店舗立地と商圏 3.立地依存の危険性|繁盛と撤退の分かれ道

店舗立地と商圏・立地依存の危険性|繁盛と撤退の分かれ道。立地が良いからと油断は禁物!競合店に勝つ立地を活かした「営業努力」。立地は、店舗の成功を左右する重要な要素の一つで、最大限に活かし、顧客を惹きつけるポイント

【この記事の概要】
 立地が良いからと油断は禁物。競合店に勝つ立地を活かした「営業努力」
 立地は、店舗の成功を左右する重要な要素の一つです。しかし、立地の良さに甘んじ営業努力を怠ると、顧客はすぐに離れてしまいます。店舗の老朽化やサービスレベルの低下は、顧客満足度を大きく損ね売上減少につながるからで、成長し繁盛店であり続けるためには好立地であっても営業努力が欠かせません。成功しているチェーン店の事例を紹介し、立地を最大限に活かし、顧客を惹きつけるポイントを解説します。

この記事の目次

好立地でも油断禁物!売上を伸ばすための真の立地戦略

 前回の「店舗立地と商圏 1.失敗しない店舗立地の見極め方」では、商売において、交通発生源で集客力の高い拠点(TG)の存在は極めて重要で、集客拠点(TG)と集客拠点(TG)の間には、人々の往来を生み出す動線が形成され、その動線こそが、集客力の高い、いわゆる『おいしい』立地であると解説しました。

都心の交差点角地、TGに出店し繁盛しているファミリーレストラン『ココス』
写真1 都心の交差点角地、TGに出店し繁盛しているファミリーレストラン『ココス』

写真1は、都心の交差点角地のTGに出店し繁盛しているファミリーレストラン『ココス』で、秋葉原(東京都千代田区)の電気街に隣接した交差点に出店しています。店は2F部分にあり、駐車場はゼロだが開店当初から大繁盛しているのです。

今回の話は、前回の解説と矛盾しているように思われるかもしれません。なぜなら、今回のテーマである『立地だけに依存してはいけない』とは、集客拠点(TG)の優位性に安易に頼ることへの警鐘で「TGであぐらはかけない」お話しになるからです。

良い立地とは、本人が意識していなくても、自然と多くの人が集まり、ひじょうに繁盛する場所のことです。また、店前の通行人が少ないので、ここでは繁盛は難しいかなと思っていたが、開店したら思った以上にお客さまが来てくれたという立地も“良い立地”です。

さらに、店の賃料が安いので、ここで売れてくれたら利益がでるだろうなあと思っていたら、その予想以上にお客がやってきて毎月じゅうぶんな利益が出たというような立地も良い立地です。

ただし、このように立地をあまり期待していなかったりして、店をオープンしてしまったようなときに、困ったことが起こります。

それはある思い込みから始まります。

売上好調でも油断禁物!店舗経営者が意識すべき「顧客離れと店舗改善」

東京都文京区の交差点角地(TG)の角地、2Fにファミリーレストランのジョナサン、1Fにコンビニエンスストア『セブンイレブン』が出店し大繁盛。近くには、もうひとつのTGであるレジャー施設「ラクーア」がある。
写真2 東京都文京区の交差点角地(TG)の角地、2Fにファミリーレストランのジョナサン、1Fに『セブンイレブン』が出店し大繁盛。近くには、もうひとつのTGであるレジャー施設「ラクーア」がある。

 商品やサービスの質は必ずしも高くないのに、売上と利益だけが先行している状況を、あたかも自分の経営手腕や商品・サービスの優位性によるものだと錯覚し、

「良い商品やサービスで経営をしている。だから繁盛しているんだ(じゅうぶんな利益を出しているんだ)」

とか、

「これがじゅうぶんな水準なのだ」

などと思い込むのです。

しかし、この思い込みは「誤解」に過ぎません。

この誤解はいろいろな困ったことを引き起こすことになります。

まず、こういう思い込み=誤解が生まれると、オーナーや店長は、日々の業務に追われる中で、店のわずかな変化に気づきにくくなります。しかし、店は開店した瞬間から、日々汚れが発生し続け、機械や備品の劣化や老朽化が進行していくものなのです。

3年も経つとオープン時とはまったく違った状態になっているものです。ただ、自分はうまくやっているというオーナーや店長が思い込んでいると、その違いになかなか気付かない。

備品が劣化して壊れそうになっていても、ちょっと叩いてみたり、位置を変えてみたりすればすぐ直ったりします。汚れも毎日見ていたらいつも昨日と同じにしか見えないので、なかなか変化には気づきません。

このように些細な変化にもいち早く気づくのは、やはりお客さまです。

お客さまは、頻繁に来店しても1週間に1度ですし、たいていは、1ヶ月あるいはそれ以上の間隔で訪れるので店を見る間隔が長く、「あれっ、このテーブルなんか汚いなあ」「ガラス窓に手垢がついてる」と、その間に起きた変化に気づきやすいのです。

その店の立地がお客さまにとっては良い、都合が良い、便利だと、ついつい習慣的にその店に足が向いてしまいます。

ですから、みなさんは見たことはあるかもしれません。

「一等地、好立地に潜む罠」顧客を逃す店の特徴と成功する立地判定のポイント

 街中を見てみると、駅の出入口からすぐ近くの一等地に、あるいは大型の商業施設の周りに、外観は古びて壁は色褪せ、店内は薄暗く、看板は壊れかけ、窓には破れたポスターが貼られているような店があります。

扉を開けると、覇気のない店員が、まるで棒読みのように『いらっしゃいませー』と声をかける。このような店は、商品・サービスの質、営業水準、店舗運営の質ともに低く、いわゆるQSCが低いと言えるでしょう。

このような店が、TGの周辺には数多く見られます。

そのため、そうした店を目にした起業家は、『このTG周辺は、どの店も活気がなく繫盛していない。立地条件が悪いのだろうか』と早合点してしまうかもしれません。

しかし、それは誤りです。

TGの周辺、およびTGを結ぶ動線上は、本来であれば集客が見込める優良な立地なのです。にもかかわらず、繁盛しているように見えない店が存在するのは、彼らが『立地の良さに甘んじている』、つまり『立地の恩恵にただ依存している』からに他なりません。

いつのまにか、思い込みが習慣化して、店の修理も清掃もしないでいると、お客さまの方がいろいろな変化に気づき、不快な思いを経験しているうちに、店に行きたくなくなり、来なくなります。なのに、本当はその立地が良くて、多くの人が利用したいと思ってくれるはずの店が、不振店になっている。

そう考える余地もあるでしょう。もちろん、立地の良さに甘んじることなく、堅実に経営している店も存在します。

ですから、注意深く観察してください。近隣にマクドナルドやセブンイレブンといった、高い運営水準を誇る大手チェーン店があれば、ぜひ立ち寄ってみましょう。

清掃状況、品揃え、そして店員の接客態度や細やかな配慮など、あらゆる面で高い水準を保っているはずです。そして、それに見合った賑わいを見せて繫盛し、客足が途絶えることなく常に多くの人々で賑わっているはずです。

北千住、商店街の一角の閉店に追い込まれた個人店。その理由は、同じビルでコンビニエンスストアがしっかり営業しているところからみて立地の問題とは考えにくい。シャッターの汚れ具合からわかるように、営業水準、運営水準(QSC)が低いことが分かる
写真3 北千住の商店街の一角(数年前の3月に撮撮影)

写真3は、数年前の3月に撮影した北千住、商店街の一角の閉店に追い込まれた個人店の物件。

撤退の理由は、シャッターの汚れ具合からわかるように、営業水準(QSC)が低いことが分かり、同じビルでコンビニエンスストアがしっかり営業しているところからみて立地の問題とは考えにくいのです。

つまり、TGの近くや動線上であれば、立地の恩恵を最大限に活かせば、繁盛店に成長させることができるのです。しかし、立地の良さに甘んじていると、同業他社=競合店が近隣に現れた際、瞬く間に顧客を奪われてしまうでしょう。

実際、昔ながらの酒屋が、近隣に酒類も扱うコンビニエンスストアができただけで、閉店に追い込まれるケースも見られます。コンビニの方が価格が安かったり、品揃えが豊富だったりするわけでは必ずしもありません。それでも、地域密着型の酒屋が淘汰されてしまうのです。

そうです。コンビニは良い立地を選んだけれどけっしてあぐらをかいてはいなかったのですが、昔ながらの酒屋さんは、いつまでもお得意様頼みであまり運営内容の中身については手をつけなかった。手をいれるほど資本力がなかったというのが真相かもしれません。

この「TGに近い」とは、具体的にどのような状況を指すのでしょうか?

繁盛立地の秘訣:TG近接の4原則「物理的距離から視界性」

 TGに近い、TGに近接することとは、消費者行動において物理的距離から視界性までの段階で以下の4原則に要約できます。

TG近接の4原則

 原則1.物理的に近いこと
 原則2.動線上にあること
 原則3動線からすぐに引き込めること
 原則4TGからよく見えること

原則1.物理的に近いこと

 物理的な近さ、すなわち、30メートルから50メートル程度の距離感。物件の位置からTGが視認できるような近さを指します。

原則2.動線上にあること

 人々の移動経路に位置することです。そのためには、二つの集客拠点(TG)が存在することが前提となります。例えば、一方のTGが鉄道駅であれば、もう一方のTGはスーパーマーケット、あるいは交通量の多い交差点といった具合です。これにより、駅とスーパーマーケットの間、または駅と交差点の間に、人々の移動経路が自然と生まれます。

つまり、人々の移動経路である動線に位置し、かつ、動線を歩く人々から店舗がよく見えることが重要で、このことを『移動経路視認性が高い』と呼んでいます。

原則3動線からすぐに引き込めること

 人々の移動経路から少し離れた路地に位置していても、移動経路から容易にアクセスできる場所にあることです。路地に位置するため、移動経路を行き交う全ての人々の目に留まることは期待できません。

しかし、一度でも友人や知人、家族などに連れて行ってもらえれば、容易に場所を思い出せるような場所であれば、立地としての重要性は十分に高いと言えます。

さらに、路地の入り口に、目印となるような有名な店舗や施設(消防署、交番、神社など)があれば人が集まりやすく、立地としての価値は上がります。

このように、施設などが場所の目印となる効果をランドマーク性と呼びます。集客拠点(TG)自体がランドマーク性を有する場合もあります。

原則4TGからよく見えること

 集客拠点(TG)からの視界性の高さも、立地の良さを示す重要な要素です。ただし、これは単に物理的な近さだけを意味するものではありません。

たとえば、駅のホームから店舗が見える、線路を挟んで店舗の存在が認識できるといった状況が挙げられます。しかし、視界性が高いからといって、必ずしも集客に繋がるわけではありません。

『あのお店に行きたい』と顧客が衝動的に思ったとしても、改札を出なければ店舗へ行くことはできません。また、改札を出たとしても、店舗まで100メートルも距離があれば、顧客は来店意欲を失ってしまう可能性があります。

顧客が『あのお店に行きたい』という気持ちを抱いたまま、スムーズに店舗へ辿り着けることが重要です。したがって、単に店が見えれば良いというわけではありません。

視界性と集客力の落とし穴「見えるだけではダメ、顧客を惹きつける立地戦略」

 ところが、店を出したいという人の中にはこうしたことを気にしない人もいるようです。

『うちの店は、駅のホームからとてもよく見えるから、駅から多少距離があっても立地条件は問題ない』と、安易に考えてしまう人がいます。

しかし、立地条件を自身の都合の良いように解釈するのは危険です。

なぜなら、最初は競合店が存在せず繁盛していたとしても、集客拠点(駅)周辺に競合店が出店すれば、たちまち顧客を奪われてしまうからです。

物件開発においても、同様の事態が起こり得ます。

たとえば、自店舗も競合他社も未出店の駅前で物件を見つけた場合です。

この場合、現在の物件よりも、駅に一本でも近い場所、あるいは駅との動線に近い場所に、近い将来、物件が出現する可能性がないか、慎重に調査する必要があります

もし、そうした場所に古い木造の店舗や広大な空き地があれば、高層ビルが建設され、競合店が出店するかもしれません。

もちろん、未来の全てを予測することは不可能ですが、少なくとも地元の不動産業者に数件問い合わせたり、市区役所の都市計画課で情報を収集したりするなど、慎重な姿勢が求められます。

このように、駅に近いようでも、決してあぐらをかくようなことをせず、しっかり立地の良さを受け入れて営業してください。

新宿南口駅前の交差点角地で長年営業を続ける食堂。人々の流れが絶えない一等地に、老朽化が目立つものの長年営業を続ける食堂がある。その存続を支えるのは、紛れもなく最高の立地条件だ
写真4 新宿南口駅前の交差点角地で長年営業を続ける食堂

写真4は、新宿南口駅前の交差点角地で長年営業を続ける食堂。人々の流れが絶えない一等地に、老朽化が目立つものの長年営業を続ける食堂があります。その存続を支えるのは、紛れもなく最高の立地条件と言えるのです。

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