【この記事の概要】
「リーダーシップとは何か。それも昔ながらのじゃなく、今の時代のリーダーシップとは何か」
前回まで「リーダー論」については語ってきたけども、「リーダーシップ」とはそもそもどういうものかについては語ってこなかったことに、今更ながら気が付きました(笑)。また、マネジメントとリーダーシップの混同もよくありがちなこと。そこで今回は、この“シップ”の部分について整理してみようと思います。
今の時代に合うリーダーシップとは(その一)
リーダーシップとは何か。それも昔ながらのじゃなく、今の時代のリーダーシップとは何か。時代に合ったリーダーシップを再定義します。
私の考えでは、以下のように大きく三つの要素があると思います。
- 目標達成のためのビジョンを示す
- スタッフのモチベーションを維持する
- ビジョンの実現に向け問題になる部分を解消する
それでは詳細を解説していきましょう。
目標達成のためのビジョンを示す
一つ目の要素はこれ。ビジョンを示すことです。これはよくレンガ職人の寓話で説明されます。
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昔々、ヨーロッパのある町で、職人たちが集まって大きな建物を建てていました。たまたま通りがかった旅人が、外壁を造っていた職人の一人に尋ねました。
「何をやっているの?」
「壁を造っているんだよ」
「なんでレンガなの?」
「そんなの知らないよ。今日はいくつ積めるかな。積んだ数で日当が決まるから頑張らなくちゃ」
旅人は別の職人に尋ねました。
「何をやっているの?」
「壁を造ってるんだよ」
「なんでレンガなの?」
「大きい建物みたいだからな。俺はこの辺で一番のレンガ職人なんだ。見ろよ、この角の揃い具合。すごいだろ?」
また別の職人に旅人が尋ねました。
「何をやっているの?」
「教会を建てているんだよ」
「なんでレンガなの?」
「この国で一番立派な教会にするそうだからね。頑丈で見た目もいいレンガで組むのが最適なんだ。自分は壁しか造れないけど、この現場に携わることができて光栄だよ」
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最初の職人は、いわば食うために働いているレンガ職人です。二人目は個人のプライドのために働くタイプ。最後三人目は、その仕事の最終的な意義まで踏まえて働くタイプです。
ビジョンを示すというのは、この寓話でいえば、今建てているのが「この国で一番の教会になる建物」だといいうことと「レンガで組むのが最適である理由」をわかっていない職人に、それらを明確に示すことです。
三人目の職人さんのセリフの後半の、「この現場に携われて光栄」という境地まで導くのはなかなか無理でも、最終的なゴールと途中のプロセスの妥当性はメンバー全員に伝えて理解してもらうことが、リーダーシップの条件だと思います。
スタッフのモチベーションを維持する
二つ目の要素はこれ。モチベーションです。
「モチベーションは個人の主観の問題だから外からどうこうできるもんじゃない」と思う人がいるかもしれませんが、そんな難しい話じゃありません。ABC三つのポイントを押さえておけば大丈夫です。
その三つのポイントとは…
ポイントA「挨拶」
まずはA、「挨拶」です。
大きな声でハキハキと、「おはようございます!」と言いましょう。終わったら「おつかれさまでした!」。建設業界では特に挨拶は基本だと思います。声の印象でその日の現場の雰囲気まで変わりますからね。
「モチベーションは個人の主観の問題だから外からどうこうできるもんじゃない」と思う人がいるかもしれませんが、そんな難しい話じゃありません。ABC三つのポイントを押さえておけば大丈夫です。
ポイントB「笑顔」
次がB、「笑顔」です。
ちゃんと相手に伝わるよう、相手の顔を見て、笑顔で接すること。最初は作った笑顔でかまいません。そのうち習慣になります。なぜかって、笑顔で接せられたら嬉しいから相手も笑顔になります。その笑顔にあてられて、こっちも自然に笑顔が出せるようになるのです。
「モチベーションは個人の主観の問題だから外からどうこうできるもんじゃない」と思う人がいるかもしれませんが、そんな難しい話じゃありません。ABC三つのポイントを押さえておけば大丈夫です。
ポイントC「声かけ」
三番目がC、「声かけ」です。
「最近どうだ?」みたいな、取り方によってはプライベートに立ち入る声のかけ方はしなくてかまいません。あくまで仕事ベースで、「作業で気にかかってることないか?」とか、「何かあったらすぐ言ってくれてオッケーだからな」とか、とにかく現場が気持ちよく働ける場所になる声かけを意識してください。
一つ注意点があるとしたら、昔は声かけにはスキンシップが伴うのが普通でしたが、今の若い世代にそれをやると引かれます。「何かあったらすぐ言ってくれよ!」と言うときに、相手の肩を抱いたりしないこと。本気を伝えたい皆さんのお気持ちはよくわかりますが、今の子にそれをやると逆効果です。
あと、特にAとCに関し言えることですが、相手は名前で呼びましょう。「山田さんおはようございます!」「田中さんおつかれさまでした!」というふうに。
ヘルメットとか作業着の胸ポケットに名前がありますよね。あれは何のためか考えてみてください。毎日いろんな会社から初見の人どうしが集まって作業にあたる建設現場では、「俺に言っているんだな」と相手にわかってもらおうと思ったら、名前を呼ばないと駄目です。今日現場入りしたばかりの他社の職人さんに、「おい、そこのお前!」だと、絶対に聞く耳を持ってもらえません。
現場ではちょっとした意味の取り違いが命にかかわります。確実に相手に伝えること。伝えた内容を素直に受け取ってもらえる関係性を早く――できればファーストコンタクトのときに――築くこと。「挨拶・笑顔・声かけ」はそのための基本です。
ちなみに言うと、昔はこの「素直に受け取ってもらう」の部分はリーダーのカリスマ性とか威厳とかで担保できました。実態は素直も何もなく力ずくで、「言ったまま受け取れ(動け)」と強要していただけかもしれなくても、とにかく“俺”を前に出せばよかった。個人の魅力や資質で付いて来させることができた。
今は違います。今のリーダーはむしろ、「俺に向かってくれなくていい。目的に向かってくれ」と思っているくらいでちょうどいいと思います。
向かうべきゴールも途中のプロセスも属人化しない、させないこと。代わりにビジョンに向かわせること。そのためにはそもそもビジョンが明確である必要があります。だから1と2はこの順。1が先なのです。
またまたちなみにですが、モチベーションは“維持”でかまいません。「モチベーションがこれ以下になると全体の雰囲気が悪くなるし、作業品質の心配も出てくるなぁ」と思う大体の規準があると思います。それを下回らなければ良しとしましょう。もし可能なら、その規準も指標化できるといいですね。