企業財産である人とお金を守る
前回の記事では、店舗監査がなぜ必要なのか、その基本的な目的について触れました。今回は、さらに一歩踏み込み、店舗監査がなぜ企業にとって不可欠なのか、その「必要性」について掘り下げていきます。特に、企業の重要な財産である「人」と「お金」を守るという観点から、監査の持つ意味とその役割を詳しく見ていきましょう。
まずは店舗会計監査や業務監査の必要性を考えます。皆さんにとって「監査」という言葉はどのように感じられるでしょうか?人それぞれの感覚があるかと思いますが、総じてあまり良い印象を持たれないことが多いのではないでしょうか。
実際に著者である私も監査を行うための資格である公認会計士ですが、「監査」という言葉には良い印象を持っていません。特に日本ではそのような感覚が主流なのではないでしょうか。今回は、とかく悪い印象を持たれがちな「監査」に対して、少しでも印象が改善され、皆さんにとって有益な情報をお届けできればと考えています。
なぜ監査は受け入れ難く、馴染み難いのか? 監査の歴史
そもそも「監査」は欧米の文化から生まれた仕事であり職域です。欧米では、領土争いのために騙し合いや戦争の歴史で彩られており、民族間の争いも含めて「人を信用できない」という前提の元で、いわば「必要な仕事」として監査が発生しました。
つまり、「相手を信用しない」という前提が「監査」という仕事の発生母体なのです。 だからこそ、「監査」という言葉には「相手を信用できないからチェックする!」という意味が含まれてしまうのです。
一方、日本は単一民族国家で村社会という背景があり、お互いの信頼関係や信用を重んじる風習があります。信用できない人は「村八分」という制裁を受けることで、一般には信頼関係を前提に人間関係を形成する文化が形成されてきました。
そのため、性善説で家族主義経営の「日本式」では、「監査」はそもそも馴染みにくいものなのです。この日本人としての「血」が、「監査」を「どうもしっくりこない」という感覚にさせているのだと思います。これは日本人特有の感覚と言えるでしょう。
なぜ、あなたの店舗に「監査」が不可欠なのか?
人はミスをする。だからこそ「仕組み」で防ぐ
まず、前提として100%完璧な人間などいません。人は過ちを犯しますし、そもそも我々の脳は「自分の都合で考える」という性質を持っています。そのため、どうしても客観的に物事を見ることが難しく、自分の考えが正しいと思い込んでしまいがちです。
そのため、第三者のチェックが必要になります。
「信頼される企業」の秘訣は「監査」にあり
監査が一般的に必要になる会社の代表例が上場企業です。上場企業は、株式市場で登録されている会社の株式を自由に売買できる企業です。上場企業の株式を購入する際、潜在投資家は会社の決算書や一般に公表されている情報を信用して株式を購入します。そのため、公表されている情報が信用に足るものでなければなりません。
このため、株式市場の番人として専門知識を持ち、専門的なトレーニングを受けている「公認会計士」が監査を行い、一般に公表されている財務数字が、会社の財務状況や経営成績の判断を誤らないように厳しい監査を行うことが法的に義務付けられています。
また、株式を上場するには証券取引所の厳しい審査があります。審査で重要な項目の最重要点は以下の三点です。
- 事業素質(将来安定的に利益を出して成長できるか?)
- 内部監査により自社の問題点を自立的に自社で検出して改善できる体制にあるか?
- 監査役が有効に機能しているか?
上記の1.の事業素質は誰でも納得できるでしょう。しかし、監査である2.内部監査や3.監査役はガバナンス(企業統治)に関する項目であり、本来の日本の企業文化や日本人気質には合わない項目です。それでも、これをクリアーできなければ上場企業という「公の企業」にはなれません。ちなみに、株式上場のことを「go to public」とも言います。
つまり、公になることや信用されるには、たとえ嫌であっても「監査」を受ける必要があるのです。 ですから、監査を企業経営の必須の機能として内包することが、信頼される企業になるためには不可欠なのです。
「会計監査」と「業務監査」:あなたの店舗を守る2つの柱

人は自分の誤りを隠したがる性質があり、監査で指摘されることを極端に嫌います。しかし、監査には大きく分けて「会計監査」と「業務監査」の2種類があり、それぞれ異なる目的とアプローチを持っています。
お金を守る「会計監査」の役割
会計監査は、主に会計数値の妥当性を監査するものです。監査を行う際には、内部統制、つまり会計数値が生成されるまでの全てのプロセスにおいて、正しい数値が決算書に反映されるように、間違いや作為による誤りを検出したり、発生させないように牽制する仕組みが形成されます。監査人はその牽制システムの信頼性を測定しながら、正しい決算数値が算出されたことを監査します。
会計機能は、「認識」「測定」「記録」「報告」で構成されます。監査では、経済事象を会計数値に置き換える行為が、各局面において正しく認識され、正しく測定され、正しく記録され、そして判断を誤らないような正しい表記科目で報告されているかについて、仕組みを検査しつつ、実際に統計的に有意な数値が出るまでの検証を行います。
その際、リスクアプローチと言って、リスクを考慮しながら監査範囲(チェック数)を決めます。
ここまでは一般的な会計監査、特に上場企業における公認会計士監査について触れてきました。では、店舗経営という視点においては、どのような会計監査が求められるのでしょうか。
店舗特化型!「現金の流れ」を守る会計監査
店舗経営における監査担当者が行う会計監査は、会社全体の財務諸表の会計数値の妥当性ではなく、各店舗で扱った現金の会計処理が正しく行われたかに限定されており、一般には小口現金の入出金の妥当性を監査します。
この場合、大事なのは、もし誰かが現金を不正に扱った場合にそれが分かり、「いつ誰が行った出金が怪しい」ということが分かるようなトレーサビリティ(検証可能性)を仕組みとして内在化させることが重要です。
業務の質を高める「業務監査」のポイント
業務監査は、業務を行う担当者が、会社の方針、運営水準、規定やマニュアル、ルールなどに従って行っていたかを監査するものです。監査を行うには、判断基準となる明確な基準を定めていることが重要であり、その基準通りに業務が行われているかを調べることが仕事の主な内容となります。ここで重要なのは、規定やマニュアルなどがそもそも妥当な内容であるかを調べることです。
一般に人は面倒なことはやりたくありませんし、いくらルールとして決められていても、より良い方法があればそちらを選びたくなるのが人情です。ですから監査人は、もし現場の担当者がルールに従っていなかった場合には、一概にダメ出しをするのではなく「そもそもそのルールは有効で効率的か?現場担当者が使いたくなる物なのか?」調べ、もし改善可能であればそれを会社に報告する必要があります。
監査を「店舗の成長エンジン」にするために
「改善」を促す!監査担当者との良好な関係構築術
人は自分の誤りを隠したがる性質がありますし、監査で指摘されることを極端に嫌います。そのため、監査人はただダメ出しをするのではなく、ルール通りに業務を行っていれば「褒める」ことも重要です。もしその通りに行われていなくとも、その理由を検証し、規定類に改善の余地があればそれを会社側に伝達することで、被監査人との友好的な人間関係を形成することにも配慮し、相互成長の機会として捉えることも必要です。
監査の真価は「経営者の意識」で決まる
冒頭で述べた通り、日本では監査は馴染みづらい業務です。そして監査担当者は、和を重んじる日本企業ではどちらかというと嫌がられる対象であり、誤りを指摘したことで根に持たれたり、嫌がられたりします。
したがって、多くの企業ではいわば「組織での鼻つまみ者」を監査担当者に任命するケースが多く存在します。そもそも監査は経営者からすれば「価値を生み出さない仕事」だと思われがちだからです。
しかし、監査を有効に機能させれば、企業の仕組み上の欠点を検出することが可能になり、得られるべき利益を確保し、企業の収益基盤や組織機能を改善する有効なツールになります。 また、監査人はその会社の仕組みを短時間に把握でき、組織の長所短所を短時間に把握することも可能になります。
つまり、会社を客観的視点で鳥瞰する大きな機会でもあります。特に私はISOの監査では後継者を監査人に任命し、早く会社の実体を鳥瞰していただいています。
「仕組みを憎んで人を憎まず」の心構え
監査人にはくれぐれも「仕組みを憎んで人を憎まず」の心構えで監査に臨むようにしていただきたいです。そして、会社も監査を組織の仕組み上の欠陥を洗い出す機会として用い、組織を改善するための媒体として機能させていただきたいのです。
まとめ:店舗監査で「安心」と「利益」を両立する未来へ
今回は、日本人特有の「監査」に対する抵抗感を紐解きながら、なぜ監査が企業にとって必要不可欠な機能であるのかを、上場企業の事例を交えて解説しました。特に「会計監査」と「業務監査」の違いを理解することで、それぞれの監査が企業の財産を守り、業務の質を高める上でいかに重要であるかをお伝えしました。
監査は、単に間違いを指摘する行為ではなく、企業の成長を促し、組織全体の信頼性を高めるための重要な機会です。特に店舗においては、人とお金を扱う現場だからこそ、その必要性は非常に高いと言えるでしょう。
次回の記事では、これらの監査が具体的にどのような「種類」に分けられるのか、それぞれの監査の具体的な内容や実施方法について詳しく解説していきます。店舗監査をより効果的に活用するためにも、ぜひ次の「3.店舗監査の種類」もご参照ください。

