地域No1『サトカメ流』生き残り経営術 (第1回)『サトカメ流』人材教育論 その1大手に参入の隙を与えない地域No1づくり

サトーカメラ 店舗
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家業承継後に「地域密着カメラ専門チェーン店化に挑戦!」大手が参入できない商圏攻略と人財開発の実践的商業経営の極意

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挨拶に代えて

――連載を始めるにあたっての前口上―― 皆さん初めまして。佐藤勝人です。
私は商業経営者のための勉強会「勝人塾」を10年以上続けています。

北は北海道から南は九州まで。また講演やセミナーでは20年以上、延べ3000回以上も、「地域一番化戦略論」を大勢の人に向けて話してきました。そしてそのたびに、参加した人たちの多くから、
「こんな話は初めてだ。リアルで実践的ですごく参考になる。」
とご好評をいただいてきました。

‥‥‥何だかむず痒いな(笑)。堅苦しい話し方はこれぐらいにして、ここからは普段の感じでやらせてもらいますね。
私は、自分で言うのも何だが声はデカイ(笑)。でも、そんなことで大の大人を小一時間も自分の話に引きつけられるとは思っちゃいない。

では、どうしてみんな私の話を食いついて聞いてくれるのか。

“この人は本音で私たちに向き合ってくれている。”

参加者がそう感じているからだと私は思っている。

生き残りの商業経営の極意とは
「本気で生きる。本気で事業と向き合う」こと

経営コンサルタントの中には、自分が教科書的に覚えているやり方を指導先に単純に真似させることが正解だと考えている人がいる。そういう人のほうが多いかもしれないぐらいだ(笑)。

そういう“センセイ”からすれば、自分の頭で考えて前に進みたいタイプの経営者は扱いにくい。
でも私は、そういう経営者を見付けたら彼らのところに下りていって、考えを聞く。自分の言葉で語られた彼らの考えを尊重する。そのうえで、「今の難局を乗り越える答え」を導く。

自社の従業員への接し方もこれと同じだ。彼らのレベルで、何にどうつまずいているのかを理解し、一緒に対策を考える。

たまに、
「できない従業員にかまっていたら、他のできる従業員の教育ができませんよ。」
とおっしゃるセンセイがいるが、違うと思う。

能力の高い人材だけ教育してラクしたい気持ちはわかるけど、商業の世界はそれじゃダメだ。
人材教育はその人の「個」を見なきゃいけない。

「群れ」や「集団」で見るのではなく、「個」を尊重して対等に向き合うこと。そうすれば、どうしてその人がそうなっているかの背景がわかる。どうしてそのレベルに留まっているかがわかる。
そのためには、まずは自分から相手のところに下りていかなきゃダメなんだよ。

やってみればわかるけど、これは言うほど簡単なことじゃない。
経営者自身が自分の仕事と本気で向き合っていなければ、相手のところに下りていったり、助けを求めている人と向き合ったりはできない。
だって、“しんどい”からね(笑)。普段から本気で仕事と向き合っていない経営者には特にね。

「本気で生きる。本気で事業と向き合う」――これが今回の連載で私が伝えたいことだ。
うわべだけの経営論や即席の成功法則が持てはやされる今、これから私が語る泥臭い経営論や赤裸々な失敗談は、鬱陶しいかもしれない。家業を継いだ話や親(創業者)との向き合い方、大手との競合という名の“喧嘩”と、そこからどうやって圧倒的地域ナンバーワンに育てていくか――。こういう話は生々しすぎて読むに堪えないかもしれない。

それでも逃げずに読んでもらえれば、きっと皆さんの事業経営が一皮むけると思う。連載を始めるにあたり、最初にこのことを約束しておこう。

本編vol.1 ―― サトカメ流人材教育論その1

「その場しのぎのラクな道」に走らせないためには

ハードワークの日々。同族経営と二足の草鞋

勉強会 会議

「あんなふうにズバッとダメ出しされたら、怖がって誰も意見を言えなくなりますよ。彼はまだ経験が浅いんだから、もう少しやさしくしてあげてください。」
2016年頃のことだ。私は自社のスタッフからそんなことを言われた。
あらためて自己紹介しよう。私は栃木県でカメラ写真専門チェーンの「サトーカメラ」を経営している。1964年に両親が創業した家業のカメラ店を1988年に兄弟で専門チェーンに業態転換し、従業員ゼロからスタートし、今は県内に十数店、120名体制で展開している。兄が代表取締役社長を務め、私が代表取締役副社長、義弟が専務取締役という三兄弟体制で組織を形成している。

また、2000年に日本販売促進研究所を設立し、商業経営全般のコンサルタント会社として10名の精鋭をサトーカメラの現場から育て上げ、私自身も2足の草鞋を履いて、週5日は町の小さな薬局店さんからグローバル企業まで支援に回る日々を送っている(残りの2日はサトーカメラの経営)。

サトカメ流人材教育論の基本

仲間の主体性を引き出し、ベクトルを合わせる

サトーカメラでは従業員のことを、「企業理念を追求する仲間(associate)」という意味で「アソシエイト」と呼ぶ。入社したての若いアソシエイトにも、アイデアや意見があればどんどん出してもらうのがサトーカメラ(略してサトカメ)の流儀だ。

提案の仕方も、直属の上司を通して会議で上げさせるなんてまどろっこしいことはせず、経営陣が店に出た時をつかまえて直接ぶつけてもらって構わない。「今お時間いただけますか? 販促でちょっと考えてることがあるんですが…」というふうに折り入って話をされることもあれば、休憩中の雑談で意見が出ることもある。

私はアイデアを評価する時も弱点を指摘する時も、相手によって態度を変えたりしない。新米のアソシエイトだろうが古参社員だろうが、思ったことは本人にわかりやすくズバリ伝える。
それをある社員がたしなめようとしたのが、先の一言だった。

私は、“あっ! これはまずいな。変なことを覚え始めているな”と思った。そして言ってあげた。
「君たちはそうやって人を差別するのか? パワハラの逆みたいなことをするのか? 俺がいつも『意見は対等に言いあおう』と言っているのは、店をもっと良くしてお客さんに喜んでもらう目標のもとではみんな平等だからじゃないか。それを、あけすけにものが言えるのは立場が上だからだ、みたいに解釈して対等な関係から逃げようとするのは、卑怯じゃないか。」
「でも、他のみんなもそう言っています。」
「その、みんなって誰だい? 言っている人がいるなら連れてきてくれよ。本音で話して、俺たちの目標を一緒に確認したいから。」
ざっとこんなやりとりだった。

この時わかったのは、学校でも職場でも、強い者が弱い者をイジメるのかと思ったら、今は意外にそうでもないということだ。

「パワハラ」という言葉がある。職位が上の者がそのパワー(権威)を笠に着て部下を無理やり従わせるという、一種のイジメだ。

また、それらの反対で「逆パワハラ」という言葉もある。職位が下の者が、「経営者たる者は下の人間の言うことを尊重しなければならない」という世間の風潮を利用して上司を従わせようとする態度のことだ。

私がその場面で卑怯と言ったのは、彼がまさにその逆パワハラを、私に仕掛けていることがわかったからだった。

もちろん、彼も性根から卑怯なんじゃない。無意識にやっているだけで、悪気はまったくない。ただ、学校教育やバイト先も含めて、これまでに受けた教育のどこかで、そうやって自分に都合の良いように解釈して世の中を渡ることを覚えてしまったんだろう。私がそう指摘してあげると、彼もわかってくれたようだった。

サトカメ流人材教育論の基本
艱難辛苦経営のすすめ

対等な関係というのはシビアなものだ。仕事では特に、どちらが正しいかがガチの勝負になる。自分の考えが通らないことも出てくる。

その時に、さっきまで同じ土俵で意見を戦わせていたのに自分からわざと下に降りて、「上長は部下の意見は無条件に尊重すべきである」という逆差別的な正当性を盾にとって主張を押し通そうとするのは、卑怯なやり方だ。頭が回るスタッフほどこのやり方をしたくなると思うが、経営者としては、それをする前に“あれっ、まずいんじゃないか?”と自分で気付ける人間にしてあげたい。“この場は通るかもしれないけど良くない癖がつく。やめよう”と思える人材に育ててあげたい。

勘のいい人はもうお分かりだろう。そう、そのためには経営者自身が「その場しのぎでラクな道に逃げない」人間でなければいけないんだよ。

普段から本当に本気で事業に向き合っていれば、そういう厳しさは自然と備わってくると思う。まずは自らが実践しよう。私たちの商業の世界とは、どこまで行っても「率先垂範」そして「言行一致」だ。この二つがサトカメ流人材教育論の基本だ。

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