中内と柳井、ともに抱く一つの教え
『よい品をどんどん安く』という小売業の永遠のモットーを承継し、自らが実践し、証明する世界に通用する真理
今日、倉本長治も中内功も故人となって久しい。そして両者がつくった商業界もダイエーもない。
鎌倉時代の随筆家、鴨長明が言うように「諸行は無常であり、世のすべてのものは移り変わり、生まれては消滅する運命を繰り返し、永遠に変わらないものはないのだ。
しかし、人は死んでも、遺した真理は生き続ける。
事実、「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」という書き出しで始まる町名の『方丈記』は、名作として後世に残る。そこに、今を生きる我々にも響く教えがあるからだ。

柳井は倉本の教えを、解説を寄せた『店は客のためにあり店員とともに栄え店主とともに滅びる』で「純度の高い結晶のような言葉」「商いの真理」と表現している。
真理はそれを求める人を導き、道を示す。柳井正もまた、中内功と同じように、倉本の思想の中に自らが進むべき道を見いだした男だった。
2005年12月5日、東京都千代田区にあるホテルニューオータニ。政財界をはじめ各界およそ2300人が参集した中内功お別れの会で、柳井はこう惜別の辞を述べている。
「中内さんはいろんな言葉を残されましたけれども、その中でいちばん有名なのが『よい品をどんどん安く』という言葉です。この言葉は小売業の永遠のモットーなのではないかと思います。小売業者にとって、中内さんは一つの目標だったわけです。次に中内さんがどんなことをされるのかということが、すべての小売業者の興味の的だったと思います」
中内と柳井。ともに倉本の教えを実践する同志であった。さらに、「服を変え、常識を変え、社会を変えていく」というファーストリテイリングの理念に見られるように、柳井もまた「商人」であることをめざしている。
では、中内は何を残したのか。その一つに「流通科学大学」がある。中内は流通科学大学創設の想いを次のように述べている。
「かえりみれば、かつての戦争は資源の取り合いが大きな要因となっていました。第一次大戦は石炭、第二次大戦は石油。私たちは、悲惨な戦争を三度と起こさない仕組みを、新しい世紀に向かって考えていかなければなりません。流通を通して、人、もの、情報を交換し、互いに理解しあえば、戦争なんて手段はとれなくなります。流通科学大学は、開かれた大学として、また科学としての流通を、解明していこうと考えた結論です」
こうして1988年春に流通科学大学は兵庫県神戸市に開学。かつてこの地には、坂本龍馬が塾頭を務めた神戸海軍操練所があった。武家社会では卑しまれていた「利」を評価し、経済的な利益こそが社会を動かすことを熟知した志士であった。「もうからぬ商売を恥じよ」という倉本の言葉を愛した中内が、神戸を選んだ理由かもしれない。
こうした中内の志は、じつはもう一人の男によっても引き継がれている。倉本が熱弁をふるって商人に道を説いた「商業界ゼミナール」で若い頃に席を並べて学びあった友、イオンを男、岡田卓也である。中内の死後、イオンはダイエー再建に取り組み、2014年には子会社としたことは記憶に新しい。
同じく倉本の弟子の一人、岡田卓也の物語については次回へ譲ろう。
店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる 倉本長治の商人学
笹井 清範 (著), 柳井 正 (解説)

【解説】柳井正 ファーストリテイリング会長兼CEO
【発行】2023年9月15日
【価格】1980円(本体1800円+税)
【発行】株式会社プレジデント社
【体裁】四六判/256頁
第一章 損得より先きに善悪を考えよう
第二章 創意を尊びつつ良い事は真似ろ
第三章 お客に有利な商いを毎日続けよ
第四章 愛と真実で適正利潤を確保せよ
第五章 欠損は社会の為にも不善と悟れ
第六章 お互いに知恵と力を合せて働け
第七章 店の発展を社会の幸福と信ぜよ
第八章 公正で公平な社会的活動を行え
第九章 文化のために経営を合理化せよ
第十章 正しく生きる商人に誇りを持て
執筆には、倉本が興した出版社・商人育成機関の「商業界」で長年にわたって商人の話に耳を傾け、現場・現物・現実に向き合い続けた筆者が取り組んだ。
25年超4000社以上の取材を通じて出会い、学んできた商人たちのエピソードや教えを紹介しつつ、100篇の名言が意味するところと、事業や仕事への活かし方を解説している。
道徳観の欠落した商行為がたびたびメディアを賑わせる昨今。本書は混迷の時代に欠かせない羅針盤であり、すべての経営者が従業員とともに共有すべき “原理原則”を凝縮した。
※専門家がお話を伺い、課題解決をサポートします。

