【最新版】人を大切にする経営「京セラフィロソフィー」 6.理念浸透の壁とその超え方|稲盛和夫さんが説いた経営理念の浸透を事例に、脳科学や心理学で紐解く

人を大切にする経営 京セラフィロソフィー 理念浸透の壁と超え方 稲盛和夫氏が説いた経営理念の浸透を事例に、脳科学や心理学で紐解く 京セラ、KDDIという異なる業種で成功、企業文化が全く異なるJAL再建で奇跡的な成果へと繋がった理由

【この記事で分かること】
 「ウチの従業員、なぜか動かない…」を解決!「伝わらない」を「伝わる」に変える、店長が知るべき経営理念浸透の”人の本音”
 稲盛和夫さんが説いた京セラフィロソフィーを基に、店舗経営における理念浸透の難しさを解説。人は「変わりたくない」という本質的な心理に加え、尊厳欲求に反する指導やリーダーへの不信感が浸透を阻む要因となる。脳科学や心理学の視点から、意識と無意識のギャップ、そして「叱られたくない」「できない人から言われたくない」といったスタッフの心理が、いかに理念の実践を困難にするかを深掘りします。

この記事の目次

稲盛和夫さんが説いた経営理念の浸透を事例、脳科学や心理学で紐解く

人間の本質的な心理:変化への恐れ

 店舗経営において、最も大切なのは「人」です。人間は誰しも「尊重されたい」「褒められたい」「評価されたい」という強い尊厳欲求を持っています。しかし同時に、新しい変化や未知の状況に直面すると、言葉では言い表せない漠然とした不安や抵抗感、すなわち「えも言われぬ恐れ」から変化を拒む心の働きも持ち合わせています。

この「恐れ」こそが、新しい取り組みへの一歩を踏み出せなかったり、行動に繋がらない最大の原因となることが少なくありません。

例えば、新しい接客方法を導入しようとしても、「本当に効果があるのか?」「失敗したらどうしよう」「お客様にどう思われるか不安だ」といった無意識の恐れが、スタッフの行動を躊躇させてしまうことがあります。

潜在意識の壁と稲盛さんの「浸透工作」

 私たちは、意識しているのはたった1%の顕在意識で、残りの99%は無意識の潜在意識に支配されていると言われます。この無意識の壁を乗り越え、スタッフ全員が同じ方向を向き、理念に基づいた行動を自然と取れるようにするにはどうすれば良いのでしょうか。

稲盛さんは、数々の経営課題に直面する中で、人のタイプを「自然性」「可燃性」「不燃性」の3つに分け、それぞれに合わせた「浸透工作」を行うことで、「誰もがやる状態を作り、結局自分だけやらないことが出来ないような環境」を築き上げました。

  • 自然性(自ら進んでやる人): 理念を理解し、自ら率先して行動するタイプ。彼らは新しいことにも前向きで、周囲に良い影響を与えます。
  • 可燃性(たきつければ火が付く人): 自ら動くことは少ないものの、適切な働きかけや刺激があれば行動に移せるタイプ。周囲の成功事例やリーダーの熱意に触発されます。
  • 不燃性(テコでも動かない人): 変化に対して強い抵抗があり、なかなか行動に移さないタイプ。彼らには、より根気強く、個別の働きかけが必要です。

稲盛さんは、これらのタイプを見極め、まず「自然性」の人々に火をつけ、彼らをロールモデルとすることで「可燃性」の人々を巻き込み、最終的に「不燃性」の人々にも少しずつ働きかけるという段階的なアプローチを取りました。

この緻密な「浸透工作」によって、京セラ、KDDIという異なる業種での成功、そして企業文化が全く異なるJAL再建における奇跡的な成果へと繋がったのです。

では、その真髄を紐解いていきましょう。

経営理念浸透の難しさ

 店舗で経営理念を浸透させることは、一見簡単そうに見えて非常に難しいものです。その難しさの根源にある3つのポイントを挙げ、それがなぜ店舗で問題となるのかを考えてみましょう。

難しさ その1:「人は変わりたくない」という本質

「人は変わりたくない」という心理は、店舗運営において新しいマニュアルの導入や接客方法の改善など、変化を伴う際に顕著に現れます。なぜなら、新しいことを始めるのは面倒に感じるだけでなく、無意識のうちに「失敗したらどうしよう」「今のやり方で十分なのに」といった「えも言われぬ恐れ」を抱くからです。

この「恐れ」は、スタッフの行動を止める強力なブレーキとなります。「できない理由」や「やらなくともよい理由」を探し、変化を回避しようとします。

脳科学で言われるように、たった1%の顕在意識では「変わろう」と思っても、99%の潜在意識が変化を拒むため、行動を変えることは非常に困難なのです。

難しさ その2:「叱られたり、矯正されたことはしたくない」という感情

 店長がスタッフを指導する際、「なぜできないんだ」「こうしなさい」と一方的に叱ったり、行動を矯正しようとすると、スタッフは反発心を抱きやすくなります。

人間は誰しも「自分を尊重してほしい」「褒められたい」「認められたい」という強い尊厳欲求を持っています。この欲求に反するような指導は、スタッフのやる気を削ぎ、結果的に「やりたくない」という感情に繋がってしまうのです。

難しさ その3:「できもしない人から言われたことはやりたくない」という反発

 店長が「お客様第一で行動しよう」「笑顔で接客しよう」と理念を掲げても、もし店長自身がお客様への対応がおろそかだったり、笑顔が少なかったりすれば、スタッフは「言っていることとやっていることが違う」と感じます。

そうなると、「できもしない人から言われたことはやりたくない」という強い反発が生まれ、理念は行動に結びつきません。

最悪の場合、「自分にできないことを押し付けるな」と、店長の弱点を突いてきて、理念浸透の妨げになることさえあります。

理念浸透を阻む心理的障壁:変わりたくない恐れと反発

 本記事では、経営理念を店舗に浸透させる上で直面する「難しさ」に焦点を当てました。特に、人間の「変わりたくない」という本質的な心理、そしてそれに伴う「えも言われぬ恐れ」が、行動を阻害する大きな要因であることを指摘しました。

また、「叱られたり、矯正されたことはしたくない」という「尊厳欲求」に根ざした感情や、「できもしない人から言われたことはやりたくない」というリーダーへの「反発」が、理念浸透を阻む具体的な壁となることをご理解いただけたかと思います。

これらの壁は、単なる努力だけでは乗り越えられない、深く根差した心理的な側面を含んでいます。

このように、経営理念の浸透には様々な心理的・行動的な障壁が存在します。しかし、これらの難しさを理解することが、効果的な浸透策を講じるための第一歩となります。

以降の記事では、これらの難しさを克服し、理念を組織に根付かせるための具体的な「コツ」について詳しく解説していきます。

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