「自己満足の苦労と自信の集大成はゴミ箱に」
JFC(ジャパン・フランチャイズ・コンサルタンツ)の支援のもとでツールとシステム開発を精力的に行なっていたのだが、忘れることができない出来事がある。
プロジェクト実施日に全体像のイメージの理解をした頃に、担当コンサルタントのHさんからこんな宿題が出た。
「新人アルバイトから店長までのステップを再度洗い出して、それぞれに期待する業務レベルを明文化せよ」
とのことだった。
当時は現在のようにPCは普及しておらず1人1台のPCなどなかったこともあり、模造紙を何枚も貼り合わせて大きな表を作った。
そして、職位ステップをレベル1・2・3と明確化して、それぞれの期待業務を付箋紙に1枚ずつ記入して、模造紙の表に添付して全体像を作っていった。
このプロジェクトでの作業分担で私は基本業務を担当することになった。
「これまでやってきたことをステップごとに整理するだけだから簡単だ!」と高を括っていた私は、いざ作業を開始するとなかなかペンを進めることができなかった。
「インストア業務は、最初はオーダーテイキング、次がトッピング、そしてドーメーク、最後がオーブンテンダー…これは段階的に整理ができるかな…」
「クロストレーニングをレベルごとに組み入れることで段階的な育成になるなぁ…」
「ただデリバリー業務は30分以内に安全運転で確実にお客様に商品をお届けすることが求められているわけだからレベルの違いは表せないよなあ…ここはシンプルな業務だし…」
等々、考えることしばし。
あっという間に1ヶ月が過ぎて次のプロジェクト日がやってきた。
苦慮は重ねたが全てのレベルにおいて期待業務を付箋紙に書き出して模造紙へ貼り付けた。
あらためて眺めてみると全体像として全ての項目が埋められており、作業量を示す100枚を超える付箋紙が貼り付けられており、強い達成感がそこにあった。
プロジェクトの冒頭に私は自信を持って宿題完了とその成果を張り出して報告と説明を行なった。
誇らしげに話す私に対して、Hさんは黙ってじっくりと耳を傾けてくれていた。全ての説明が終わるとHさんがゆっくりと立ち上がって、こう言った。
「目黒さん、ゴミ箱ありますか!?」
何を求められているか理解できなかった私は「はい!」と言ってプロジェクトルームの脇にあったゴミ箱を持ってきた。するとHさんはスッと模造紙の前に立った。
「目黒さん、この項目は内容が違う!」「これもダメ、これも!」と言いながら、全体表から付箋紙を一枚ずつ剥いで、私が持ってきたゴミ箱にポイポイ捨てていったのだった。
「えっ、あっ、ちょっと待ってくださ……い」
あっという間に全体の2/3が剥がされ,ゴミ箱は付箋紙でいっぱいになった。
苦労と自信の集大成だったものが、ガラガラと音を立てて崩れていった。
「なんでダメなんですか!?」と私は強く訴えた。
Hさんはダメ出しの理由を丁寧に説明してくれた。