【この記事で分かること】
「商品管理」は在庫管理や品質管理にとどまりません。売上と利益を最大化し、お客様の信頼を築くための重要な経営戦略です。
感情の無い「ありのままのモノ」から五感で正確な事実を確認し、適切に対応することで、在庫管理、欠品管理や品質管理に留まらないリスク対策と、チャンスを見出す先見性を養います。このプロセスは、隠れた課題とチャンスを浮き彫りにし、売上増大と利益確保を実現します。さらに、スタッフの注意力を引き出し、考える力を育む重要な経営管理です。
なぜ商品管理が繁盛店の条件なのか
前回のマニュアルでは、「店舗販売促進」という攻めの戦略で、いかにお客様を集客、来店いただくかについて解説しました。しかし、お客様を店舗に集客、来店いただくことは、単なるスタートラインに過ぎません。集客の努力が実を結ぶかどうかは、お客様が店舗で実際に目にする「商品」によって決まります。
もし、お客様が手に取った商品に不備があったり、楽しみにしていた商品が品切れだったりしたらどうでしょうか?せっかくの販促効果も台無しになり、最悪の場合、大切なお客様の信頼を失い、二度と来店してもらえなくなってしまいます。
店舗経営(ピープル・ビジネス)における「商品管理」は、単なる在庫や品質のチェックではありません。それは、販売促進で生み出した「お客様との接点」を、確実に「売上と利益」に変えるための最も重要な「攻めと守りの経営戦略」であり、店舗の未来を左右する繁盛店の条件なのです。商品管理の徹底なくして、安定した経営はあり得ません。
この記事では、商品管理の深い本質から、今日からすぐに実践できる具体的なマネジメント手法まで、徹底的に掘り下げていきます。
商品管理の本質「感情なきモノ」が映し出す真実の経営課題
店舗にある商品は、お客様に価値を届ける存在であると同時に、店長やスタッフのマネジメントのあり方を無言で教えてくれる最高の教師でもあります。
商品には感情が無く、何も言ってくれない。ありのままの事実を映し出してくれるモノ。
品質の良し悪し、欠品、過剰在庫、陳列の乱れ…これらはすべて、店舗のオペレーションや人財育成に潜む課題を映し出しています。商品管理の真の目的は、こうした「感情なきモノ」が映し出すありのままの事実を、五感を通じて正確に把握し、その根本原因を究明して解決策を実行し、再発防止を図ることにあるのです。
具体的な商品管理とは、過剰や欠品などの在庫管理、品質管理や仕入管理のことで、商品の仕入からお客様の手元に届くまでの各プロセスにおいて、作業担当者が作業をしながら五感を使って品質、数量、盛り付けなどを多重にチェックします。
これにより、現状を正確に把握する緻密さと、リスクを予測し、チャンスに変える先見性を養い、お客様に最高の品質を提供し、万が一のトラブル時にも迅速に対応できる基盤を築きます。
品質管理の三大要素
品質管理は、単に商品に問題がないかを確認する作業ではありません。それは以下の三大要素を網羅して初めて成立する、包括的なプロセスです。
1. 未然に防ぐ:お客様に完成品基準以下の商品の提供や販売を未然に防ぐこと。
2. 根本原因を究明する:万が一問題が発生した場合でも、その根本原因を段階的に究明できること。
3. 解決に導く:究明した根本原因に基づき、問題を解決に導くこと。
この「予防」「究明」「解決」という三つの要素がすべて揃って初めて、真の品質管理が実現できるのです。ひとつでも欠けていれば、それは場当たり的な対応に過ぎず、店舗の信頼を永続的に築くことはできません。
商品管理の4ステップとトラブルシューティング
商品管理のプロセスは、業種業態によって異なりますが、その本質は「商品の流れに自身の動きを合わせ、段階的に状態を確認すること」にあります。ここでは、店舗経営における品質管理の4ステップと、問題解決に不可欠な「トラブルシューティング」の極意について解説します。
小売業・飲食業・サービス業の事例
業種 | ステップ1 | ステップ2 | ステップ3 | ステップ4 |
---|---|---|---|---|
小売業 | 発注 | 検品 | 陳列 | 販売 |
飲食業 | 仕入・搬入 | 保管 | 調理加工 | 提供・販売 |
サービス業 | 受付・予約 | 来店 | 案内 | 施術 |
リユース業 | 買取 | 加工 | 陳列 | 販売 |
どの業種においても、この流れを徹底することで、どの時点で問題が発生したのかを特定できます。
例えば、飲食店の「サラダに虫が混入していた」というクレームの場合、提供→調理→仕込み→保管→搬入というフロー(流れ)を段階的に遡ることで、原因を突き止めることができます。そして、原因が分かれば、再発防止策を講じることは決して難しいことではありません。
トラブルシューティングの3つのポイント
トラブルシューティングとは、問題発生時に、その症状から原因を探し、特定して、それを排除するまでの一連の過程のことです。商品管理におけるトラブルシューティングは、以下の3つのポイントを徹底することで成果を上げます。
1. 正確な事実の把握:問題が発生した時、まずは感情は入れず冷静に「いつ、どこで、何が、どのように」起こったのかを客観的に記録し、事実を正確に把握します。
2. 根本原因の究明:「なぜその問題が起こったのか」を繰り返し問いかけ、表面的な原因ではなく、真の根本原因を突き止めます。
3. 再発防止策の徹底: 根本原因を解決するだけでなく、オペレーションの改善やスタッフへのトレーニングを通じて、二度と同じミスを繰り返さない仕組みを構築します。
このプロセスを徹底することで、単に問題を解決するだけでなく、店舗の生産性向上と人財育成にも繋がります。作業をしながらでも五感を同時に駆使できるスタッフを育てることで、チェックリストに頼らない、自立したプロフェッショナルなチームが構築できるのです。
在庫管理の重要性:利益を最大化するもう一つの視点
在庫管理は、単に商品を数えることではありません。それは、販売機会ロスと廃棄ロスを最小限に抑え、利益を最大化するための重要な経営指標です。
過剰在庫はキャッシュフローを圧迫し、保管コストを増大させます。一方、欠品はお客様の購買意欲を削ぎ、店舗への信頼を損ねます。適切な発注サイクルと在庫水準を維持することで、店舗は常に最高の状態を保ち、収益性を向上させることができます。
問題発生時のトラブルシューティングと対応
しかし、どんなに完璧な在庫管理をしても、予期せぬトラブルは発生します。ここからは、実際に問題が発生した際の対応と、そこから学ぶべき教訓について、具体的な事例を通じて見ていきましょう。
事例1:商品管理の失敗が招く致命的な結果
ある人気スイーツ店の店長は、日々の忙しさにかまけて商品管理を後回しにしていました。日々の入庫検品は形だけで、賞味期限の管理も「目視」に頼りきりでした。
ある日、お客様から「買ったばかりのケーキが賞味期限切れだった」というクレームが入りました。調査すると、バックヤードで期限切れの商品が複数見つかったのです。店長は慌てて謝罪しましたが、この一件はSNSで瞬く間に拡散され、店の信用は大きく傷つきました。
このケースの根本原因は、単なる「検品漏れ」ではありません。真の原因は、「先入れ先出しの不徹底」と、「商品陳列や販売時のチェック体制の不備」です。この失敗は、「信頼」という無形資産を一瞬で失い、売上減という目に見える結果となって表れました。
事例2:「見える化」で利益を生むプロの現場
一方、別のカフェでは、商品管理を徹底したことで驚くべき成果を上げています。
この店長は、店内の商品をすべて「資産」と捉え、日々その状態を把握することに注力しました。
1. POSデータと連動した発注システム: 売れ筋商品の在庫切れを防ぎ、死に筋商品の過剰在庫をなくすため、過去の販売データを徹底的に分析。さらに、廃棄ロスを可視化する管理表を作成し、スタッフ全員で共有しました。
2. 五感を使ったダブルチェック体制: スタッフ一人ひとりが「五感を使ったチェック」をオペレーションに組み込みました。例えば、食材の搬入時には、目で色を、鼻で匂いを、手で触感を確認する習慣を徹底。陳列時には、お客様の目線になって「品質に問題はないか」「欠品はないか」を確認しました。
3.「感情なきモノ」から学ぶ人財育成: 店長は、商品管理で発見した課題を、スタッフの成長の機会に変えました。「なぜこの商品が売れ残ったと思う?」「この商品の賞味期限が切れていたのは、どの段階での問題だと思う?」と問いかけることで、スタッフは自ら考えるようになり、主体的な経営者視点を身につけていきました。
その結果、この店では廃棄ロスと販売機会ロスが激減し、利益率が大幅に向上しました。そして何より、「いつも新鮮でおいしいものがある」という評判がお客様の間で広まり、リピーターが着実に増え続けています。
トラブルシューティングの実践例
ファミレスのハンバーグに針金が入っていたというクレームが発生したとします。この時、被害を最小限に抑え、根本原因を特定するために、提供→調理→仕込み→保管→搬入という逆算的なフローで調査を進めます。
1. 提供工程
まず、お客様に提供する段階で異物が混入する可能性を検証します。この店では、盛り付け時に異物が付着するような工程はないため、提供時に混入した可能性は低いと判断します。
2. 調理工程
次に、調理工程を詳しく調査します。この店では、鉄板の焦げ付きを落とすために専用のワイヤーブラシを使用しています。調理のオペレーションを詳しく確認したところ、焼き上がったハンバーグをプレートから取り出した後、付着したカーボンを落とすためにこのワイヤーブラシを使用していることが分かりました。
調査の結果、このワイヤーブラシの針金が、清掃時の強い圧力や摩擦によって破断し、鉄板部分に付着していたことが判明しました。そして、その鉄板で次のチルド肉のハンバーグを焼いたことで、破断した針金がハンバーグに混入してしまったのです。
3. 根本原因究明と解決策
根本原因は、単なる「異物混入」ではなく、「鉄板を清掃するワイヤーブラシの針金が、定期的な交換時期を過ぎていたこと」と「清掃時の作業圧力が強すぎたこと」にありました。
この問題を解決するため、ワイヤーブラシをやめて、他の器具への変更と清掃手順を見直した。
この事例からもわかるように、トラブルシューティングのプロセスを順序立てて行うことで、一見して分からない根本原因までたどり着くことができ、抜本的な解決に繋げることができます。
まとめ:商品管理は人財と利益を育む経営基盤
商品管理とは、単なるモノの管理ではなく、「利益を最大化し、顧客からの信頼を獲得する」ための、非常に重要な経営管理です。
商品は人間と違い、自ら劣化や不備を訴えることはありません。その状態は、店舗の真実をありのままに映し出します。
つまり、感情を持たないモノの管理を徹底することこそが、感情豊かな人の育成とマネジメントを可能にするのです。
商品管理を通じて、あなたは店舗の利益を改善し、お客様に最高の体験を提供できます。そして同時に、スタッフに「考える力」と「当事者意識」を育む絶好の機会を与えているのです。
しかし、どれだけ商品管理を徹底しても、ヒューマンエラーや不測の事態によって、お客様にご迷惑をおかけしてしまうこともあります。その際、店長としてお客様からのクレームにどう向き合うかが、店舗の未来を左右します。なぜなら、クレーム対応は、お客様との関係をさらに深め、店舗の信頼を決定づける最後のチャンスだからです。
そこで次の店長マニュアル 2-9.クレーム管理」は、お客様からの「クレーム」にどう向き合うべきか、その具体的な対応方法と、クレームを「店舗のファン」を増やすチャンスに変えるための秘訣を徹底的に解説していきます。


