稲盛和夫さんから教わった経営理念の紐解き
古今東西の大経営者は、経営理念の重要性を説いています。なぜなら、経営理念とは経営の全責任を負う経営者の考え方そのものであり、その考え方のもとで全社員がまとまることで、素晴らしい結果を生み出すことができるからです。
今回は、経営理念をどのように解釈し、日々の行動に落とし込むかについて考察します。稲盛和夫さんは、京セラフィロソフィーの解釈として、個々のフィロソフィーごとにその解釈、重要性、考え方、そして具体的な活動への展開を詳細に示されています。
ここでは、各企業において経営者自身がどのように自社の経営理念を解釈し、その紐解きを作って、社員に教育していくべきかを示したいと思います。
経営理念浸透の鍵|紐解きの重要性
会社は経営者の考え方で経営されます。なぜなら、全責任を負う経営者がいわば免罪符として「この考え方や行動指針に従って行動してくれたら自分は全責任を負える」というものが経営理念です。
そして、全責任を負う経営者にとって、経営理念は社員が従うべき指針であり、それによって、経営者と従業員が共にベクトルを合わせて、会社が一枚岩になり、強い組織を作るとができます。
しかし、人はそれぞれ考え方が違うし、能力も違います。そしてまずいことに人間の脳は「自分の都合で聞いたことを自分に都合がいいように解釈する」という性質を持っていますので、同じことをもし100人が聞いたら100通りの解釈が出来てしまう可能性があり、経営者の意図が正確に伝わらないという問題を解決する必要が生じます。
そこで、誰もが同様に経営者の意図を理解し、主体的に行動できるよう、「自分もそうしたかった」と感じてもらえる状況を作り出すために紐解きが必要となります。
この点について、稲盛さんは「人は自分の都合で考えるため、経営者の意志を自分の意志として受け取れるような意識の転換が必要である」と紐解きの重要性を説いています。
一般的に、相手の受け取り方を考慮せず自身の考えを押し付け、結果が伴わなと相手を批判する傾向が見られますが、それではいけません。稲盛さんの考え方を参考に、紐解きを通じて経営理念の浸透を図ることが重要です。
紐解きの要諦|全従業員の物心両面の幸福を追求という視点
紐解きでは「従業員が自分勝手に考えたとしても経営者の考えと同じになる」ような説明が求められます。具体的には、「これを行うことが自身の利益につながる」と社員が感じられるように説明をすることが重要です。
そのためには、従業員一人ひとりの普遍的な願いである「健康や幸せ、より良い生活」と経営理念の実践を結びつける必要があります。つまり、経営理念に沿った行動が、社員自身の幸福にどのように貢献するのかを明確に示すことが肝要です。
稲盛さんは、従業員一人ひとりの幸せを願いフィロソフィーの各項目について、その実践がどのように幸福につながるかを詳細に説明されています。さらに、コンパを通じて社員一人ひとりの人生を考慮し、「このように行動することが君の幸せにつながる」と具体的に働きかけています。
この理解から本質が見え、より現実的な経営理念を浸透させた経営を実現することができます。
3.紐解きを使って経営理念を血肉化するにはどうするか
経営理念を自分事として理解するための解説書、紐解きの作成とその内容について説明をしました。しかし、それだけでは不十分です。なぜならば、文章だけでは熱量が十分に伝わらないため、各項目が社員一人ひとりの血肉となり、自然とその通りの考え方や行動がとれるようになるための働きかけが不可欠だからです。
そのために各社は独自の方法で理念の血肉化に取り組んでいますが、ここでは稲盛さんが行っていた具体的な方法を紹介し、皆さんの参考に供したいと思います。
(1)経営理念手帳の作成と活用
経営理念の紐解きを手帳化し、常時携帯していつでも確認できるようにします。重要なのは、常に見られる状態を作ることです。
ただし、せっかく携帯しても社員が『見たい』と思わなければ意味がありません。だからこそ、社員が見たいと思い、大切に使い込んでボロボロになるほどの内容であることが重要です。
(2)経営理念の勉強会を開催
経営者が各項目に込めた熱意を伝え、「こうありたい」と社員が共感するような教育を行います。そして、社員が『こうありたい』と心から思えば、JALで起こったように、自然と自主的な勉強会があちこちで生まれ、多くの社員が積極的に学び始めようになります。
ここで重要なのは、自発的な学びの輪が広がるかどうかという点です。
(3)部下の教育指導は紐解きを活用する
これは理念を真に浸透させる上で最も重要です。
日々の業務遂行が経営理念に沿っていなければならないため、マネージャーや管理職は部下を指導する際、必ず関連する理念を示しながら、その行動が理念に沿っていたか、うまくいかなかった原因、そして理念に従えばどうすべきだったかを具体的に説明し、社員一人ひとりの血肉化を促します。
(4)コンパで学びを深める
稲盛さんは、社員間の親睦を深めるための懇親会、いわゆる『コンパ』の必要性を説いています。
お酒が入ると心が開きやすくなり、率直な意見交換ができるため、テーマを設定し、酒を酌み交わしながら共通の話題について議論を深め、経営理念の解釈を深める学びの場を作るのです。
(5)懸賞論文を活用する
稲盛さんは、社員が自由に参加できる懸賞論文を活用していました。
社員それぞれが好きな経営理念の項目に関するエピソードを論文として提出するもので、役職に関わらず、多くの場合、現場社員が素晴らしい体験を発表してくれます。
また、その論文を集めた文集を作成することで、経営理念の実践を通して社員がいかに『小さな幸せ』を掴むことができたかが分かり、読む人の心を温かくします。そのため、この文集を読むのを楽しみにしている社員が多く、経営理念の血肉化に大きく貢献しています。
経営理念の紐解きと血肉化のまとめ
店舗経営者や店長の皆様にとって、経営理念は単なる飾りではなく、組織を成功に導く羅針盤です。稲盛さんが説明した「紐解き」は、その理念を全従業員が自分事として捉え、日々の行動に落とし込むための重要なプロセスです。
理念の浸透には、経営者自らがその真髄を深く理解し、従業員の目線で分かりやすく解説することが不可欠です。さらに、理念が従業員の幸福追求と結びつくことを示すことで、共感が生まれ、主体的な行動を促します。
血肉化のためのさまざま方法の実践を通じて、理念は単なる言葉から、組織全体の共通言語、そして行動原理へと昇華します。
本記事で紹介した稲盛さんの知恵を参考に、皆さんの会社や店舗においても「紐解き」を実践して全従業員のベクトルを合わせ、一枚岩の強い組織を築き上げていただきたいと思います。