
「誰が正しいか」ばかりを問う組織の弊害
- 経験主義が生む「誰が正しいか」の文化
脳科学の観点から見ると、多くのベテラン社員は、長年の経験と成功体験から形成された長年の習慣として染みついた思考パターンによって、自身のやり方を唯一の正解だと考えがちです。
この強い「職人気質」は、時に「誰が正しいか」という主観的な文化を生み出します。その思考の根底には「誰が正しいか」ばかりを問うと、「あなたが悪い」、ひいては「犯人探し」という現象が表面化し、問題の本質を見失います。この文化の下では、組織の意思決定が、経営理念のような客観的な基準ではなく、ベテランの個人的な主観に左右されることが多くなります。
- 部下への「ダブルスタンダード」が信頼を損なう
さらに、上司自身が多くのミスを犯しながらも、部下には完璧を求めるというダブルスタンダードは、部下からの信頼を失い、健全な人間関係を築くことを妨げます。これは、『私(私のやり方)が正しい』『間違っているのはあなた』と利己的で、口癖が「私」という主語が多く、リーダーとしてあるべき姿を見失っている状態です。
利己的なリーダーの口癖は「私(私のやり方)」という一人称です。それに対し、部下を成長させるリーダーは「あなた」という二人称を活用し、部下自身の考えや行動を促します。
- 見本以下レベルのベテランは、部下を育てられないし、育ててもいけない
人が育たないのは、真の見本となるリーダーが育成を担わなかったり、反対に見本にならない人が育成を任されたりするからです。チームにおける「見本」とは、単に業務能力が高いだけでなく、モラルや士気、ビジネスへの姿勢においても部下から尊敬される存在を指します。そうしたリーダーこそが、部下の育成を担うべきです。
もし、見本以下レベルのベテランが育成を担ってしまえば、部下は間違ったやり方や考え方を身につけてしまいます。そして、いずれは組織の負のスパイラルへと巻き込まれていくことになるため、そのような人材は部下を育てるべきではありません。
見本となるリーダーが育成を担うことで、部下はリーダーから「教わらなくても、リーダーを見て、自ら学び」成長し、結果として組織全体のレベルも向上していきます。
この状況は、「店舗イメージ」の低下に直結します。働いているスタッフの活気がなく、アピアランス(外見や身だしなみ)が乱れている店舗には、質の良い応募者は集まりません。
その結果、似たような意識の応募者ばかりが集まるようになり、「良い人材がいない」と嘆くことになります。そして、この悪循環は応募者だけでなく、お客様も遠ざけ、最終的に人手不足を慢性化させるのです。
若手を潰す「放置」と「他責」の悪しき習慣
- 見本を欠くベテラン社員の過ち
ベテランは、ミスや失敗を『指摘することが』自分の仕事、『指摘すれば改善される』と勘違いしがちです。しかし、本来の仕事はそうではありません。彼らは他の従業員の見本となることへの認識に欠けていると言えます。
本来であれば、ミスや失敗をしそうであれば、フォローし、助けて、未然に防ぐこと。そして、再発防止がベテランの仕事です。
ミスや失敗の発生原因が何か、再発防止策は何かを新人と共に考え、共に実行すること。これこそが、若手社員にとっての「理想の見本」となるために必要なことです。しかし、このような対応が他の人への悪しき見本となって、職場環境は悪化していきます。
- 放置と他責が引き起こす負のスパイラル
この指導の失敗は、「三放し(教えっ放し、指示しっ放し、任せっ放し)」と呼ばれるように、放置することで生じます。三放しでフォローアップがないため、新人は何が正しいのか分からず、ただ不安を募らせるばかりです。
新人がミスや失敗をするまで待ち、感情的に怒り、責(しっせき)する。新人のミスは、ベテランの不適切な指導や指示が原因であるにもかかわらず、ベテランは新人のせいにするという、他責の姿勢が見られます。
このような悪循環が繰り返されると、職場全体のモチベーションが低下し、笑顔が消え、活気がなくなります。この状態は「店舗イメージ」を著しく悪化させ、求人広告などで良いイメージをアピールしても、実際に働く職場のイメージとのギャップが大きくなり、「早期離職」や「慣れた頃退職」につながってしまいます。