
現場で活かす!理念の「浸透工作」実践五箇条
「経営者がただ一人確信すれば経営は50%成功する。そして、社員と共有できれば成功確率はさらに30%高まる」と松下幸之助さんは述べています。この言葉が示すように、理念が社員と共有されてこそ、ビジネスの成功が確実なものになります。
理念を組織に深く根付かせるためには、まず経営者自らが模範を示すことが最も重要です。「自分ができないことを他人に要求するな」という批判を避けるためにも、まず模範を示すことで反論の余地を与えないことが不可欠です。
こうした経営者の姿勢こそが、日々の現場で理念を浸透させるための土台となります。ここでは、店舗経営に関わる皆さんがすぐに実践できる、理念の浸透方策を5つご紹介します。
1.経営者自らが伝える「経営理念研修」
理念が浸透するには、まず活用する社員が内容を十分に理解し、「これで生きたい」「こうありたい」と心から思ってもらうことが大切です。そのために、まずは経営者自らが講師となり、勉強会を始めましょう。最終的には、店舗の店長やリーダーがメンターとなり、理念を社員に浸透させていくことが重要です。
2.実務で血肉化する「各経営局面での当てはめ」
実務上の指導をする際に、常に経営理念に基づいて「こうすべきだ」「こうあるべきだ」と説明することを心がけましょう。これは、社員が全ての業務において理念を当てはめ、やがて無意識にそのような行動がとれるように、実務で血肉化していくための重要なプロセスです。
3.日常の習慣にする「手帳による確認」
経営理念は、手帳など携帯できる形で常に確認できる状況を作ることが有効です。各人が自らの責任において、隙間時間に手帳で理念を確認し、体に染み込ませる努力をすることで、日々の行動に落とし込んでいくことができます。
4.主体性を育む「自主勉強会」
勉強の効果は、自主的なものであればより効果的です。理念に心から賛同した人たちが、気の合う仲間と自由に勉強会を作り、互いに研鑽を深めることが効果的です。JALの復活劇の大きな要因に、経営理念の自主勉強会が至るところで立ち上がり、浸透スピードが一気に加速したことが挙げられます。
5.全社で知恵を共有する「懸賞論文」
京セラでは、自由参加で懸賞論文を募集しています。自分の好きな理念と体験談を論文形式で募集し、優秀作品を文集として出す試みです。なんと社員の約60%が参加するとのこと。役職の高さや業務内容に関係なく素晴らしい作品が出てくるそうで、深い学びにつながるといいます。
理念を「事業」に落とし込む活用事例
稲盛和夫さんのもとで学び、会社経営や公認会計士として企業に携わってきた経験から生まれた、どの企業でも実践しやすい理念経営の定義をご紹介します。
- 経営とは「社会の構造的な欠陥を事業で解決する」と定義
- 顧客とは「その構造上の欠陥のうち、共通の不都合を抱えている方」と定義
この定義を用いることで、店舗経営の現場では、顧客の困りごとを解決する商品やサービスの設計・提供を通じて、社会貢献、顧客貢献、そして社員貢献を実現するという明確な目的を持つことができます。自社が対象とする顧客は誰なのかを深く探求することで、あなた自身のビジネスにおける「啓示」を引き寄せることにつながるでしょう。
現場発!自ら考え動く組織のつくり方
今回は、経営理念を単なるスローガンで終わらせず、日々の「現場」で実践することの重要性とその具体的な方法を解説しました。
顧客対応で難しい判断を迫られたとき、「お客様を第一に考える」という理念があれば、一人ひとりが自律的に最適な行動を選択できます。この積み重ねが顧客満足度の向上につながり、結果としてリピーターの増加や売上の向上に直結していくのです。これは、経営者やリーダーが、日々の業務における判断基準を明確に示し、社員がそれを体現するための環境を整えることで実現します。
最後に、稲盛さんが浸透のために社員へ伝えた重要な言葉を紹介します。
「私はこの通りにしたいので全力で経営理念を目指します。しかし、自分ではやっているつもりでもできていないことがあると思います。その際は遠慮なく注意してください。改めます。」
このような宣言をすることで、経営者と社員が同じ土俵でお互いに追求できる土壌が生まれます。これは特別なことではなく、身近な方法です。理念経営の実践は、顧客満足度や売上といった目に見える成果だけでなく、従業員の成長や組織の活性化という見えにくい成果ももたらします。
「見えない成果」をどう評価する?
理念は、ただ掲げるだけではなく、その実践が適切に評価されて初めて、組織に深く根付くものです。こうした目に見えない成果をどのように「評価」すればよいのでしょうか。次回の連載では、理念経営の「評価」というテーマに焦点を当てていきます。

