あえて機械化せず、ディズニーが大切にしている「心のこもったおもてなし」ができる人の育成機会を提供する
どのようにして「心のこもったおもてなし」が自然体でできる人を育成するのか
そしてもう一つ特徴的な教え方ですが、全てにおいて「なぜそうするのかを考えさせるようなトレーニング」を行います。
例えば、チケットポジションでの挨拶について、
『マニュアルではお客様が来たらディズニースマイルでお迎えし「こんにちは!!」と元気な挨拶をします』
と書かれているのですが、この通りに教えてしまうと「なぜが分かっていないまま」現場に出てしまって、挨拶してしまうので、ディズニーが大切にしている「心のこもったおもてなし」にはならなくなってしまうのです。
そこで先輩トレーナーはこんな風に新人スタッフに質問します。
「それではチケットポジション。ここはアトラクションの入り口でお客様のことをお迎えするポジションだからね。最幸の笑顔で気持ちを込めて「こんにちは」って挨拶をするんだけど、なぜ「こんにちは」って言うと思う?」
ここで新人スタッフは改めてなぜ「こんにちは」なのかを考えるんです。
ゲストに「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」と挨拶する理由
「サービス業だから“いらっしゃいませ”でもいいよねでも、僕らは“こんにちは”にしてるんだよね。なんでだと思う?」
そして答えが出なければやってみるんですね~
「じゃぁやってみようか。僕がキャストをやるからゲストとして入ってきてね」
(新人が扉から入る)
(笑顔で)「いらっしゃいませ~」
「……」
「……返して?」
「……えっ、いらっしゃいました(笑)」
「言わないでしょ~(笑)」
「これで分かった?なぜこんにちはか?」
「返せるからですか?」
「そうなんだよ」
僕らがやりたいのは挨拶なんだよね。
挨拶は相手から返ってきて挨拶なんだよ。
僕らが挨拶をして返ってこないものは掛け声って言うんだよ。
「機械化してもいいこと」と「人間がすべきこと」
掛け声でよければロボットでもいいんだよね あえて「手間と時間をかける」ことの本質
僕ら人間がやる挨拶だから返してもらえるような挨拶をしていこう。
例えば、マニュアルで「こんにちは」ってセリフで決まっているからその通りに挨拶してねと、何の為にを考えずに育った新人は最初の頃は一生懸命に挨拶をすると思うんです。
でも、現場が忙しくなると“こんにちは”と言うセリフは言いながらチケットに向かって挨拶をし始めるんです。
掛け声でよければロボットがすればいいんです。なぜ人間がすべきなのかを新人と考えるんです。
だからこそ、当たり前の挨拶なんですが、一緒になってなんで「こんにちは」なのかを考えて、最終的な答えを新人から聞き出すんです。
このようにして手間も時間もかかるかも知れませんが、何の為にやるのかを一緒になって考えさせるような教え方をして、自ら考え行動できるキャストに育てていくことができるんです。
あえて機械化せず、ディズニーが大切にしている「心のこもったおもてなし」について「手間と時間をかけて」一緒に考えるからこそ新人の人の心を動かすことができて、その新人はやがてゲストの心を動かすことができるようになるんです。
チェックリスト実施の本質は「新人の理解度や習得度の確認ではない」
トレーニングの最後には新人キャストとマンツーマンで口頭でのチェックリストと言うのを行います。
トレーニング期間中に教えた項目を一つ一つトレーナーが質問し、新人キャストが答えてチェックして行くのです。
が、ここで重要なことはちゃんと教えたことの理解度や習得度を測るチェックリストではないと言う事なんです。
実は、これは最後の最後にトレーナーが教え残しはないか?
また理解しきれていない箇所があればそこで再度教える時間なんです。
ここがディズニーらしいトレーニングだなぁと卒業した後に気づくことが出来ました。
トレーニングは7割でOK「完璧にトレーニングしてデビュー(独り立ち)させなくてもいい」
現場のOJTでは先ほどもお話した通り最短で3日で行います。
その為、全てのことを覚えることは不可能なんですね。
そこで僕らはトレーニングで完璧にしてデビュー(独り立ち)させるのではなく、だいたい7割でいいと言う風に教えてもらいました。
特にディズニーランドでは一人で行うような業務ではなく、チームで仕事をすると言うことがメインになります。
たとえ7割で現場に出たとしても、一緒に働く仲間が居るのでもしわからなかったり、出来ないことがあってもチームの仲間を頼り、チームでフォローができるようにOJT期間でたくさんの仲間を紹介してあげるんです。
逆に7割で現場に出すことで、自分たちも最初のころトレーニングが終了し、現場デビューした時には完璧でなかった経験があるので、新人は例えトレーニングを受けたとしてもわからない、出来ないことが前提になるわけで、それ知ってチームが受け入れるんです。
こうしてゼロベースが低くなるために、新人がデビューしたらチームみんなでフォローしていこうと言う雰囲気が創れました。
完璧を目指してトレーニングをするのではなく、大切なこと1割が出来てればOK。それ以外はデビュー後に先輩が新人を面倒見るのが当たり前となり、チームに絆が生まれる仕組みがあるんです。


