【この記事の概要】
「教訓を忘れ、繰り返された失敗」
看板や間口の改善などの投資をするも限界から得た教訓から数年後、当時、入手できる最高の立地への出店に幹部の多くが、都内売上水準を大きく超える月商を予測し、達成を誰もが信じて疑わなかった。それに水を差し、社長ら皆をア然とさせた『出店調査部』の売上予測はその半分近くで大きく下回った…。そこで藤田田社長が下した決断と結果。驚くべき事実とマクドナルド日本巨大帝国に与えた衝撃。
ターゲットも店前通行量も多い好立地。でも、思ったよりも売れない。なぜか、いつまで経っても売れない…
「なぜ売れないのか?」お客様の気持ちになって店を客観的に考えてみる
前記事(5.『マクドナルドの教訓』入りやすい店。入りにくい店。)で紹介した店(マクドナルド神田小川町店)の立地は、東京の中心部、大学や古書店、スポーツ用品店が多く学生やビジネスマンがひじょうに多い街です。この店前の通行量は、午前10時から午後6時までの8時間の計測で、平日で2万2千人と他の東京の店と比べても多い方でした。
しかし、思ったよりも売れない。いつまで経っても売れない。もちろん、店前にたくさん歩いている人がいるのになぜ売れないのか、調査をしました。
こうした時の調査は、お客さまの気持ちになって客観的に考えることが基本です。
まずは、店の前を歩く人たちと一緒になって歩いてみることです。これを何回か繰り返していくうちに、明確に分かったことがあります。
それは、通行人の目線で、つまり通行人が見ている方向を向いて、通行人と同じスピードで歩いていると、店がまったくと言って良いほど見えないのです。
それこそ、店の直前で、真横を向いて見るほどでなければ、まったく見えない。しかし、たまたま真横を向いて見えたとしても、店の出入間口は3メートルもありません。しかも、看板は上のほうにあるためあの「マクドナルド」は目に入らない。
つまり、その店のことを知っている人以外、誰も、そうです、誰も店が目に入らない。
間口が狭いから店も看板も見えない
人々が通る道の幅が狭かったので余計そうなってしまったのかもしれません。また、道がやや傾斜している坂だったことも影響していたかもしれません。
原因がわかれば、マクドナルドの行動は速かった。
すぐに、店の大看板を、道路に三角状に突き出す特殊な立体的なもの(図1)に切り替えました。こうすると、確かに店の目の前に来るより前に、マクドナルドがあることがわかるようになりました。
果たして、店の売上は少しアップしました。10~20%くらいでしょうか。
しかし、元々の売上が低いのでこれくらいのアップでは納得できません
そして、次の対策です。
それは、店の出入間口を少し広くしたのです。
それまでは、大看板が設置されている幅、つまり看板間口のすべてが出入間口ではありませんでした。開閉するためのドアが取り付けられているのです。いわゆる「観音開き」でした。
さらに、外から2Fへ上れる階段もありました。ですから、お客さまが出入する間口は、実質1メートルもありませんでした。
これを、すべて解放できるように工事をしました。今では珍しくない「パニックドア」を取り付けたのです。店の建物の端から端までを、じゃばら(アコーディオンカーテン)で閉まるようにして、営業中はこれを全開放できるようにしたのです。
そうすると、1メートルくらいしかなかった出入が、2メートル近く使えるようになり売上は一気に50%近く上がったのです。
このようにさんざん投資をして、なんとか間口の狭さを克服したと言えるかもしれません。
看板や間口の改善などの投資をするも限界から得た教訓
しかし、狭い間口は、ファストフードにとって致命的でした
というのも、当時からファストフードで最も時間がかかるオペレーションは、「生産」でも「提供時間で」もありませんでした。それは、お客さまとの金銭授受、つまり、「お会計」にあったのです。
こればかりは、どうしようもありません。お客さまを急かすわけには行きません。いろいろ努力しても、この点だけは時間がかかってしまう。