佐藤勝人の実践的リーダーシップ論 16.部下に任せて結果を出すための、リーダー自身の感情コントロール術【前編】

佐藤勝人 実践的リーダーシップ コミュニケーション サトカメ 勝人塾 商業経営コンサルタント 部下に任せて結果を出すための、リーダー自身の感情コントロール術|「感情の壁」を乗り越え、「任せる勇気」で現場を動かす秘訣 自律性と自立性の違い

【この記事で分かること】
 「感情の壁」を乗り越え、「任せる勇気」で現場を動かす秘訣
 令和のリーダーシップでは、部下の「自律性」(自ら考え行動する力)を引き出す「任せる勇気」が不可欠です。しかし、これを阻む最大の壁はリーダー自身の感情だと言えるでしょう。本記事では、その感情の正体とコントロール法を解説します。感情を制し、部下の「自律」を促すことで、店舗の現場力と未来を拓くリーダーシップの極意を紐解きます。

この記事の目次

令和時代のリーダーシップと「感情」という最大の壁

 これまでの連載で、私たちは令和時代のリーダーシップが、単なる指示命令ではなく、部下との円滑なコミュニケーション、傾聴、そして何よりも「共感」を基盤とすることの重要性を説いてきました。

特に前回の記事では、「パワハラと言われたくない」「部下との距離感に悩む」といった現代の店長・経営者が抱える課題に対し、「共感」が新時代のリーダーシップに不可欠な要素であることを強調しています。

リーダーシップの鍵:自律性と感情の課題

 しかし、頭で理解していても、実践は難しいものです。部下が自ら考え、行動し、成果を生み出す「自律性」をいかに引き出すか。

ここで言う「自律性」とは、自ら規範を立てて行動する主体性を指し、他者に頼らず一人で物事をこなす「自立性」とは一線を画します。その鍵を握る「任せる勇気」を阻む最大の要因、それは他でもないリーダー自身の「感情」なのです。

今回は、これまでの連載を振り返りながら、部下を「指示待ち」から「自律型」へと変貌させるための、実践的なリーダーシップの究極の要である「感情のコントロール」について、その本質と具体的な方法論を紐解いていきましょう。

リーダーシップを阻む「感情」の正体

頭では分かっていても、なぜできないのか?

「うちの部下は、どうしてこうも指示待ちで受け身なのだろうか」――多くのリーダーが抱えるこの悩みは、第9回の記事でも取り上げました。

その根底には、リーダー側の「任せ方」や、部下を信じる「信頼」の欠如が少なくありません。そして、「任せる」行為を阻む最大の要因こそ、リーダー自身の「感情」です。

「何をやっても、どんなにビジネス書で勉強しても、結局は自分の感情が邪魔をして、「大丈夫か?困っていることはないか?」と聞けない。素直に部下に寄り添えない。頭では分かっているのにできない」。

なぜできないか?それは、部下との「距離が近い」からに他なりません。普段から一緒に働く仲間だからこそ感情が邪魔をするのです。

近すぎる距離が生む感情の弊害

 例えば、私がコンサルタントとして月に一度しか会わない支援先には、客観的に良い点を見つけ、素直に褒め、共感的に話を聞くことができます。

しかし、毎日顔を合わせる自社の人間、特に長年共に働く部下に対しては、「私だって難しいよ、それは。『お前いい加減にしろよ。何十回同じこと言わせるんだよ』って時にはイライラするからね(笑)。」この「身内意識」(第3回)が、リーダーの冷静な判断や行動を妨げるのです。

リーダーが細部にわたり指示を出し、常に監視する「マイクロマネジメント」に陥るのも、部下への不信感や、失敗への恐れといった感情が根底にあることが多い。結果、部下は自ら考える機会を失い、責任感も育たず、言われたことしかできない「指示待ち人間」が量産されてしまいます。

感情をコントロールする「人間力」の磨き方

 では、この厄介な「感情」を、リーダーはいかにコントロールすれば良いのでしょうか。そこには、リーダーの「器」や「人間力」が試される、非常に高度なスキルが求められます。

内なる感情との対話:自問自答の習慣

 まず重要なのは、自分の感情に「気づく」ことです。

イライラや不安を感じた時、反射的に部下を責めたり、自分で抱え込んだりするのではなく、一歩立ち止まって「内心では『何に対してイライラしているのか?』を自問自答する。相手の感情を察しながら自分の感情にも素直に接すること」が重要です。

感情の裏にある本当の原因を探ることで、冷静に対処する糸口が見つかります。これは、第11回の「客観視する」姿勢にも通じます。

相手の感情と自分の感情への「素直さ」

 部下の感情を察しながら、同時に自分の感情にも素直に向き合うことが大切です。「そうだね、うんうん」と傾聴しながらも(第12回)、内心では自分のイライラを認め、それをどう処理するかを考える。この二重の視点を持つことで、感情に流されず、建設的なコミュニケーションが可能になります。

部下はリーダーの言動を常に見ています。感情的なリーダーは信頼を失いかねません(第14回)。自分の感情をコントロールし、一貫した態度で接することが、部下との信頼関係構築の第一歩なのです。

意識的な練習と自己成長への投資

「それは器が試されるというか、人間力が試されるというか、かなり高度なことだとは思う。でも、意識して練習すればそれができるようになる人だからこそ、皆さんはリーダーに抜擢されているわけです。自分で自分のポテンシャルを信じて、ぜひ頑張ってトライしてほしいです」。

ある意味、自分の感情をコントロールすることこそが、『実践的リーダーシップ論』の究極の要かもしれません。リーダーシップとは『リーダーが自分の感情をコントロールすること』と見つけたり。

――これが、このシリーズを通して私がたどり着いた一つの境地です。

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